20話「女神は寄生型の魔物に恐怖する」

「こんの馬鹿者がぁぁぁあ!!!」

「ひいいッ!! ごめんなさぃぃぃ!!」


 俺の大きな罵声がヴィクトリアに向けて放たれると同時に、地面の穴ボコから大量の蠍みたいな魔物がわらわらと押し寄せてくるように這い出てきた。


「うわっ! 気持ち悪いなこれ……」

「確かにこの光景は苦手ですわ……」


 ユリアとパトリシアも大量のスピルコンを見て、引きつった表情でそんな事を言っている。

 そしてジェームズとミアだが、二人は見事な連携で周りに群がり始めているスピルコンを退治している状況だ。


「クソッ。ジェームズ達だけに荷を背負わせる訳にはいかんぞ! お前達、ゴールドランクの力を見せつけるぞ!」

「「「おうっ!!」」」


 馬鹿女神のせいで作戦も段取りもあったものではない。既に場は大量のスピルコンが占領していて、俺達は寄生されないように飛びかかってくる奴を剣や魔法で払うことしか出来ない。


「あとヴィクトリアはヘイトスキルを維持したままそこで立っていろ。不意を付いて俺達が殺る」

「えっ。それって一番危険な役目なんじゃ……?」

「お前がこの事態を招いたんだろうが! 責任ぐらい取れよ!」


 取り敢えず即席で思いついたのは、ヴィクトリアがヘイトを維持してその横から俺達がスピルコンを殺るという姑息な手段ぐらいだ。


 更に俺の横では先程からジェームズ達がスピルコンの群れの半分を相手にしてくれているから、こっちはまだ動ける余裕がある。


「おいパトリシア、ユリア! 一応あの馬鹿が寄生されないように不意を突いてスピルコンを始末してくれ! 俺は今から装甲を纏う!」

「承知しましたわ!」

「了解した!」


 二人に指示を飛ばすと俺は直ぐに装甲を纏う為に例のアレの言葉を叫ぶ為に脳をフル回転させた。まったく、本当に面倒い仕様ったらありゃしないぜ。


「行くぞ装甲! 我は宣言する。我が身に向かってくる一切の魔物をこの装甲にて両断するとッ!!」


 その台詞と共に装甲を纏うと俺は、一目散にブレードを引き抜いてヴィクトリアの大盾に群がっているスピルコンを次々と切り伏せていく。


「あぁぁ!! 寄生されちゃいますよぉぉぉ! こんな終わり方はいやですぅぅァァァ!!」

「大丈夫だヴィクトリア。ギリギリだが何とか俺達三人で捌け切れる量だ。だからそのままスキルを維持してろ!」


 大盾に身を隠しながら半泣き状態のヴィクトリアは、相当スピルコンに対してビビっているらしい。恐らく寄生するという単語がヴィクトリアの恐怖心を引き立てているのだろう。

 

 だがこの即席の行動は功を成したのか、意外にも何とかなっている状況だ。

 俺とパトリシアが飛びついてくる奴らを斬り伏せて、打ち漏らしをユリアが新しい魔法で次々と駆除している。


 ちなみにユリアの新魔法は結構えげつなくて慈悲がない。


「はははっ! どうだスピルコン共よ! 四肢が爆散するのはどんな気持ちだぁ? ああ、人の言葉が喋れないのが残念でならないな」


 そうなのだ、目の前で次々と打ち漏らしのスピルコンが足や長い尻尾を爆発で飛び散らせるのだ。これは人には使えいない魔法だろう。というか絶対に使ってくれるなと思う。

 

 ドSサド賢者もここまでいくと誰も止められる気がしないな……。


「あ、見てくださいユウキ! 残りのスピルコンが次々と穴の中に戻っていきますわ!」


 パトリシアが剣の先をスピルコン達に向けて言うと、確かに奴らは巣へと戻るように地面の中へと戻っていく。

 おかしい……ヴィクトリアのヘイトスキルで必ずこちらに向かってくる筈なのに。

 ということは考えられる事は一つだな。


「おいヴィクトリア! ヘイトスキルちゃんと使えよ! スピルコン達が穴の中に戻っていったぞ!」

「ちゃんと使ってますよ! 何でそういつもユウキはクエストに行くと私に当たりが強いんですか! 少しは労いの心を持ち合わせ下さいよ!」


 ヴィクトリアは俺の言葉を聞くと即座に大盾から顔を覗かせ睨んでくる。

 しかも若干涙目というのが面白い。よほど寄生されるのが怖かったのだろう。


 ……おっと今はそれどころではないな。現状は謎のままだ。


「だったら何で戻って行ったんだ?」

「さあな。急に蜘蛛の子を散らすように逃げていったからな」


 横からユリアがローブについた土埃を叩いて払いながら言ってくる。

 そして大盾の後ろでビビっていたヴィクトリアが急に得意げな声色で、


「まぁ何にせよ、これで改めて作戦が練れるじゃないですか! さあジェームズ達にも声を掛け……ふぎゃ!?」


 そんな事を言いながら、ふぎゃという声で途絶えた。


「ふぎゃ……?」


 ヴィクトリアの声が途中で途切れると俺達は反射的に視線を向ける。

 するとヴィクトリアの顔には……、


「お、お前……!!」

「あああぁあ!! 助けて助けてユウキ!! 顔にスピルコンがあぁあぁ!!」

  

 そう、ヴィクトリアの顔面にはスピルコンが足でガッシリとホールドしながらしがみついていたのだ。まさに絵面はエイリ○ン映画の寄生シーンそのものである。


「わ、分かってる! 直ぐに助けるから待ってろ!」

「はやくぅうぅう!! ぁぁあッ!? 何か真ん中から細い何かが出てきましたあぁぁ!!」


 ヴィクトリアは半狂乱になりながらも、逐一情報を的確に話してくる。

 まだ余裕がありそうな気がしないでもないが、流石にパーティメンバーをこんなエイリ○ンもどきに寄生されるのは、たまったもんではない。


「おらァァア!! うちの貴重な肉壁に何してくれるんじゃワレェェ!!」


 ブレードで一気にスピルコンを両断したい所だが、それでは下手したらヴィクトリアに怪我を負わせることになってしまうかも知れない。

 そうなると無事だったとしても、その先ずっと色々と言われること間違いない。


 だから俺はこの自慢の腕力でスピルコンをヴィクトリアの顔面から引き剥がすことにする。


「この蠍なのかエイリ○ンなのか分からない魔物風情がッ! ヴィクトリアから離れやがれェエ!」

「あぁぁあユウキぃぃぃ!! 細い何かが私の口に目掛けて進んできまぁっぁあ!!」


 その声と共にヴィクトリアはより一層発狂を起こしているが……。

 なぜだろうか。ヴィクトリアの顔からというかスピルコンに掴まれている足の隙間から、凄いガーリックの匂いが漂ってくる。


「うっ、臭い……」

 

 思わずスピルコンを掴んでいた手を離してしまうと、


「あぁぁ!? 今、手を離しましたね!?」

 

 ヴィクトリアは何故かそのことに気づいたらしく甲高い声を放ってくる。

 しかしヴィクトリアが叫べると言うことは、まだ寄生されていないということか?


 さっきまで私の口にとか十八禁紛いな事を言っていたが、この様子だとまだ大丈夫そうだな。

 …………というかこのスピルコン、よく見たら動いてなくね?


「なぁヴィクトリア。そのスピルコンさっきから動いてる様子がないんだが?」

「えっ? ……あ、確かに動いている様子はありませんね……。何なら細いアレも私の口元の寸前で止まってます!」


 うーむ。理由は分からんが、どうやらスピルコンの動きは止まっている事は確定みたいだな。

 であるならば、引き離すなら今しかないだろう!


「一気に引き離すからな! 痛くても動くなよ!」

「はいっ! お願いします!」


 そう言うと俺はスピルコンを両手で掴み一気にヴィクトリアの顔から引き離した。

 その際にヴィクトリアの顔をガッチリと掴んでいた足が食い込んでいたらしく、悲痛な叫び声を上げていたが、寄生されなかっただけマシと思って貰おう。


「あぁぁ、私の自慢の顔に絶対に傷が出来てしまっていますよ……。もうお嫁にいけません……」

「大丈夫大丈夫。多少の傷は冒険者の勲章だ。それに見た感じ傷は深くないぞ」


 俺は引き離したスピルコンを地面に置いて、感情の起伏が激しいヴィクトリアに声を掛ける。

 てか単純に疑問だが、女神にも結婚的な文化はあるのだろうか。


「おーい、ユウキくーん! 大丈夫だったかい? 寄生されていないかい?」

「焦りすぎよジェームズ。彼だってゴールドランクの冒険者よ」


 ジェームズが手を振りながら俺達の方に向かってくると、どうやら向こうでもスピルコンの群れが退却したようだ。

 そしてミアは相変わらずクールに言ってくれるが、このクエストはゴールドランクでもギリギリなようが気がするぞ。


「……ってユウキ君! その装備って【Full metal機械Armor装甲】じゃないか! なんで君がその装備を……いや、今はそれどころじゃないね」

「そうよジェームズ。今はそれよりも、スピルコンが退却したこの隙に作戦を考える方が先決よ」


 ジェームズ達は俺の装甲を見て目を丸くして驚いていた様子だが、今はミアの言う通りスピルコンの群れを根絶やしにする作戦を考える方が先決だ。


 依然としてヴィクトリアのヘイトスキルが効かなかった事が気になるが……。

 今は考えても仕方がないだろう。


「よし、皆集まって! 今から作戦会議だ!」

「「「「はいっ!!」」」」

 

 ジェームズの呼び声で周りに集まると、俺達は作戦会議を始めることとなった――――

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