10話「物件探しは過酷ーー前編ーー」
「いらっしゃいませー! ……ってぇあれ? 君は何時ぞやのギルドで興味深い話を聞かせてくれたユウキ君じゃないか!」
「す、スージーさん!?」
不動産へと足を踏み入れて俺達が最初に出会ったのはギルドで面白い話をすると、それ比例してお金をくれる変わった人。そう、よろず屋を営んでいるスージーさんに出会ったのだ。
スージーさんは前に会った時と同じように、黒のスーツ姿で何やら書類仕事を行っている最中のようだ。
その他にも店内では黒のスーツを着たお兄さん方が魔道具? みたいのなので書類の印刷みたいな事を行っている。
「まぁ立ち話もなんだし、そこに座るといいぞ!」
「「「は、はい」」」
スージーさんに机近くの椅子に座るように言われると、俺達は大人しく席へと腰を落ち着かせた。
椅子に座って改めて店内を見渡すと流石は不動産と言った所だろうか。
壁に掛かっている提示版には物件の写真や値段が数多く貼られている。
中には貴族が住んでいそうな屋敷までもが張り出されていて、しかもそれらの殆どが百万前後の物件だ。
やはり噂通りこの不動産さんは破格の値段で中古の物件を売っているようだ。
これは期待が膨らむと同時に俺はキョロキョロと店内を見渡し、良い物件がないか探していると、そこへスージーさんが。
「取り敢えず、お茶を入れたから飲んでゆっくりすると良いぞ! そしてユウキ君の顔を見るに、どうして私がここに居るのか気になっているようだね!」
「えっ? まぁはい……」
スージーさんは人数分のお茶を机に置くと、そのまま俺を見て言ってくる。
確かにスージーさんは、よろず屋を営んでいる筈だから不動産に居るのはおかしい気がする……。
というか余りにも見た目と雰囲気が、働く女社長みたいな感じでマッチしていて違和感がないんだよなぁ。
「良いぞ! 私がなぜここに居るのか教えてあげよう! それはこの不動産さんが私の経営している会社のグループの一つだからだぞ! つまり――――」
誇らしげに説明してくれると、大体の理由は理解できた。
どうやらスージーさんはよろず屋の経営を主にしているみたいだが、その商売の腕が良すぎる為にミストルの街でお店を出している人達は皆、頼み込んでスージーさん経営のよろず屋の傘下という名のグループに入りたがるらしい。
聞けば何とスージーさんは、ボロボロだった店をたったの一ヶ月で大盛況させるまでに回復させた経営のプロフェッショナルとのこと。
「意外と凄い人なんですのね」
横からパトリシアが小声で言ってくる。
「あぁそうみたいだな。俺は普通に変わった人だと思っていたけど」
俺とパトリシアが話し合っていると、スージーさんは奥で魔導具らしき物を使って仕事をしているお兄さん方から、書類の束みたいのを受け取ってこちらに戻ってきた。
「見た感じユウキ君はそこの美女三人とムフフな生活を送りたそうだったから、良い感じの物件を幾つか持ってきたぞ!」
なんという要らないお節介だろうか。
俺はムフフな生活より、自室があってそれなりに大きい家が欲しいだけなのだが。
心なしかパトリシアが横でソワソワし始めた気がするが俺は知らない。
何ならヴィクトリアは引き気味の表情をしているが気にしない。
そんな中、ユリアだけはお茶を飲んでゆっくりしているようだ。
「あ、ありがとうございます! じゃぁ、ちょっと見させて貰います」
お礼を言うと、机に置かれた書類を手に取りじっくりと見ていく。
まず一枚目の書類に書かれた物件はと言うと。
『築三十年で、間取りも日当たりも良し、部屋数もそれなり、値段は四百万』
おぉ? これは初っ端から当たり物件を引いたのでは?
そのまま俺は黙読を続けていくと、一番最後に書かれていた備考欄に目が止まった。
『尚、人が二人心中しています。たまに出ます』
心中? ……って事はつまり、そう言う事だよな……?
た、たまに出ますって……も、もしかしてゆ、幽霊が?
おいおい待ってくれ。
そんな事故物件どんだけ中身が良くても嫌だぞ。
俺は幽霊が苦手なんだ!
って事でこの物件は無しだ無し。
手に持っていた書類にを机に置くと、俺は次の書類に手を向ける。
えーっとなになに?
『築六十年で、間取りもまぁまぁ、日当り悪し、部屋数はかなり多い、値段は三百五十万』
……これ見るからに怪しいんだが?
部屋数が多くて間取りもまぁまぁなら、さっきの物件より値段が上がっていてもおかしくない筈だ。築年数を差し引いてもだ。
もしかしてこれもまた備考欄が?
俺は視線を下の方に向けていくと…………やはり備考欄に何か書かれていた。
『謎の人影が家を徘徊していますが目を合わせなければ大丈夫』
あっダメだこの物件、完全に呪われているわ。
目を合わせてはいけないって……誰か合わせたヤツ居るのかよ。
俺はまだこの不動産に来てから物件を数枚しか見ていないが、何となく分かってきた気がする。
なぜ破格の値段で物件を販売しているのかという理由に。
てか……誰でも気づくだろ。
こんな曰く付き物件に住みたがるやつなんて、ゴーストバスターズに憧れを抱いているオカルト系マニアぐらいだろう。
「どうしたんだい? 良い物件は無かったのかい?」
「い、いえ……ちょっと見すぎて疲れてしまって!」
スージーさんは次から次へと俺達に物件の詳細が書かれた書類の束を持ってくる。
机には既に書類の山が二個ほど出来ている状態だ。
はぁ……。にしても俺だけが独断で物件を選ぶのも悪いよな。
ちゃんとコイツらパーティメンバーの好みの意見とかを聞かないと。
「なぁ。お前らも何か良いのがあったら教えてくれよ」
「「「ありましたっ!!!」」」
俺は三人に向かって言うと、間髪入れずにその言葉が帰ってきた。
は、早いな……。ちゃんと最後まで目を通したのか?
またもや事故物件だったり曰く付き物件だったら嫌だぞ俺。
「どれ、三人ともちょっと見せてくれないか?」
スージーさんは三人から物件の書類を受け取ると、それをマジマジと見て。
「おぉ。この物件達ならちょうど近くにあるな……。よし今から見に行くぞ! その方が君達にとっても安心できるだろうしな」
スージーさんが書類をバッグに入れると、椅子から立ち上がった。
「ほれ何をゆっくりしているユウキ君! 行くぞ!」
「あぁ……はい」
言われるがままに俺達は席を立つが、正直俺は乗り気ではない。
何故ならこんな数多くの物件を見て何一つ
どうせコイツらが選んだ物件にだって一癖二癖……いや呪いの一二個ぐらいあるのだろうと思ってならない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな俺の不安と心配の心情とは裏腹に、女子達は物件を目指してニコやかな表情を浮かべて歩いている。
最初に向かうはヴィクトリアが選んだ物件だ。
まぁ、既にヴィクトリアが”選んだ”って時点でもうお察しだろう。
「うむ着いたぞ! ここがヴィクトリア君が選んだ物件だ!」
スージーさんが振り返って言うと、その後ろにある建物は家という次元を越えて、それはもはや大きな屋敷の様なタイプのものだった。
「ま、まじか……ヴィクトリアのやつ」
外見は凄く綺麗で庭もついていて、見た目だけなら今のところ完璧だ。
しかしあくまでも見た目だけならだ。
この不動産が所有しているからには何かしらハズレがあるに違いない。
「あのー。この建物の中ってどんな感じですか?」
「あぁーすまないね。この建物実は大量の死霊の魂が宿っていて中に入ると数多くの人形がナイフを持って襲ってくるんだよ。はっはは。それでも入る? 良いよ私はここでまっているから」
…………なにその業が深い物件は。
人形がナイフを持って襲いにくるってそれもう事故物件どころの騒ぎじゃねえ。
物件自体が事故になりたがっていやがるッ!
「や、やめだやめ! 次行くぞ!」
「えぇぇーー!! 何でですかぁあぁ!!」
こんな恐ろしい建物にいつまでも居たくないので、次の物件を見に行こうとするとヴィクトリアが必死様子で俺に掴みかかってきやがった。
「うわ何だよッ!? 離しやがれ! てかお前はそもそも、一体この家のどこに魅力を感じたんだよ! 外見か庭か!?」
「う”う”う”う”! 全然違いますよ!! ちょっと着いて来てください! ……あっスージーさんちょっと敷地に入らせて貰います!」
横からスージーさんが「どうぞ~」という声が聞こえると、俺達はヴィクトリアに引っ張られるがままにこの建物の敷地へと足を踏み入れた。
そしてヴィクトリアに連れてこられてたのは……。
「……な、なじゃこりゃ」
「見事な彫刻ですの……」
「なんかヴィクトリアに似てないかこれ?」
庭のど真ん中に設置されている噴水前だった。
その敷地内の庭は手入れがされているのか分からないが、雑草が微妙に生い茂っている。
あと何故かこの噴水だけ手入れがしっかりとされているらしく一際異色を放って綺麗だ。
しかもちゃんと噴水としては機能していて、パトリシアとユリアが言っている通りヴィクトリア似の彫刻が持っている壺からは水が勢いよく流れ出している。
「なぁヴィクトリア。もしかしてこの物件を選んだ理由って、噴水の彫刻がお前に似ていたからとか言う馬鹿な理由じゃないよな?」
「うっ……」
今コイツ、うっ……って唸ったよな?
「そ、そんな訳ないじゃないですか! これはあくまでもオマケですよっ! 本命は屋敷の方だったのですが、死霊の魂が住みつているならダメですね! はははっ!」
ヴィクトリアはそう言ってたが、凄い目が泳いでいたのを俺は見逃していない。
自分に絶対的な美貌を持っている事を自慢げに語ってくるヴィクトリアの考えることだ。
絶対にこの噴水に設置されている彫刻が目当てだったのだろう。
まぁ、だとしても俺はこんなヴィクトリア似の彫刻の為だけに、この屋敷には住みたくない。
「って事で、はい撤収」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヴィクトリアの物件を見終えると、次はユリアが気に入った物件を見に向かっている。
あの噴水付きの物件から立ち去ろうとした時、ヴィクトリアが小声でずっと「家を買ったとしても多少の金は残るはずです……ならばあの噴水だけ買い取って……」とか言っていたような気がしたが無視した。
「さあ着いたぞ! ここがユリア君が気に入った物件だ!」
本日二度目の物件に到着すると、その物件はさっきのと同じで屋敷タイプの二階建てのようだ。
しかし違った部分があるとするなら、全体的にボロさが目立っているという所だろう。
本当にユリアはこんなボロい屋敷をお気に召したのか?
俺はチラッとユリアの方に視線を向けると。
「おぉぅ! ここに例のアレが備わっていると思うと凄いワクワクするなァ! おいユウキ! 早速、屋敷の中を見させて貰おうではないか!」
「あ、あぁそうだな」
ユリアは赤い瞳をキラキラと輝かせて顔を向けてくると、俺はちょっとだけ戸惑ってしまった。
だが、あのユリアがここまで期待しているんだ。きっと良い物件なのではないだろうかと思う。
性癖と考え方はぶっ飛んでいるうちの賢者様だが、思考は常識人に……近いはずだ多分。
「それでは中に入るが、くれぐれも中に置いてある美品を触らないように頼むぞ!」
スージーさんが屋敷の扉を前にすると、気をつけるべきことを教えてくれた。
俺は別に大丈夫だと思うが……問題はヴィクトリアだな。
アイツは絶対にやらかす雰囲気しか出ていない。
というかやらかすだろうな。
「おい頼むぞヴィクトリア! 何も触るなよ! 本当にマジで!」
「なんで私だけそんな力の篭った声で注意するんですか! この私のどこにそんなドジっ子みたいな属性があると思うんですか!」
ドジっ子云々より、お前はやらかすタイプの人間だとここ数ヶ月の付き合いで俺は理解したよ。
「それじゃあ、ゆっくりと見ていってくれ!」
スージーさんが扉を開くと俺達は屋敷の中へと入っていく――――
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