第4話 炎天下、碧く白い制服

大きく息を吸って、地面を蹴飛ばした。


自分の体はふわりと宙に浮いて、強い陽射しが僕の身体を照らす。


遠く彼方に登る、大きな大きな入道雲。


うるさいぐらいに耳に刺さる蝉の鳴き声。


真下に煌めく、薄く青に染められた透明の水。


やがてそこに──


「おぉーー!!」「ガチで行った!!」「すげぇ!!」


水しぶきと白泡を飛ばして落下する。


ゆっくりと目を開け、瞳に水が流れ込むのを感じる。


ぼやけた景色は、やがて澄んで新しい世界をさらけ出した。


夏の暑く眩しい陽射しに照らされた水面から、光がベールとなって降り注ぐ。


強く輝くその水中には、しかしなぜか優しい柔らかさがあった。


口に含んだ空気をゆっくりと吐き出す。


空気は細かいいくつかの泡となって宙に登る。


永遠とも、思えた。


その光景、感覚のその全てを、今でも覚えているのだ。


夏の空の下に輝く白い制服。


僕達は笑いあってプールに飛び込んだ。


普段はサラサラと肌触りの良いそれが、水中ではベッタリと肌にまとわりつく。

しかしそれを不快だと感じなかった。

いや、むしろとても心地よかった。



高校3年、炎天下の夏。

僕達は学校のプールに忍び込んで、制服のままそこに飛びこんだ。

何か思い出を作れないか。そう考えて僕達は行動を起こした。

気づいてしまったのだ。

もう、これが高校生最後の夏だと。

いや、全ての日常が、高校生の最後だと。


気づいたら、胸がしまった。


中学生の時には気づかなかった煌めき、楽しさ、美しさ。その全てを分かるようになったのだ。いや、なってしまったのだ。

だからこそ大人になってしまう実感と、その思い出の大切さに気がついた。


陽炎が揺れるコンクリートに、熱さを盛り上げる蝉の声。

頬に当たる風、碧に立ち上る入道、煌めく水面、立ちくらみそうな陽射し。


この描写一つ一つを絵に残したい、胸にしまいたい。永遠に続けたいと思った。


「シュウ、何ぼっとしてんの」


「……水気持ちぃな」


「そうだな」


そう言って肌に濡れた制服をまとわりつかせ、僕達は笑った。


綺麗な思い出じゃなくていい。

汚い思い出でもいい。


最後の最後には良かったと思える青春を過ごしたいのだ。


高校生3年最後の夏。


炎天下。


碧い空に入道が立ちのぼる下。


熱く眩しく煌めく陽射しに照らされる水面プール


僕達はで飛び込んだ──

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