第7話 雲の先には
「であるからして……」
訳の分からない言葉の数々が頭上を飛び交う。
講師の言葉に耳を貸すものは少なく、それに本人も気づいているだろう。
将来は使わない世界の歴史の知識。それを無視して先ほど配布されたプリントを丁寧に折る。
パリパリとした質感のそれは一度折ったらその線を無くさない。
一つ一つの線を繋げて、さらに重ねる。
「────」
講師の声はさらに続く。
「織田信長はこうして生涯を終え──」
それを無視し続けてやっと完成されたそれは、割といい出来栄えだった。
それは、紙飛行機。
何度も折りたたまれた薄い紙は立体的な紙飛行機になった。
「なにやってんの?」
後ろから誰かが背中をつついてきた。
「あー、紙飛行機つくってた。あとで窓から飛ばしてやろうかと思って」
クスクスと後ろの座席の友達は小さく笑って、
「んじゃ、俺も作る」
そう言って作業に勤しんだ。
長く、つまらない話はやっと終盤になり、学校中にチャイムの鐘の音が響き渡る。
号令によって授業は終了し、僕たちが主人公の時間になる。
「じゃ、飛ばそーよ」
「おう、見ろよ俺の紙飛行機。超クールだろ」
そう言った友達が手に持つ紙飛行機は、何度も折られ、重ねられてクシャクシャになっていた。
けど、飛行機に見えなくもない。
しかし確実に飛びはしないだろう。
「なんだそれ、めっちゃクシャクシャじゃん」
そう笑って2人で窓際に移った。
ガラリと窓を開けると、涼しくなった教室内の空気が、ぶわっと暑い外に逃げ出した。
代わりに教室の中へと熱せられた空気が侵入して、クラスメイトたちの反感を買ったが、しかし、彼らは僕達の手に持つモノを見て、面白そうに見つめてくる。
そうして僕はこう告げた。
「せーので行くぞ」
「まかせろ」
じゃあ。と付け足して、2人揃って紙飛行機を持つ手を構える。
そして──
「せーーーのっ!!」
グッと手を外へ向かって押し流す。
パッと離した手からプリント製の紙飛行機が空へ飛び立つ。
おぉー。
そんな声が教室内から聞こえた。
入道雲の上に昇る、眩しい太陽に向かって、飛行機は進んでいく。
青い空に進むそれは異様だけど、
キレイに折られたそれと、クシャクシャになったそれは、
進んで、
さらに進んで、
やがては──
勿忘草 ~忘れないあの日、今を駆ける風~ きむち @sirokurosekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勿忘草 ~忘れないあの日、今を駆ける風~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます