配信! 妖怪レース的中の魔!
「あ、始まりましたよ社長」
「ん、どこみればいいの?」
「あそこのカメラです。どうも皆さんおはようございまーす! 桜花牧場広報の山田でーす」
「どもー、桜花牧場社長の鈴鹿でーす」
俺と山田君の二人でカメラに向かって手を振る。今日は以前から計画していた生配信の本番当日だ。
案件を依頼してくれた企業さんたちから山田君はとりあえず目立つ配信をよろしくお願いしますよと頼まれたらしい。
なので、俺は自重せずに歴史に名を残そうと思う。全レース的中配信だ!
「というわけで、今回の生配信は鈴鹿社長と一緒に競馬を観戦しようって企画です」
「俺と見て楽しいの?」
俺らが着席している長机の両脇にあるタブレット端末にコメントが流れてくる。
便利な世の中になったもんだ。
『楽しいに決まってるよなぁ?』
『馬券買う時にどんなこと考えてるか教えてください』
『見学ツアーどうだった?』
「うわ、コメント多すぎて読み切れないわ」
「答えてほしいコメントは裏で大塚さんがまとめてくれるんで、社長は手が空いたときに見てください」
「あい、了解。大塚さんよろしくねー」
大塚さんがカメラの向こう側から笑顔で小さく手を振ってくれる。
その隣にいるバイトで雇った島の高校生たちはドタバタやってるけど。お兄さんたち詳しいこと分からないから頼むよー。
「では社長、今日のレースについてお願いします」
「はーい、今日のメインレースはG3のアイビスサマーダッシュ。距離1000メートルの日本では珍しい直線競走です。
新潟競馬場で行われるレースで、レース名のアイビスは新潟の県鳥のトキの英称から取られています。
先ほど言いましたように1000メートルの直線を走るのでレースとしては稀有な大外が有利な競走になってます」
『アナウンサーみたいで似合ってんな』
『意外と顔いいからな社長』
『なんで有利なの?』
「あ、質問が来たので答えますね。
メインレースは通常、最終レース一つ前になってます。これは帰りの電車が混まないようにだとか出走メンバーが集まらず定員割れを起こした際に別レースに割り振ったりするためですね。
では、10レースもしくは11レースを走るとどうなるか。内埒、つまり芝の内側がレースのダメージを受けたままボロボロになるんです。
一応、スタッフがレースとレースの間に補修したりするんですけど全てを補修はできないので大抵ボコボコの状態でレースが始まります。
それでもコーナーを回るには最内をつくのがベストなんです。回りながらスピードをあげると膨らんじゃって外に広がって走る距離が延びますから。これが通常のメインレースの話。
しかし、アイビスサマーダッシュは千直。スタートからゴールまでコーナーはありません。もうお分かりですね?
荒れた内よりほとんど馬が通らない大外のほうが芝が綺麗で走りやすいんです。
だから大外有利なんですねー。お分かりいただけましたか?」
大塚さんにアイコンタクト。サムズアップが返ってきた。競馬に詳しくない大塚さんが理解できたなら大丈夫だろう。
テーブルに置いてある飲み物を飲む。炭酸だわ。つかコーラ。
「あ、社長が今飲んだのがパプシ・コーラさんからの提供で新発売の強炭酸コーラです。おいしいんで皆さん買ってくださいねー」
山田君が愛想よく手を振る。
「スポンサードの品物をそんな雑に紹介していいの?」
「おいしかったですよね?」
「うん、夏に飲むにはいいと思う」
「じゃあ大丈夫です」
ホンマかいな。グビグビと一気飲みして机下のゴミ箱に入れる。
『いい飲みっぷりで草』
『強炭酸なのに一気飲みするのか』
『社長が丈夫なのか炭酸がそんなに強くないのかどっちなんだ…?』
「あ、炭酸すっごいキツイよ。俺が頑丈なだけ」
『コーラを全身から取り込んだ奴は格が違った』
「うるへー! あれやった後の数日間、体臭が凄い甘かったんだからな!」
「レジェンにめっちゃペロペロされてましたね」
山田君が思い出したように笑う。
『レジェンの日常とか聞きたい』
『レアシンジュが遊びに来てるってホント?』
「あー、質問に答えたいところですが先に第1レースの投票受付が始まりましたのでそちらを先にお願いします」
「はーい。みんなは馬券買う準備できたかな? 俺たちと一緒にパドックを見ていきましょう」
『はーい』
『目指せ12レース的中!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はい、ただいま10レース的中です」
「皆さん5レース辺りからドン引きでコメント減ってきてますよ」
「目指せ12レース的中だから俺は悪くないもん」
途中、アイス食べたり新作の競馬のゲームをオススメしたりしながら迎えた新潟競馬11レースのアイビスサマーダッシュ。今年は十三頭立てだが直前で一頭除外になったようだ。
そして、ここまで無敗十連勝中の俺。魔法の手帳で答えを知ってるから当たり前なんだがな。
『目の前でやられるとやっぱ引くな』
『全部一千万三連単一点掛けなのがマジでサイコ』
『怖いって感情を久しぶりに覚えた』
「散々言われてる」
「だって超能力のそれですよ?」
「自覚はあるけども」
ちなみに、ここまで掛けてきた払戻金は四十二億。夏はやっぱり配当が付かないね。
「山田君、どれ買うか決めた?」
「はい、もう買いました。社長は買われましたか?」
「うん、同じく一千万掛けたよ」
配当が少ないからドカッと掛けないとね。
『この配信見てると金銭感覚が麻痺してくるな』
『冷静に考えて千三百二十分の一に一点掛け一千万は狂ってる』
『トリッターでトレンドずっと独占で笑うわ』
「カメラマンで雇ってる島の高校生がドンドン真顔になってるのが面白いですね」
「まともな金銭感覚してるね、こんな大人になっちゃ駄目だぞ」
いや、本当に。俺はズルしてるから大胆に行けるだけでこんな馬券の買い方したら破産するからね。
「じゃあ、山田君。買い目をよろしくお願いします」
「はい、まず軸に11番のラッキードリーム、2番のライコーセイウンを持ってきて。10番と8番の調子がよさそうだったんでボックス買いですね。
11番は斤量が51キロで最軽量だったので買いました。2番は文句なしに仕上がってるからです」
「真面目な買い方だねぇ」
「やっぱり51キロの斤量は大きいと思うんですよね」
「ご視聴の皆様に説明すると、大体1キロ差で一馬身の開きが出るってのが通説です。つまり次点で54キロの斤量の馬しかいないので大体三馬身ぐらいの差が出ます」
『へーそうなんだ』
『だから減量措置のある新人が未勝利戦とかに呼ばれるんやで』
『ヨッシーみたいなバッチバチのモンスタージョッキー以外は新人の時に減量措置ないとまず乗せてもらえなくて食ってけないからな』
「そうなんだよねぇ、G1とかってやっぱ凄腕ばかりが乗るからメンツが固定みたいなとこあるよね」
『せやろか(六年目重賞未勝利起用)』
『ほんまか(G1初乗馬で一着)』
『こいつは嘘をついてる味だぜ!』
なんか、もしかして俺って視聴者にも信用されてない?
ーーーーーーーーーーーーーーー
『さぁ、一完歩二完歩グングングングン突き進む! ハナを突き進むのは2番のライコーセイウンだ! そのわずか後ろにはラッキードリームとダイチシップウにハネノコビト! 先頭争いはこの四頭で決まりか!? 残り1ハロンで4頭と後ろの差は2馬身! もうこれは四頭で決まりだ! 依然としハナを進むのはライコーセイウン! 速い! この馬は速い! ジワジワと後続を引き離し! 決勝線に到達だ! 一着はライコーセイウン! 走りづらい内で見事に逃げ切りました! 二着はラッキードリーム!』
「あ、僕当たりました」
「おめでとう」
パチパチパチと拍手をして山田君の的中を祝う。
「結果は一着2番、二着11番、三着10番ですね。えー、払い戻しは二千百四十円です。社長?」
ニッコリ笑って自分のスマートフォンを見せる。そこには的中の二重丸が。
『怖い、怖いよぉ!』
『合計いくらだよ…』
『今回の含めたら四十四億。バケモンですわ』
『そんなに稼いでどないすんねん』
「あー、桜花島にホースパーク作ろうかと思って。それのお金を貯めたいなって」
「はぁ!? 社長! 僕たち聞いてないですよそれ!」
『い つ も の』
『学習してないの草』
『すずかー、タイキックー』
「待て! まだ企画してる段階だから相談してなかっただけだ! 構想の段階だから! 黙ってたわけじゃないから!」
『命乞いしてて草』
『あの蹴りマジで痛いんやろなぁ…』
『社長の構想したホースパークが気になりすぎるわ』
「えーと、とりあえず当座のお金も溜まったのでこれから会議にかけて構想を形にしていきます。なので皆さんに発表できるのは結構先かなーって」
「本当に何も決めてないみたいでよかったです」
「流石に学習したからね!」
なんで皆でしらーっと見つめてくるんだ?
特にバイト組の子たち。
「気を取り直して12レース行きましょう」
なんか誤魔化されたな。まあいっか。
ん? 大塚さんがカンペに何か書いてる。
「えー、最後はドカンと行きましょう…。だって」
「なんか大塚さんも狂ってきてません?」
「いや、俺の話聞いて金勘定がマイナスにならないように稼いで欲しいだけだなアレ」
「せっかく黒字になったばかりですからねー」
この後、12レースも的中させてトリッターが大盛り上がりになり。配信も好評のうちに終わって、案件を受けた企業からは新商品の売れ行きがいいと感謝の言葉を貰った。
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