第6話 切って、その後から先へ

ガシャ。


機械的な音が小さく響く。


夜闇をほのかに白く照らす街灯に向けて、もう一度。


ガシャ。


シャッターを切る。


目の前に映る光景を1枚の記憶に写し出す。


「ふぅ──」


吐き出す息は白く、やがて消えていく。


手に持つ四角い安っぽいカメラをケースにしまう。この作業は丁寧に、かつ素早く。


冬夜の凍てつくような冷たい空気が頬を刺す。

白く光を纏う月は、街に暗い光をもたらす。


昔から、写真を撮ることが好きではなかった。

正しく言うなら、写真を撮ることに意味が無いと感じていたのだ。


いつからか時間の流れは急速に早くなった。


自分は時間に取り残され、人々は目まぐるしく行き交う。そんな世界に、呆れにも似た感情を覚えてから、僕は写真を撮るようになった。


それが暖かい春でも、それが暑い夏でも、それが涼しい秋でも、それが凍えるような冬でも。


なぜ僕が写真という世界に逃げ込んだのか、その理由は確定できないけど、ひとつ思い当たる節がある。


「っし……」


ズボンのポケットからスマホを取り出す。


電源をつけて、写真フォルダを開く。


そしてグングンと時間を巻き戻して、過去の写真へと辿り着く。


そこにあったのは、高校生時代に、友達と撮った少ない数の写真だった。


友達とふざけあってる写真だったり、恋人との写真、どこかに遊びに行った時の写真。

あまり数はないけれど、どれもこれも、その時の記憶が見る度にスっと蘇るのだ。

楽しくて、どこか切ない、そういう記憶だった。


そこに、きっと何かを感じたのだ。


疲れていたのかも、しれない。


一昨年、僕が20歳になった頃からだった。

中古のカメラを買って、それからその安っぽいカメラを肌身離さず持ち歩いて、何かがある度、何かを見る度に、これでもかと言うほど何度も何度もシャッターを切った。

その機械音がずっと頭に響いてるぐらいに。


自分の色のない生活に嫌気がさしたのかもしれないし、どこか心の中で、『今』という自分が過ごした時間を留めておきたいと思っているのかもしれない。


今でさえ、写真を撮ることに意味を感じてはいない。


けど、その瞬間だけ、自分の青春が『今』だと感じられるのだ。


バカバカしいにも程がある。

けど、僕にとってカラフルだった高校生の記憶と、写真を撮る今の僕の記憶が重なって、と思える。


意味の無い、ことだけど。


僕は写真を取り続ける。


スイッチを押して、シャッターを切る。もう一度、切る。


簡単な繰り返し、複雑な記憶の中に、の僕の青春があるのだ

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