第二章
1話「よろず屋の商人現る」
あの飛竜討伐から三週間と数日が経過すると、俺達はいつも通り昼食を食べる為にギルドの酒場へとやってきた。
適当な場所を選び椅子に座ると、各々がメニューを見てウェイトレスさんに注文を言う。
「俺はブラックバードの唐揚げとライスを頼むよ」
最近ずっとギルドで飯を食っている俺としては密かな楽しみがある。
それはメニューを上から順に制覇していくという些細な事だ。
そして今回は順番的に唐揚げだった訳だ。
「私はいつものセットでお願いします! 出来れば一番良い部位のヤツで!」
ヴィクトリアはいつものピギーのステーキとウォルツの酒を頼んでいるようだ。
てか昼間から肉と酒かよ。やっぱり中身おっさん入ってるだろ。
「そうですわね……。私は紅茶とショートケーキをお願いしますわ」
パトリシアは顎に手を当てながら言っていた。
騎士なのにそれだけで大丈夫なのか? ……まあ、今は大丈夫か。
「オレは魚のパイ包み焼きをお願いするぞ!」
ユリアは相変わらず癖のある料理を注文しているようだ。
一見聞けば美味しそうな名前をしているが、この料理はパイから魚の頭が飛び出しているのだ。
この前一口貰ったのだが正直、魚の苦味とパイのサクサク感である意味忘れられない味であった。
俺は魚のパイ焼きを思い出していると心なしか口の中にその味が蘇ってきそうで、急いでお冷の水を一口飲んだ。
そしてふと周りを見渡すと、酒場はいつもの倍以上に盛り上がっている様子だ。
エリク達は酒の飲み比べ勝負を始めたり、窓際に居る女性冒険者二人組は酔っているのかアスパラガスでポッキゲームみたいのをしている。
普通ならその日を生きるために報酬の良いクエストを奪い合う、”クエスト争奪戦”とかが勃発する時間帯なのだが……今回ばかりはちょっと事情が違った。
そう。あの爆風龍エリシン討伐の功績と飛竜達の鱗や肉の換金で、俺達冒険者は
厳密に言えばもう報酬金は貰っているのだが、その額がちょっと多すぎて自分でも何に使うべきなのか……それとも貯蓄して今後の為に取っておくべきなのか悩んでいるのだ。
その額なんと八十五万パメラなのだ! もちろんこれは一人あたりの額である。
飛竜達のおかげで俺達は少しだけ裕福になったのだ。
おっと、そうだそうだ。大事な事を忘れていた。
俺が爆風龍エリシンを討伐した事により、無事にパーティ全員が
ドッグタグも以前の銅色と違って、綺麗な銀色の輝きを放っていて嬉しいぜ。
これでCBランク以上のクエストも受けれるので、やっとスライム狩りとブラックバード狩りから卒業できる……。
ちなみに俺のレベルは八も上がって今は二十八レベルだ。
現在手持ちのスキルポイントは二十四ポイント。これもどう使うべきなのか……。
既存のスキルを上げるべきなのか、それともまた装甲スキルが現れた時ように取っておくべきなのか。
ちなみにパトリシアとユリアは、スキルポイントを使ってステータスを強化しているようだった。主に筋力増強とか魔力量アップだな。
俺自身、パーティが強くなるのは全然良い事なので、どんどんスキルやステータスを強化して貰いたいのだが、パトリシアとユリアがこんな事を嘆いていた気がする。
「この筋力増強ってステータス、強化する度に筋肉質になっていくのが欠点ですわ……。もう
「オレは自分で作った魔法の大半が大量の魔力を消費する物ばかりだから、もっと魔力量アップしないとな。…………そしてゆくゆくはユウキにオレの魔力の全てをぶつけて悲鳴すら超える悶絶する姿と表情が見たいッ! ハッハッハ!」
……俺はそれを黙って横で聞いていた訳だが、あの時どんな反応をするべきだったのだろうか。
まあだけど、パトリシアが本当に腹筋が割れているかどうかは、今度確かめさせて貰うとするかな。
多分素直に見せてくれる訳が無いので、遠征クエストで野宿した際にこっそりと確認させて貰うぜ。俺の隠密スキル『クローク』なら全員が寝たあと使えばバレる心配もないしな!
あとユリアについてはもう駄目かも知れんな……。
俺はそのうち、あのサディスト賢者に殺される気がして仕方ない。
すると横から馬鹿みたいな声が聞こえてきた。
「ちょっとユウキー! このピギーのステーキ生焼けなので魔法で少し焼いてくれませんか! あと出来ればこのご飯代も奢ってほs「奢らん!」……チッ」
どうやら俺が色んな事を考えている内に料理が運ばれてきていたようだ。
俺は取り敢えずファイヤーの魔法でヴィクトリアのステーキを焼いていく。
魔法で加熱出来るって便利だよなぁ。
「……あっ」
「ちょっとぉお!? これじゃあ焼き過ぎですよバカぁ!! ウェルダンが更にウェルウェルしているじゃないですか!」
「何だよウェルウェルって」
ヴィクトリアがこんがりと焼かれ直したステーキを見て文句を言ってくるが、こっちは貴重な魔力を消費してまで加熱してやったのにこの言われようである。
しかし、ウェルダンの次の言い方ってベリーウェルダンだった気がするが。
やはりこの女神は見た目だけでオツムは駄目のようだ。
さて、ヴィクトリアの事は放っておいて俺も自分の料理を食べるとするかな。
特段クエストに行っている訳でもないが、何故か無性に腹が減って仕方ないのだ。
俺達は会話も少々に料理を食べているとエリクが横から声を掛けてきた。
「ようユウキ! 相変わらず働かないで食べる飯は美味いか?」
「あったりまえだ! 最高にうんまいぜ!」
「……だろうな! 人間やっぱ自堕落が一番だな! はははっ!!」
この会話を聞いていたパトリシアとユリアは、何故か呆れたように溜息を吐いていた。
「んで? 今日は何の用事だ?
「あぁ、
エリクは顔をクイッっと動かして言うと、俺はそっちに視線を向ける。
あぁー。確かにスーツ姿の女性が丼らしき物を掻き込んでいるなぁ。
てか、この世界に来て始めてスーツってのを見た気がする。
「でな! あの人ちょっと変わっててな。話の内容でお金をくれるんだよ」
「話の内容でお金?」
「そうそう。その話ってのが自分の身の上話でもいいし、作り話とかでもよくて、
俺はエリクの何気ないその話に、ついフォークを置いて聞き入ってしまった。
話すだけで金が貰えるとか、どんだけあの女性は金持ちなんだよ。
もしくはこの前の撃退作戦に参加していた冒険者が道楽でやっているのか?
どちらにせよ、今はそんな事よりも。
「お前ってそんな大層な武器持ってたっけ?」
「……もちろん作り話だけどなぁ! はっはは! だがいつか必ず聖剣はゲットするぜ! って事で話はそれだけだ。んじゃな~」
「お、お~う……」
エリクは本当にそれだけ伝えに来たらしく、早々にカルラ達が居る席へと戻っていく。
しかし、中々に興味深い事を聞いたな。
正直金には困っていないのだが、俺が日本という国で生活していた事を話してみたい。
これは単に話してみたいという好奇心ってのもあるんだが……。
ここ最近、不意に日本の事を口走りそうになっていく回数が増えた気がするのだ。
いっそのことパトリシア達にはバラしても良いかなっとは思うのだが、それを言うとヴィクトリアの事も言わないといけないので一気にメンドくさくなるのだ。
という訳で、俺のガス抜きも兼ねて。
「すまんがちょっと、あの女性と話してくる」
「「「いってらっしゃい~」」」
ヴィクトリア達は興味なさげらしい。
俺は席から立つと真っ直ぐスーツ姿の女性の元へと歩いていく。
ついでにここの食事代を賄える金額が貰えたらラッキーだと思っている。
「あのー、すみません。話す内容でお金が貰えるってマジですか?」
俺は後ろから女性に声を掛けると、その女性は左手に丼を持ちながら振り返ってきた。
「あぁその通りだぞ! ってあれ? キミは見かけない顔をしているね? 新人君なのかな?」
「そ、そうっす! 自分は最近ここに来たばかりの新人冒険者でユウキって言います!」
見るからに女性は俺より年上っぽかったので妙に畏まってしまった。
「ほうほう。君が噂のへんt……ンンッ。いやぁ、まずは初めましてだね! 私はミストルの街で
スージーさんは丼を机に置くと、そのまま立ち上がり俺に自己紹介をしてくれた。
何か最初の方に気になるワードがあった気がするが……まあ、後で聞くとしよう。
立ち上がったスージーさんをよく見ると髪は黒色で眼鏡を掛けている。そして下は黒タイツを履いているという日本のOLを想像させるような格好をしていた。
……にしてもだ!
黒タイツは無論似合ってて良いのだが、スーツ姿で巨乳って何か凄くエロい感じがするな。
そう。スージーさんはパトリシアにも匹敵するほどの”デカいおっぱい”をしているのだ!
「おやおや? ユウキくんは何処を見ているのかな~?」
スージーさんはニヤニヤと笑いながら胸の下で腕を組むと、そのまま胸を押し上げて更に強調してきた。
「あぁッ!? す、すみません!」
や、やっちまた! つい近くで胸をじっと見てしまった。
普段からパトリシアを相手に、気づかれないよう胸を見る特訓をしていたというのに……。
俺にはさり気なく”おっぱいを見る”という事すらできないのか。
余談だが、ヴィクトリアの胸はもう見飽きたから嫌だ。
そしてユリアはそもそも胸なんてない。アレは洗濯板だ。
「ははっ。もっと弄りたいがこの辺でやめておくぞ! ……それで、ユウキくんはどんな話を私に聞かせてくれるのかな?」
そう言ったスージーさんは隣の席に座るように促してきた。
俺は今、物凄い緊張をしている。
何故ならスーツ姿の巨乳女性と至近距離で話し合うからだ。
今更何を言っているんだと、思われるかも知れないが俺は童貞だ。
なら……後は言わなくても分かるだろう。
俺は視線を何とかおっぱいではなく、スージーさんの目に合わせると。
「実はこんな話がありまして――――」
それから話し始めて数十分が経過すると、俺の話す物語が終わりを迎えた。
話した内容は俺がここに来るまでの日本で過ごした日々である。
俺の話を聞いてスージーさんはどんな反応をしているのか気になり、顔を見ると目を丸くして真顔で固まっていた。
やはり、いきなりそんな話をされても反応に困るよなぁ。
俺だってこの世界に来るまで異世界とか信じてなかったし。
「やっぱりこんな話じゃ、つまんないっすよね……」
俺は頬を掻きながら無理やり笑みを作った。
まあ、本来の目的のガス抜きはできたし、満足ちゃぁ満足なのだがな。
俺は早々に自分の場所に戻ろうと考え、席から立ち上がると。
「ちょ、ちょっと待って欲しいぞユウキくん! その話実に興味深いんだぞ!」
スージーさんの表情はさっきまでの真顔とは違い、まるでワクワクしているような雰囲気が伝わってくる。するとそのまま俺の右腕をガッチリと掴み
恐らく無意識でやっているのだろう。
じゃなければそんな事はしないだろう。多分。
しかし、その咄嗟の出来事に俺の脳内は一瞬処理を遅らせた。
……だが! これだけは確実に分かった。
”お、おっぱい柔けぇ……!!”という事実が。
俺は右腕からスージーさんの柔らかなおっぱいの感触を堪能していると。
「できればその話をもっと詳しく聞きたいんだけど、生憎今から仕事でね……。だから今度
そう言ってスージーさんは俺に名刺みたいなのを差し出してきた。
「あ、あぁ。これはこれは丁寧にどうも」
俺は左手で名刺みたいなカードを受け取る。
「ぜ、絶対に私の店にくるんだぞ! そしてその時は是非、話の続きを聞かせてくれよ! じゃあ私はこれで!」
スージーさんはホールドしていた俺の右手を解放すると、急ぎ足でギルドから出て行った。
あぁっ……柔らかな胸の谷間の感触をもう少しだけ感じていたかったぜ……。
俺は受け取ったカードをポケットにしまうと自分の席へと戻った。
「で? どうだったんだ?」
「ん~まあ、話自体は気に入って貰えたみたいだよ」
席へと戻るなり、ユリアが結果を聞いてくるが、話の事よりもおっぱいの感触の方が印象的で忘れられない。
「いやそれは良いんだが、
ユリアが魚の頭を噛じりながら聞いてくると俺は思い出した。
「あっ」
そうだよ! お金貰ってないじゃん!
俺が貰ったのって”住所”と”おっぱいの感触”のみじゃないかぁ!!
だけどまあ、今回はおっぱいが凄く素晴らしかったので特に怒る気は湧かなかった。
「ユウキがさっきからキモイ笑みを浮かべているのが気になって、ご飯が喉を通りません……」
「確かにこれは……キモイ笑みですわ」
よし、この二人には後でお仕置きだ。
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