9話「大金の使い道は人それぞれ」

「そ、それで! ユウキさんには魔王軍の四天王を倒した功績として特別金が支給されるので少しばかりお待ち頂きたいのですが大丈夫でしょうか!?」 

「あ、は、はい! 大丈夫ですけど」

受付のお姉さんが大きく目を見開いて訪ねてくると、俺はもちろん特別金が欲しいので頷く。

 

 すると受付のお姉さんは「こ、こんな事初めてでどのくらいの報酬を出せばいいのか分からない……。と、とにかく王都に問い合わせないと……」という独り言らしきことを言いながら奥の方へと消えていった。


「しかし四天王を倒すと特別金が貰えるのか……。だけど俺にはまだ前回の飛龍討伐での金も余っているし…………おっとぉ? 待てよ? これはもしや今回の貰える金額次第ではが叶うのでは?」


 俺の今持っている手持ちの金は八十五万パメラだ。

 それに加えて今回の特別金……どれぐらい貰えるかは分からないが、恐らくコボルトキングを倒した時よりかは貰える筈だ。

 なんだって魔王軍の四天王を倒した訳だしな!


 そう考えると先程までただの騒音にしか聞こえなかった歓声や大声が、今では心地よいクラッシク音楽にすら思えてくる。

 俺は胸を高鳴らせながら受付のお姉さんが戻って来るのを待っていると、そこへパトリシアとユリアが姿を現した。


 パトリシアはさっきまで着ていた重厚な鎧ではなく、いつもの軽量型の鎧に身を包んでいる。

 ユリアは相変わらず黒いコートを着ているが……もしかしてあれしか持っていないのだろうか?


 二人はこの騒ぎを不思議に思っているのか辺りを見渡しながら俺の元へと歩いてくる。


「これは一体何事ですの?」

「はて? 今日は誰かの生誕祭だったか?」


 パトリシアとユリアがキョトンとした表情で俺の近くに寄ってくると、先程受付のお姉さんから言われた事をありのまま二人に伝える。


「――という訳でな。そのせいでギルドがお祭り騒ぎって事だ」

「なるほど。大体の状況は把握できましたわ」

「まあ、ここに入り浸っている連中は何かといつも騒いでいるけどな」


 さり気なく最後にユリアが放った言葉に俺は大いに頷く。

 ここに入り浸っている連中はここぞという時にやる気を出す者が多いのだが、普段は飲んで食って寝るという自堕落冒険者達だ。


 俺はそんな冒険者達の憩いの場でもある酒場の方に視線を向けると、そこではヴィクトリアがウォルツの酒を一気飲みしている姿が確認できた。

 

「あの馬鹿は酒を注文できる程の金を持っているのか?」 

 

 俺が覚えているにヴィクトリアはギャンブルで持っていた金の大半を溶かしたと記憶しているが……もしかして後から俺が支払う何てオチはないだろうな? 嫌だぞ絶対に払わんぞ。


 金がないなら自身の体で稼ぐべきだろう。アイツは見た目だけなら美少女だしな。

 きっと看板娘ぐらいには需要があると思う。

 

 俺はヴィクトリアに呆れた視線を向けていると、受付のお姉さんは顔全体が青ざめた色をして戻ってきた。しかも右手には何やら大きな袋を持っているようだ。


「お待たせしてしまい申し訳ございません……。王都の方に問い合わせた結果、今回ユウキさんに支払われる特別金の金額は……全部でになります!」

受付のお姉さんは言いながら手に持っていた袋をカウンターに置くと、その場に居た俺とパトリシアとユリアは時が止まったかのように動けなくなった。


 …………えっ。ま、マジですか!?

 

 俺はお姉さんから放たれた怒涛の金額に思考が一旦停止していると、カウンターに置かれた袋の中から大量の札束らしき物がチラッと見えた。


 その札束らしきものがこの袋一杯に入ってると想像すると……俺は一気にお金持ち冒険者へと階段を駆けがった事を実感する。そしてこの金額があれば俺の夢も容易に叶うことも想像できた。


 思いがけない大金を目の前にして俺は生唾を飲み込みと。

「やったなユウキ! 一気にお金持ちだぞ!」

「ええ! 凄いですわ! これなら庭に犬小屋が建てれますわね!」


 ユリアは純粋に金額と札束を見て俺と同じく喜びの反応をすると、パトリシアは……何故か犬小屋が建てれるとか言い始めた。

 きっとパトリシアは生粋のお嬢様だから、俺達庶民とは金の使い道も使う金額も桁が違うのだろう。


 だってこの金額を聞いて第一に出た言葉が犬小屋って!!

 ほんとたまにパトリシアが何でこんな危険な冒険稼業をやっているのか不思議に思えるぜ。


と、そこへ……。

「おや? ねーねーその大金は何ですか? 何のお金ですか! もしかして例の首飾りの面白い事ってそれですか!?」

俺が札束の入った袋を担ごうとしたその時、タイミング悪くヴィクトリアがジョッキを片手にやってきた。

 

 しかも俺はまだこの金の出処を言っていないにも関わらず、ヴィクトリアは一瞬にしてこの金の正体を見破ってきやがった。

 金銭関係が絡むとコイツの思考はやけに鋭くなるようだと、また一つ要らぬ知識を身に付けてしまった。

 

「あぁそうだけど、この金は誰にもやらんぞ」

俺にはもうこの大金の使い方をしっかりと決めてあるのだ。悪いがこの金は一銭も無駄遣いはできない。特にヴィクトリアに渡すなんて愚の骨頂だ。


「ひょぇ!? な、なんでですか! 私だって協力して一緒に倒した仲間じゃないですかー! そもそもユウキがヴァンパイアにならなかったのって私の手料理のおかげなんですからね! その辺しっかりと分かってますか? ってことで私のにもその大金の九割を下さいよ」


 ヴィクトリアは右手を差し出してくると、ローレットを倒したのは自分の功績だと言い始めてきた。

 確かに俺がヴァンパイアにならなかったのはヴィクトリアの手料理を食べていたという理由もあるが……。


「私はローレットに直接のダメージは与えてないので元々貰う気はないですわ」

「うーん。パトリシアがそう言うならオレもそうだし別にいいかなぁ。魔法が試せれただけでこっちは大分儲けだしな」

そんなヴィクトリアとは対象的にパトリシアとユリアはかなり謙虚のようだ。

 

 恐らくジュディーを相手にしていて、ローレットとの直接対決には関わっていない事から大金を受け取ろうと言う気持ちはそんなに無いのだろう。

 

 あぁ、なんて健気な仲間達だろうか。

 ヴィクトリアにはこの二人の爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだ。

 

 ……だが安心して欲しい。

 俺がこの金の使い道を話せばきっとヴィクトリアだけではなく、パトリシアもユリアも納得するだろう。


「まあ慌てるなよヴィクトリア。ちょうど良く皆が集まったこのタイミングでこの大金の使い道を言おうと思う」

俺はこの話を誰にも聞かれないように三人をギルドの端っこに集めて円陣を組む。


「それでこの大金の使い道とは?」

俺の隣にいるユリアが最初の口を開いた。


「あっ! はいはーい! 私、分かりました! ずばりエッチなお店で使う気でしょっ!」

「……ヴィクトリアの言ってる事が本当なら、さっきの言葉は撤回して私も大金の五割を貰いますわよ」

「ち、ちげーよ! ヴィクトリアも変な事を言い出すな! こっちは真面目に話すつもりなんだから!」


 俺だってエッチお店でこの大金を使いたさ!

 だってこれほどの大金があれば色んなサービスやプレイすら俺の思いのままになる訳だからな。


 ……あ、ヤバイ。

 想像するとそっちのほうが金の使い道としては有意義な気がしてきたぞ。

 

「おいユウキ! それでさっきから言っている大金の使い道とはなんだ!」

ユリアが大声で耳元に喋りかけてくると、俺は煩悩に支配されかけていた思考が霧が晴れるように消えていく。



 お、落ち着け俺!

 この大金を使ったとしても多分、数万は残る筈だ。

 ならばその残った金でエッチなお店に行けばいいだけの話ではないか。

 フッ……俺ってば焦り過ぎだぜ。

 

「えーっと……ゴホンッ。まずこの大金の使い道だが――――」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ギルドで大金の使い道を話すと最初は皆、驚いた表情と声を俺に見せていたがこれから先の事を考えると皆は納得してくれたようだった。

 俺達は大金の入った袋を抱えてギルドから出るとその足でとある場所に向かった。


 そう。俺達の今後の拠点となる家を探す為に【不動産】という場所にだ!

 兼ねてより俺の夢というのは、この街にを構えることなのだ。


 この先俺達は幾度となく冒険に行く事になるだろう。

 そうすれば必然と出費も増えるわけだ。道具調達、武器と防具の整備、宿屋の宿泊費、その他諸々。

 

 だとするとこのままずっと宿屋暮らしってのは現実的ではないだろう。

 しかしここで一軒家を構えとけば宿屋の費用は抑えれる筈だ。

 まあ、最初の費用が馬鹿みたいに高いけど今後を考えれば安いものだ。


 あとずっと宿屋暮らしだと俺が精神的にきついのだ。

 何せ隣では毎夜毎夜、薄着のヴィクトリアが足を広げて寝ていたりして、こう……思春期男子には辛いものがある。


 あれだ、見た目だけとか何とか言って欲を誤魔化してはいるが、それもそろそろ限界に近いのだ。

 そもそもの話、自分用の自室があればそんな思いもしなくて済む。

 理由は言えないけど取り敢えず一人で到せるからな。


 だから俺は一軒家が欲しいのだ! なんとしてでも! 絶対にだ!






「お、着いたな。ここで俺達の新拠点を探すぞ」

俺達は思い思いにどんな物件が良いとか立地はこれが良いとか風水的には……とかを話合っているうちに街で評判の不動産にたどり着いた。


 俺には暇なニート期間があったと思うが、その暇な時を利用してバッチリとこの不動産のことをリサーチしていのだ。

 噂ではこの不動産は中古の一軒家を数多く所有していて、どれも破格の値段で売っているらしい。詳しい理由までは分からないけど。


 でも、そんなの聞いたらもうここしかないだろ! って事でこの不動産に決定したのだ。

 あとここで働いている人達が美女ってエリク達から聞いたのもある。


「んじゃ、さっそく中に入ろうぜ!」

「「「お~う!!」」」


 まだ見ぬ拠点に憧れを抱いて俺達は不動産へと足を踏み入れる――。

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