19話「アメリカ転生者と共にクエストへ行く!!」
あれから二十分ぐらいジェームズとオタクトークを繰り広げると、俺達はいつの間にか友達という関係に昇格していた。
そしてジェームズから身の上話や、ここに来た理由を色々と聞く事ができた。
まずジェームズはダイヤモンドランクの冒険者だという事だ。
通常このランク帯になってくると、普通は王都の方のギルドクエストをこなしていく事になるのだが、どうやらジェームズ達はこの街を偉く気に入っているらしく、このギルドの最後の切り札だとして皆の士気を上げているらしい。
更にやっぱりというべきなのだろうか、ジェームズとミアは付き合っているらしく、この世界に転生するまでは二人は仲良くデート中だったとのことだ。
んで、転生する前に俺も居たあの謎の空間で女神に色々と言われて、この世界に来たらしい。
……だが。ジェームズ達は驚く事に女神から絶対に言われるであろう、転生特典を断ったというのだ。
俺はその話を聞いた時に思わず「まじかよ……」と言いかけてしまったぐらいだ。
しかし本人曰く「僕達は何事もフェアに行うのが好きなんだ!」と良い笑顔で言っていた。
それとジェームズはジャパニーズ忍者が好きだからアサシン職を選んだとのこと。
ミアの場合は、この世界にはまだまだ見つかっていないお宝の数々があると聞いて、盗賊職を選んだらしい。
確かに盗賊職は隠し部屋とか隠し通路などの探知スキルが多くあるから、お宝を探すには向いていると、ヴィクトリアがマッサージ中に言っていたのを思い出した。
そんなこんなで友達という関係になった俺とジェームズ達は、料理をつまみながら只管に話し合っていると、急に俺の後ろからヴィクトリア達の声が聞こえてきた。
「ちょっとユウキ! 私達にクエストを選ばせといて何自分だけご飯を食べているんですか! ずるいですよ!」
「これはこれは随分と良いご身分なことだ」
その甲高い声に引っ張られるようにして俺は振り返ると、そこには一枚の紙を握り締めたヴィクトリアと、俺がフォークに刺して持っているフライ料理を見てお腹を鳴らしているユリアの姿であった。
「……あれ? その方達はもしかして、ギルドの切り札と言われている方達じゃないですの!?」
ユリアの横でパトリシアが一瞬考えるような素振りを見せると、次に驚きの表情を俺に見せてきた。
いや、正確的に言うなら驚きの表情をジェームズ達に見せている、のが正しいのかも知れない。
「一応ここではそう言われているけど……。 もしかして君達はユウキ君のパーティメンバーかい?」
流石はダイヤモンドランクのジェームズだ。
コイツらの口調から俺のパーティメンバーだという事を見破るとはな。
そしてジェームズ達に声を掛けられた三人は一人を覗いて堂々たる口振りでこう言ってきた。
「そうですよ! 私はユウキのパーティメンバーでシールドマスターをやっています!」
「オレは賢者でヒーラーを主にやっている。というかそれしか余りやりたくないのでな!」
ヴィクトリアとユリアは何かの打ち合わせをしたのかというぐらいに綺麗に自己紹介を述べ終えると、最後に決めポーズを取り出した。
ヴィクトリアは腕をまくって力こぶを見せつけてきて、ユリアは黒のコートを格好良く広げて大杖を構えたのだ。
「おぉ……!! 流石はユウキのパーティメンバーだ! 随分と個性的だね!」
「そ、そうっすね……」
どうやらジェームズには受けたようだ。
俺は溜息を吐きながら右手で頭を抱えると、ミアが同情するかのように何とも言えない視線を向けてきていたのを俺は知っている。
「で? パトリシアは自己紹介しないのか?」
「あっ……だ、だってギルド最強の冒険者ですわよ!? 下手な自己紹介は出来ませんわ!」
そうかい? たった今、そこの馬鹿二人が下手な自己紹介をした後だから大丈夫だと思われるがな。
「もぅ! モジモジしていないで堂々と自己紹介して下さいよパトリシア! でないと話が進まないのですが!」
「そ、そうですわね……ンンッ。 わ、わたひ!」
ヴィクトリアに急かされるように自己紹介を述べようとしたパトリシアは、盛大に噛んでしまい顔は真っ赤になってその場で固まっている。そしてその横ではヴィクトリアとユリアは笑いを必死に堪えているようだった。
悪魔かコイツらは。
お前たちのせいでパトリシアは自己紹介しにくい状態なんだぞ!
「そんな気張る必要はないぞパトリシア。いつも剣に囁いているように自然体で行けば大丈夫だ」
「ユウキ……そ、そうですわね! 自然にやってみますわ! ……ンンッ。初めまして私はパラディンをやっていますパトリシアと申しますの! 是非よろしくお願いしますわ」
パトリシアは今度は落ち着いた雰囲気で自己紹介をすると、最後に一礼を欠かさなかった。
やはり貴族というのは礼儀正しいものだな。ヴィクトリアとユリアにも学ばせたいぐらいだ。
「緊張しなくても大丈夫だよ! 僕達はランクは高いけど、そういうので壁を作りたくないんだ。気楽に気軽でいこう!」
「そうよ。ジェームズの言う通り気張らなくても大丈夫よ」
相変わらず優しいギルド最強の冒険者のお二人。この優しさにはパトリシアも救われたようで、胸を撫で下ろしている様子だ。
っと、そう言えばさっきヴィクトリアが話が進まないとか言っていたような気がするが?
「なあヴィクトリア? それで話がどうのこうのって何だ?」
「あぁ、それならクエストの事ですよ。そこに置いてある紙に詳細が書いてあります。……あっ、このフライ料理美味しいですッ!」
ヴィクトリアは俺の質問にこっちを見ずに返してくると、俺の注文した料理をガツガツと食べ進んでいた。
なんだろうな、別に俺が払う訳じゃないから良いんだがコイツが人の料理を無断で食べる姿にはどことなく怒りを覚えてしまう。
よってヴィクトリアには家に戻ったあと体重を計らせてやろう。
まぁそれはそれとして、一体ヴィクトリア達はどんなクエストを持ってきたのやら。
「えーっとなになに? スピルコン群れの討伐依頼……報酬はよ、よよ四十万パメラだと!?」
俺はヴィクトリアが横に置いていったクエストの紙を持ちながら目を通していると、その驚きの報酬金額に思わず叫びそうになってしまった。
な、なんだこれは……。ゴールドランクってそんなにも一気に報酬金が上がる物なのか?
いやまて、報酬金が高いという事はそれなりに危険度もあるという事なのでは?
俺は紙を見ながら色々と思考を巡らせていると、
「おぉ! スピルコンの討伐なら僕達も行こうかと思っていたんだ! その魔物の素材がちょうど必要でね。よかったらユウキ君達も一緒に行かないかい?」
ジェームズが机から身を乗り出して俺に言ってきた。
そしてその瞬間、俺の脳内は物凄い回転率で答えを見出す。
ジェームズ=最強=クエスト簡単=報酬山分け=俺楽。
という最適解が浮かんできたのだ。
「是非共に行かせて貰いましょう!!」
「うん! 一緒に寄生魔物を駆除しよう! 街の人達の為にも!」
俺とジェームズは固い握手を交わすと、直ぐにスピルコンの群れが生息しているという場所まで向かう事になった。
ちなみにユリアとパトリシアは初のゴールド帯のクエストということで張り切っている様子で、ヴィクトリアはフライ料理をタッパーに詰め込む事に必死だった。
本当に、女神としての品格はどこに行ったのやら……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――ということで大体はスピルコンの生態について分かったかな?」
「ま、まじっすか。俺達は今からそんな凶悪な魔物と戦うのか……」
俺達はミストルの街から出ると、南に少し進んで森を抜けた先の場所に来ていた。
時刻は体感時間で既に昼ぐらいだろう。
ここは見るからに何もなく、周りは雑草が生い茂っていて自然の力がみなぎっているような場所だ。木々もそれほどなく、あるのは……何故か穴が空いた地面が大量にあるということぐらいだ。
「そんなにビビらなくても大丈夫よ。スピルコンに”顔さえ”掴まれなければ何とかしてあげるわ」
ミアが横から俺の心情を悟ったかのように心配してくれる。本当に素晴らしい人だ。
うちのパーティメンバーなんて誰ひとり気遣いなんて出来ない奴らだから身に染みるぜ。
そしてミアが顔を強調して言っていたのには訳がある。
スピルコンとは人に寄生するタイプの魔物で、見た目は蠍のような感じらしい。
スピルコンは蠍のように俊敏でしなやかに動いて人間の顔目掛けて飛んでくると、捕まえた人間の口の中に何かを入れて寄生するらしい。
言ってしまえば某有名エイリアン映画のあれに似ている。
だが更に厄介なのが、スピルコンは群れで行動する為に討伐するのが凄く面倒いとのこと。
通常なら火属性の魔法で焼き払うのが定石らしいのだが、うちの賢者はヒールしか使いたくないと駄々を捏ねていらっしゃる。
「この時間だとスピルコン達は地中で眠っているだろうから、まずは起こさないといけないね。うーん……」
「あっ! だったら私に任せといて下さい! こんなのヘイトスキルを使えば万事解決ですよ。スキル【アトラス】!!」
ジェームズがどうやってこの穴の中からスピルコン達を地上に出させるか悩んでいると、何かを察知したヴィクトリアが得意気な顔で大盾を片手で持ちながらスキルを発動させやがった。
「「「「「あっ……」」」」」
まだ俺達は戦闘態勢すら取れていないというのに…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます