18話「ギルド最強の冒険者はアメリカ転生者」

「という訳で、あそに座っている金髪の美形紳士と淑女はギルド最強の冒険者なんだよ。分かったか?」

「ああ、何となく理解したよ。ありがとうな」

「んじゃ、俺はまたあの人達の武勇伝を聞きに戻るぜ!」


 エリクは俺にそう言って、再び人だかりの中へと消えていった。


「しかしギルド最強の冒険者か……。良いなぁ、俺も一度は言われてみたいもんだ」


 エリクから教えて貰った情報では、このギルドには最強の冒険者にして最後の切り札とも言われる人達が居るらしく、その張本人こそがあそこの人だかりに囲まれて苦笑いを浮かべている美男美女とのこと。


「確かに遠くからでも分かるぐらいには、あの二人は美形だなぁ」


 最強の冒険者という肩書きを貰って、更には周りからチヤホヤされるとかめっちゃ羨ましいな。

 しかも何だよ、あの隣に座っている巨乳の金髪美女は! くそぅ……まさかの彼女的存在か?

 

 まさに完全に勝ち組冒険者と言った所か……。

 まぁ、俺とは関わる接点もなさそうだし、さっさとクエストを選んで報酬を稼ぎに行くとするからな。


 俺は酒場を後にすると、ヴィクトリア達が居るクエストボードの場所へと足を運んだ。


「どうだ? 何か良いクエストはあったか?」

「ええもちろんです。なんせ私達はゴールドランクですからね! ……ですがそのせいで一つ問題がありましてね」

「問題?」


 俺がヴィクトリアの背後から話し掛けるとクエストはあったらしいのだが、何か問題事が発生したらしい。面倒い問題ごとじゃなければ俺はそれでいいのだが。


「その問題とは、ずばり難易度ですわ! 私達はゴールドランクになった以上、他のシルバーやブロンズランクの方がのクエストを奪ってはないという暗黙のルールがありますの!」


 横からパトリシアがハキハキとした声で教えてくれると俺は「なにその面倒いルール」と思いながらも頷いた。


 なるほどな。そういう理由があってヴィクトリアは問題事とか言っていたのか。


「オレ達は必然と適性ランクの”Sランク”クエストをこなしていく事になるな。まぁ死なない程度に頑張っていこうぞ!」


 ユリアが何か言っているが、Sランククエストとは普通に死の危険が身近にあるという事なのか? いやまぁ、今までのクエストだって普通に危なかった訳だが……。


 なんだろうな。

 いざSランクという目に見えて危険度が増した感じが、俺を恐怖で駆り立ててきやがる。


「そのSランククエストってどのくらい危険とか分かるのか?」

「そうだな。オレの情報では、三回に一回は死を覚悟しないといけない場面に遭遇するらしいぞ」

「ま、マジっすか……」


 三回に一回ってそれかなりの頻度じゃねえか! マジかよ……下手にランクが上がるとこういう支障が出てくるのか。いやしかし、いずれは通る道だったかも知れんな。


 はぁ……。ユリアの言っていた通りに死なない程度に頑張るとするか。

 いざとなれば死に物狂いで撤退すればいいわけだし。


「まぁ、この際危険云々は置いといて。報酬がすこぶる良いクエストはありそうか?」

「うーん、ちょっと待っていて下さいね。今のところ二個ほど候補があるので選別してきます!」


 危険は常に付きまとうものだとして割り切るしかないだろう。

 ならば残されたのは、報酬がどれだけ良いかという部分だけだ。


 まぁ其の辺は金にがめついヴィクトリアに選ばせとけば大丈夫そうだがな。


 俺はヴィクトリア達が話し合いならがクエストを選んでいるのを背後から見守っていると、不意に後ろから話し掛けられた。


「ちょっといいかな? 君が飛龍討伐に大きく貢献したっていうユウキ君かな?」


 振り返ると俺の目の前には、先程の人だかりの中に居た張本人。

 そう、ギルド最強の冒険者であるその人が居たのだ。


「えっ……。あ、あっそ、そうでっす!」


 俺は急に振られた質問に戸惑ってしまい、治りかけていたコミュ障が少しだけ再発したのか言葉に詰まってしまった。

 

「あ、本当に? 良かったぁ、人違いかと思って焦っちゃう所だったよ!」


 しかし相手はそんな俺を変な目で見るわけでもなく、純粋に緑色の瞳を俺に向けてきてくれる。

 これは俺の直感だが、この金髪の美形紳士は意外と良いやつなのかも知れない。


 てか近くでみると尚イケメンだなこの紳士は。

 髪は金色で短髪、そして瞳は緑色。更に身長も高くて、着ている服装は俺の安物と違って高級物そうだ。


「実はね。僕達が居ない間の事を皆から聞いたら凄い大変な事になっていたみたいで、君がそれを解決したということで、是非お礼を言わせて貰いたくてね!」

「あっいや、そんな事……当然の事をしたまでですよ!」


 金髪の紳士は俺の右手を両手で掴んで強く握ってくると、俺はその勢いに圧巻され言葉使いがチグハグになりかけていた。


「あ、そうだそうだ。今から少し時間をくれないかい? 色々とユウキ君とは話がしてみたいんだ! もちろん酒場で色々と奢らさせてもらうよ?」

「良いでしょう! 何でも話しましょう!」


 ついつい奢りという言葉が聞こえてくると、俺は紳士に連れられて酒場の方へと向かった。

 ヴィクトリア程ではないが俺も意外と食い意地というか、人の金には弱いらしい。

 

 他人の金で食う肉は最高だぜ! という台詞もあるぐらいだし恥じる事はない。

 恥じる事はないが……。人として何かを失うかも知れないな。


 だがしかーし! 気にすること何一つないだろう。

 タダ飯こそ正義でそれ以外は無いのだから。







「あ、すみません。フライ料理大盛りとライス大盛りでお願いします」

 

 俺が金髪紳士に案内されて席に座ると、早速料理を注文させて貰った。

 最近は金がないせいでスープとパンだけという油分が足りない食事をしていたので、凄く体が油分を欲している。


「大盛り好きだね! 流石は大手新人冒険者だ! あ、それと金額とか気にしないでね。ちょうどつい最近魔王軍の中隊を壊滅させて、たんまり稼いだから」


 金髪紳士は爽やかにそう言ってくるが、もとよりこっちに遠慮という二文字は存在していない。

 食える時に食っとかないと損だからな!

 

 あと気になる言葉が聞こえたのだが気のせいか? 魔王軍の中隊がどうのこうのと。


 てかそれよりも……さっきから俺の事を凄く睨んでくる金髪女性が居るのだが……。

 

 俺の対面には肌が白く胸元が大胆に空いている服を着たグラマーな女性が座っているのだ。

 しかもよく見れば、その女性も髪は金色で長髪をしていて瞳は紫色をしている。


 そのグラマーな金髪女性はさっきからしきりに俺を睨んできていて、鋭い眼光は威圧を感じるほどに怖い。


「さて注文も終わったし。早速、自己紹介をしようか! 僕の名前はジェームズ。二十二歳だよ! 職業はアサシンをやっていてこれには深い理由があるんだ!」

「ほう? 深い理由ですか?」


 俺はウェイトさんが持ってきたフライ料理を食べながら、ジェームズさんの言葉に返事をする。

 相変わらずここのフライ料理はうまいなぁ。きっと油の品種が良いのだろう。


「そうなんだよ! 実は僕はね、”日本”という国がすk「ブフォ!? ゴホゴホッ!!」おっと大丈夫かい?」

「す、すみません……。大丈夫です」


 俺は唐突にも発せられた日本という言葉に条件反射で噎せてしまった。

 しかし、なんでこの金髪紳士は日本を知っているんだ?


「そうかい? じゃあ続きを話すよ! それでその日本d「ちょっとジェームズ。いくらその話をしたところで、この世界の人達には通じないわよ」……そ、そうだけどさぁ」


 ジェームズさんが再び話し始めると、横から金髪グラマー女性が話を遮るように割って入ってきた。そしてその言葉には何か引っかかるモノを感じた。


「あ、あのー? もしかしてお二人はこの世界とは別の世界から来ました? 例えばアメリカとか」

「「えっ……!?」」


 俺はその引っかかるモノが何か分かっていたからこそ、ジェームズさん達に聞いてみると、どうやら俺の考えは十中八九当たっていると言っても過言ではなさそうだ。


 その証拠にジェームズさん達は驚きと困惑の表情を俺に見せている。

 何故アメリカを例えにしたと聞かれれば、それは洋物を見ている時によく男優がジェームズという名を使っていたからだ。


「そ、それはもしかしてユウキ君も……別の世界から来たのかい……?」

「そうですよ。俺がここに来るまで暮らしていたのは日本ですから。あ、それと俺は篠本佑樹と言います。職業はレンジャーです」


 ジェームズさんは震える声で聞いてくると、俺は冷静差を装いながら返す。

 内心俺も凄く震えているのだ。まさかこんな所に俺以外の転生者がいた事にッ!


 するとジェームズさんは全身が震えさせて、

「お、おお、お、お――!! こ、これはまさにアンビリーバボーだよ! ユウキ君!」

と言って俺の手を勢いよく掴んで握り締めてきた。


 俺には野郎と手を繋ぐ趣味はないのだが、同じ転生者として何かシンパシーというものを感じた。ジェームズは俺と熱い握手を終えると視線を隣の金髪グラマー女性に向けた。


「あ、そう言えばまだ彼女の自己紹介をしていなかったね! 紹介するよ彼女の名「大丈夫よジェームズ。自分で名乗るわ」」

 

 ジェームズさんはまたもや言葉を遮られると少しションボリとした顔になっていた。

 

「ンンッ。初めましてユウキ。私はミアよ。職業は盗賊をやっているわ。それと……何で私達がアメリカ人だと分かったのか教えてくれないかしら?」

「えっ……。た、たまたまですよ! 何となくジェームズさんって名前を洋画とかで見かけたので!」


 俺の言葉にミアさんは、ふーんっといった感じで頷いていた。

 

 い、言えねえよ……。

 洋物とかでよく見てましたとか絶対にな。しかも覚えていたのが男優の方って特にな!


「それよりもユウキ君が日本人って本当かい!? 僕は日本が大好きなんだ! 特にジャパニーズアニメとHENTAI文化はね!」

「おぉ! それは元自国民としては嬉しいですね! ……え、まってジャパニーズHENTAIってなに?」


 さも普通のように語ってきたジェームズさんは日本のアニメと変態文化が好きらしい。

 だが変態文化とは……それはもしや例のアレなのか?


「何って……やだなぁユウキ君! もちろんエロゲーの事に決まっているじゃないか! あとその他諸々も!」

「あーっ、やっぱりそっちかぁ」


 大体は予想していたがやはり強いな、日本のエロ文化とは。

 初めて異国の人と交流したが、いきなりHENTAIという言葉を聞かせられるとは思わなかったぞ。


 そしてジェームズさんの発言に、隣ではミアさんが眉間を抑えて悩ましい表情を浮かべている。

 この人はこの人で、色々と大変な思いをしているのだろうな。


「さあ次はユウキが日本の文化を色々と教えてくれよ! 僕はもっと日本の知識と情報が欲しいッ! 特に萌え系で!!」

「ふっ……任せときな。この俺が何年日本人やっていると思っているんだ。とっておきのジャパニーズ文化を教えてやるぜ!」


 俺はジェームズさんに触発されて久々にアニオタとしての血が騒ぎ始めると、そこから怒涛のオタクトークがギルドの酒場にて展開された。


 俺は何か大事な事を忘れているような気がするが、この際どうでもいいだろう。

 今は日本の文化を余すことなく説明することの方が大事だ!

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