第3話


 急いで作業着に着替えてアパートを出る。


 ううぉぉ、めっちゃ寒いじゃないか!


 外はまるで冷蔵庫の中のように寒い。



 それに‥‥‥。



 ‥‥‥ここはどこだ??




 そこには見たことのない景色が広がっていた。



 ん?あれはもしかして、木?

 小学校の時に教科書で見たような。


 あ、あれは草か!


 おー!すごい!花まである!


 そう、俺の暮らす地下にはいわゆる、植物と言うものはない。

 街全体がコンクリートだけで出来ており酸素も薄い。



 大きく息を吸うと、限りなく肺に入っていく感覚。


 うわ〜〜、なんだか空気が美味しい〜。

 

 ‥‥って何言ってんだ?空気に味もなにもないだろう。


 どうやら頭もおかしくなったようだ。


 しかし、どうやって現場に行けば‥‥。


 ところでトンさんや他の作業員はいるのだろうか。辺りを見回して見ても人らしき人はいない。


 もしかして俺だけの世界?

 一人ぼっちなのか!


 急に焦りだした俺は右も左も分からぬまま、とにかく人を探す事にした。


 わっ!これはなんだ?


 黒くて小さい豆のようなものが飛んでいる。


 しかし、妙な形してるな。


 そうか、これは多分虫と言うものだ。


 実を言うと俺は小中高皆勤賞で成績優秀だったのだ。


 それが、こんな容姿のせいで社会に出れば成績なんて関係なくてみんな容姿がいい人ばかり優遇する。


 っと話が逸れてしまったが、俺は頭の中にある教科書からまるでページを捲るように思い出していた。


 他にも色々な虫に出会えたが、肝心の人には会えないまま。


 道端で狼狽えていたその時だった。



 頭の後ろら辺から何やら暖かい空気のようなものを感じた。

 似た感覚を俺は知っている、それはライトだ。


 俺の暮らす地下ではライトが必須だ。

 街全体にライトを当てているのだが、それにすごく似ていた。


 俺は無意識に視線を後ろに向けた。


 すると、


 わぁ!!なんだこりゃ!!


 まるで目が焼けるように痛い。

 眩しい!これは超巨大なライトだ!


 そう思ったが、先ほどまでの状況から判断した俺はある結論に辿り着いた。


 これはライトじゃない、太陽だ。



 そしてここはきっと地上だ。



 俺は今地上に来ている!


 本当に地女に会えるんだ!


 俺は期待に胸を膨らませ、まるで子供のように興奮していた。

 

 先程まで寒かったのに太陽が現れた事で暖かくなっていた。


 今度はぽかぽかするなぁ。


 気持ちよくてまるでお母さんのお腹にいた頃を思い出すなぁ。

 覚えてはいないが、きっとこんな感じだ。

 俺は今にも眠ってしまいそうだった。



「あのぅ、どうかしましたか?」



「わぁ!!ビックリした!!」


 突然後ろから声がし、驚いた俺はつい目を瞑ってしまった。


「ふふっ、大丈夫ですか?」


 それは女性の声で、とても優しそうな、ふんわりしたような声だった。


 俺は恐る恐る振り返り、目を開けてみると、そこに立っていたのはまるで‥‥天使、いや天女とも言えるだろう、言葉では言い表せないくらい綺麗な人だった。


「‥‥あ、あなたは」


 俺は精一杯声を絞り出し言った。


「ただの通りすがりですけど、おかしな人がいるなーって思って声かけたんですよ」


 その人は微笑んでいた。

 気付けば俺もつられて微笑んでいた。


「ふふっ、さっきまではしゃいだり、ぼーっとしたりしてたのに、今度は笑ってる。面白い人ですね」


 俺がその人に見惚れていると、何やら辺りが騒がしくなってきていた。


「あ、いっけない、ラッシュ始まっちゃう!では、またどこかで!」


 そう言いながら長い髪を靡かせて小走りで去っていく女性。


 これが地女か‥‥。


 最高じゃん!!




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