21話「寄生型の魔物は意外にも美味である!」

「――という訳で、その情報が正しければこの作戦でスピルコン達を一掃できるわけだね!」

「まさか、スピルコンの弱点がそんなんだったとは……」


 ジェームズが作戦の内容を纏めて俺達に伝えると、周りはうんうんと頷いていた。

 しかしその話が正しければ、スピルコンとは危険性は高いが意外にも簡単に討伐できる部類なのかも知れないな。


「いいユウキ? 魔物とは意外なとこに弱点があるものよ」

横からミアが短剣を研ぎながら俺に言ってくる。

 

 たしかに今まで戦った奴らにも探せば意外なとこに弱点があったのかも知れない。

 ダイヤモンドランクの冒険者になるにはそういった、弱点を探る所謂”勘”の部分を養わないと行けない領域なのだろう。


「では各自! 僕の合図で周りの穴にガーリックフライを投げ込むように!」

「「「「了解ッ!!」」」」


 俺達はジェームズに言われた通りに等間隔で穴の前に立つと、手にはガーリックフライを装備している。そう、この作戦の一番大事な”キー”と言っても過言ではないのは、このフライ料理だ。


 どうも俺の中で気がかりだったのは、ヴィクトリアにへばり付いていたスピルコンだ。

 あのスピルコンはヴィクトリに寄生することなく息絶えていたことが、なんとも不思議でならなかった。しかしそこで俺は、とある可能性を探ったのだ。


 すると一つ可能が見えてきたのだ。そう、ヴィクトリアから漂ってきたガーリックフライの匂いだ。あの強烈な匂いが漂ってきた時に俺は思わず手を離したのに、スピルコンの奴は寄生することなく、何なら微動だにしなくてそのまま息絶えたのだ。


 更にこれはジェームズ達も知らなかったことらしいが、恐らくスピルコンの弱点はガーリックの強烈な匂いが効くのではないかと。


 ……ちなみにこれは公式にも知られていないことらしいので、ギルドで討伐報告する際についで感覚で伝えるとプラスで報酬が貰えるらしい。弱点発見報酬って感じだな。


 まぁ、とどのつまりヴィクトリアがタッパーに大量に入れてお持ち帰りしていたガーリックフライの料理を巣穴に投げ込んで、ユリアが魔法で巣穴に蓋をして匂いで一掃するとい作戦だ。


「それじゃあ皆、準備は良いね? スリーカウントでいくよ!」

「「「「了解ですっ!」」」」


 ジェームズが俺達の配置と顔を確認していくと、俺はいつでも大丈夫だという意思を見せる為にグッドポーズをしながら返事を帰した。


「よし、3……2……1。今だッ! 投げ入れろッ!」

「おらァァア!! 死に晒せスピルコン共がァァッ!」


 ジェームズの合図と共に、俺はありったけの愛と憎しみを込めて巣穴にガーリックフライを投げ込む。別にスピルコン達は何も悪くないのだが、それぐらい感情を込めないと俺がやりきれないのだ。命を奪うとういうことは等しく罪だと俺は思っている。


 まあ、そう思うとユリアとかは結構やばい奴の部類と思うが……現状で言うならコイツの方がやばいだろう。さっきから自慢の顔を傷物にされたと怒り狂っているヴィクトリアだ。


「この馬鹿エイリ○ン共が!! よくも私の美肌に傷を付けてくれましたね!! この借りは命で償ってもらいますらかね! 死んで侘びなさないッ!」


 そう言いながらヴィクトリアはタッパーの中に残っていたフライを料理を全てを巣穴に放り込んでいる。アイツの方が愛と憎しみを込めてやっていそうだな。……愛はないと思うけど。


「ユリアさん今だ! 魔法で穴に蓋をしてくれ!」

「うむ、任された。スキル【ウィンドライド】!!」


 ユリアはジェームズに頼まれると、意気揚々とスキルを発動した。

 【ウィンドライド】とは周囲の風を集めることができるので、それを利用して風で巣穴の出入り口を封鎖するのだ。こういう時だけはユリアの魔法が輝くな。






「そろそろ全員死んだか……?」

「どうだろうな。取り敢えずスキルは解除しとくぞ」


 巣穴にガーリックフライをぶち込んで数十分が経過すると、俺達はスピルコンの状態を確認する為にユリアが魔法を解除した。


 そして魔法で蓋をしていたのが無くなると、ガーリックの強烈な匂いが無数の巣穴から漂ってきた。


「……うっ。こ、これはしばらくガーリック料理が食べれないかも知れないな……」


 俺は一人呟くと、パトリシアが先陣を切って巣穴に顔を覗かせ始めた。

 大丈夫だろうか。もし生き残りが居たら隙を突いて襲ってきそうなのだが……。


「……あっ!! やりましたわ! 中に居るスピルコンは殲滅していますの!」

「本当か!?」


 パトリシアは巣穴から顔を出して、大きな声で俺たちに伝えてくれた。

 どうやらガーリック封じ作戦は大成功のようだ。


 あとはこの無数の巣穴からスピルコンを全部だして、焚き火の材料にしておかないとな。

 やはり危険性が高い生物は焼き払うまでが一連の流れだろう。


 …………それから俺達は手分けしてスピルコンを全部の巣穴から引きずり出すと、辺は既に暗くなっていた。そして今からギルドに帰るのは危険と判断して、今日はここで野宿をすることになった。

 

 夜の森は昼間と違って獰猛で血の気の荒い魔物が多数現れる時間帯らしいのだ。

 某RPGゲームでも夜間になると強くなったりするし、その辺は似ている。


「にしても……本当にこのスピルコンは食えるのか?」

「大丈夫ですよ。私の新スキル【識別の瞳】を使えばどの部位が食べれるとか、毒があるとか全てが見えるのです!」


 そう言ってヴィクトリアはパトリシアから貸して貰った剣でスピルコンを捌いていくと、俺達は真っ暗になった空の下で焚き火を囲んでいた。だがパトリシアとユリアは周囲に魔物がいないか確認するのと、薪を探してくると言って不在だ。


 しかしヴィクトリアがいつの間にか新スキルを取っていた事にも驚きだが、まさかこのスピルコンが食べられる魔物だということにも驚きだ。

 

 見た目は完璧にエイリ○ンだぞ。本当に食べて大丈夫なんだろうな? 寄生とかされないよな?

 日本でも魚に寄生しているアニサ○スがどうのこうのって一時騒がれたぐらいだからな。


「それよりもユウキ君! なんで君は【Full metaal・Armor】をこの世界で装備できるんだい?」

「それは私も気になるわね。なんでかしら?」


 焚き火で温まっているとジェームズ達が俺の方を向きながら装甲について聞いてくる。


 確かにこの装甲については地球上に住んでいたら誰も知っていることだ。

 実際にどこかの国ではこの装甲を使って戦争をしていたぐらいだ。


「あ、あぁ。それは「その装甲はユウキがこちらの世界に来る時に、特典として私が与えた物ですよ」……なんでお前が言うんだよ」


 ヴィクトリアは捌いたスピルコンを木の枝に刺しながら俺の言葉を遮って答えていくと、俺には不審な点があることに気がついた。

 

 いまヴィクトリアは確かにこの装甲を特典と言ったよな……?

 つまりあの時、良い笑顔で「これはサービスです!」とか言っていたは全部嘘じゃねえか!


「特典……? 私が与えた物……? え、待ってくれよ? その言い方だとヴィクトリアさんが女神ということになるのだけど……」

「そ、そうよ。おかしなことを言うわね。貴方のパーティメンバーは……」


 ジェームズ達はヴィクトリアの発動に動揺を隠せないようでいる。

 しかし当の本人のヴィクトリアはニマニマとした表情で、


「そうですよ! 何を隠そう私は女神ヴィクトリア! 勝利の女神ですから!」


 その反応を待っていたかのように、右手を胸に添えながら高らかに笑いながら言っていた。

 本当に目立つことが好きなやつだ。


「ヴィクトリアさんは……め、女神だったのかい!?」

「嘘でしょ……? でも何で女神がこの異世界に……?」


 ジェームズとミアの反応はごく自然なものだった。

 そう、ならばなぜ女神がこの異世界に居るという謎に行き着くのだ。


「あっ……そ、それはその……色々とありまして! それより気になったのですが、ジェームズ達が出会った女神はどんな見た目をしていました? 私すごく気になります!」


 ヴィクトリアな何の目的があってこの異世界に来たのかと聞かれると、さっきまでのニマニマした表情は消え去り、スピルコンの焼け具合を確認していた。

 更に流れるような喋りで話を逸らしてもいた。


「あ、うん。僕達が出会った女神は炎色の長い髪をした女性だったよ!」

「後なぜかチャイナドレスを着ていたわね……。本当になんだったのかしら……」


 ジェームズ達から出会った女神の特徴を聞くと、ヴィクトリアはスピルコンの身が刺さった木の枝を持ったまま固まった。

 

「おいどうしたヴィクトリア?」

「そ、その女神の名前ってき、聞きました……?」


 俺は急に固まったヴィクトリアを不思議に思い声を掛けるが、ヴィクトリアの口元は凄い震えているようだった。


「あー。名前までは聞いてなかったなぁ」

「確かにそうね。一通りの説明を受けたあと、気づいたらこの世界にだったわ」


 ヴィクトリアは二人がその女神の名前を知らないと言うと、少し安堵したのか焼けたスピルコンの身を齧り始めた。

 

 本当にそのスピルコンは食べれるのだろうか? 怖いからヴィクトリアの様子を見てから食べよう。


「ならばきっと私の気のせいですね。危うく先輩女神かと思いましたよ! はっはは! ……あっスピルコンはもう食べれる状態なので皆さんどうぞー!」

「あら、丁度いいタイミングで戻ってこれこれたようですわね!」

「そうみたいだな! さぁ、スピルコン共よ! オレの血肉となり糧となるのだ!」


 ヴィクトリアがスピルコンの串焼きを完成させると、背後から良いタイミングでパトリシア達が薪を抱えて戻ってきた。

 見ればヴィクトリアは特に不味そうな表情をしていないので、俺もスピルコンの串焼きを食べる事にした。


「「「「「頂きますッ!」」」」」

「どうぞ~!」


 俺達はスピルコンの串焼きを食べ始めると、意外にもこの身は白身でタンパクな味わいだった。

 きっと醤油とかがあれば更に美味くなるだろう。ここに調味料系がないのが実に残念だ。


 ちなみにヴィクトリアの下処理が上手なのか分からないが、変な苦味や臭みは一切ない。

 なので臆することなく食べ進める事ができる。






 …………それから皆がスピルコンを満足するまで食べると、パトリシアが常時持っている紅茶セットで食後の休憩と雑談を少し交わして寝ることになった。


 この時期の外は少し寒いが、焚き火が消えるまではなんとか大丈夫だろう。

 いざとなれば俺が【ファイヤー】で火を起こせば問題ないしな。


 あと女性陣は女性だけで、男は俺とジェームズで固まって密着しながら寝ている。

 これも寒さを紛らわす為の行為だ。特段変な意味はない。


「明日は朝一でギルドに報告したら、家でもう一回寝ようっと……」

 

 そう思いながら俺は眠いについた――――

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