23話「防衛戦ー終幕ー!!」
飛竜の群れを一掃した俺達冒険者はギルドで祝杯を挙げようとしていた矢先に、突如として目の前に大型の飛竜が姿を現した。その名も”爆風龍エリシン”らしい。
エリシンの見た目はさっきの飛竜より断然でかく、体は全体的に緑色をしている。
「クソッ! 全員今すぐこの場から離れろ! 皆まとめて殺られるぞ!!」
双眼鏡を持っていた冒険者が俺達に向かって言うと、皆は一斉に左右へと散り散りに距離を取った。
「おいお前ら! 言われた通りに急いで距離を取るぞ!」
俺はヴィクトリア達に声を掛けると走り出した。
ど、どうなってんだよ! 飛竜の群れを迎撃したら終わりじゃないのかよ!?
なんであんな親玉がこっちに飛んでくるんだよ!
俺があの言葉を「何だかフラグっぽいような?」とか心の中で思ったから、親玉が飛んで来たとかそんな馬鹿げた話はないだろうな? ……凄く怖いんだけど。
考えられる可能性としては、あの親玉を引き寄せれるぐらいの何かしらの強力な力……。
つまりヴィクトリアの上位のヘイトスキルのせいなのでは!?
あの大食い大盾使いマジで余計な事しかしてくれねえな!
生きて帰れたらマジで覚えてろよ!
「これぐらい距離を取れば恐らく大丈夫ですわ!」
「チッ……この感じだと子供の飛竜を殺されて親が怒って復讐しに来た感じだな」
前を走るパトリシアが足を止めると、ユリアが親玉を見ながら呟いた。
えっそうなの? 俺はてっきりヴィクトリアのヘイトスキルの影響かと思っていたんだが……。
あ、危ねえ。
あと少しでヴィクトリアに怒鳴り付けていた所だったぜ。
「はぁはぁ……。やっぱり活きのいい生き残りの飛竜が居たじゃないですかーー!! ユウキの嘘つき! 童貞! 変態!」
「あれはエリク達が言ってた事をそのままお前に伝えただけだぞ! 文句を言うならエリク達に言えよ! それと後半は関係ないだろ」
後ろからヴィクトリアがゼーハーゼーハと息を荒げながら文句を言ってくるが、俺に言われても困る。
「こんな時まで仲間内で言い争わないでくれないまし! 目の前に強敵がいるんですのよ!」
パトリシアが俺とヴィクトリアの会話に割って入ってきた。
「す、すまない……」
そ、そうだった。
ついあの馬鹿に気を取られていたが、事態は何一つ解決していないのだ。
むしろ悪化しているとまで言える。
俺が親玉に視線を合わせると、向こうは冒険者達を見ながら大きな翼を上下に振って空に待機していた。
それはまるで獲物を確実に仕留める準備のようにも思えた。
俺が親玉を見て固まっていると、横から大砲を放つ際に聞こえる火薬の弾ける音が聞こえてきた。
そして放たれた砲弾が親玉の翼や胴体に見事に命中すると、辺りには爆煙が舞った。
それを見たパトリシアが。
「やりましたの!?」
「おい馬鹿それは言うな!」
フラグの代名詞とも言える言葉をここぞとばかりに言い放った。
古来よりその言葉はこういう危機的状況に一番使ってはいけないとされている言葉だッ!
そんな事も知らないのかこの世界の奴らは!
俺達は固唾を飲んで爆煙が風で流されていくのを見ていると……やはりというべきなのだろうか。
親玉は無傷の状態でそこに現在していた。
しかもその砲撃が反感を買ったのか、向こうが攻撃を仕掛けてきそうな動きを見せた。
「グガァァア!!」
親玉は高い声を出すと顔が先程砲撃を放った冒険者達の方に向いた。
ま、まさかアイツらに向かって攻撃する気か!?
「待て! やめろォォォ!!」
俺の叫び声と同時に親玉は口を大きく開くと、竜巻のような風の塊りを冒険者達に向かって放った。
「ぐわぁっっ! お、落ちるッ――!!」
「し、死にたくない! 誰かたすk――」
冒険者達は逃げるまもなくその攻撃により外壁上から吹き飛ばされた。
俺はただそれを見ているだけしかできなかった。
だがユリアが突然俺の前に立つと大杖を振り始めてこう言ってきたのだ。
「オレの目の前では誰一人して死なせはしないッ! それが賢者兼ヒーラーの役目だ! スキル『ウインドライド』!」
ユリアがスキルを発動すると外壁上から飛ばさて落ちていった冒険者達が次々と風に乗って浮上し始めてきた。
う、嘘だろ……? あの絶望的な状況からユリアが何とかしただと!
ユリアは苦痛によって歪む人の顔を何よりも愛する変態女だぞ!?
そんな奴がまさか人を助けるだなんて……!!
うぅ……ちゃんと成長していたんだなぁ……。
俺は仲間の意外な行動にうるうると感じていると、親玉は次なる攻撃を仕掛けてきていた。
狙いはどうやら俺達のようだ。
真っ直ぐ風の塊が俺達の方に飛んでくると、既に逃げる間もなかった。
だが――――俺達が攻撃を食らう直前。
「クッ……! これは本来ヴィクトリアの役目だと思うがな! スキル『ウインドライド』!」
ユリアは落ちていった冒険者達を魔法で広い上げながら、更に親玉のブレス攻撃が当たる直前にスキルで風の壁を作った。
「おぉ! 助かったぜユリア!」
目の前で親玉の攻撃がユリアの魔法によって相殺されて消えると、俺はユリアにグッドポーズを送った。
「そ、そんな事はいいから! 早く他の冒険者達を救助してやってくれ! オレは今の攻撃を弾くために魔力の大半を使ってしまったからな……」
た、確かに急いで救出した方が良さそうだ!
ユリアだって賢者といえど魔力は無限ではないからな。
「おい、聞いたな二人とも! ユリアが広い上げた皆を俺達が外壁上に引っ張り戻すぞ!」
「ええ! 分かりましたわ!」
「ひいいッ……そんな事してたらまた攻撃されませんか……?」
俺は急いで皆を救出するべくパトリシアとヴィクトリアに声を掛けると、パトリシアは直ぐに返事をしてくれたが、ヴィクトリアは自分の身の安全を危惧しているようだ。
「お前こんな時にそんな事言ってる場合かよ! さっさと動けこの大馬鹿
「な、ななな、なんで私の今日の色を知ってるんですか!!」
俺の言葉にヴィクトリアは咄嗟に下半身を手で抑えていたが、別に親玉の攻撃でスカートがめくれて見えていたとかそういう訳ではない。
たまたま適当に言った言葉が当たっただけである。マジで。
「フッ。下着の色を他の皆に知られたくなければ大人しく俺の指示に従えよ」
「……う”ぅ”う”う”う”う”う”!! 覚えてなさいよユウキ!」
久々にヴィクトリアが唸り声を出したと思っていたら、横からパトリシアが変な事を言ってきた。
「それで? 痴話喧嘩は終わりましたの?」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
俺とヴィクトリアは必死にそれだけは否定した。
そして俺達はユリアの顔色が段々と悪くなっているのを知ると、下らない言い争いは一旦辞めて魔法で浮いている皆を外壁上へと引っ張り戻した。
「た、助かったぜ!」
「死ぬかと思……った……よ」
「気にするな! お礼ならうちの賢者ことユリアに言ってやってくれ」
俺が近くに居た数人を救出するとパトリシアが駆け寄ってきた。
「この人達で最後ですわ!」
「OK分かった。ユリアー! もうスキル解除してもいいぞー!」
俺が救出したこの冒険者達が最後らしく、魔力の使いすぎで疲弊しているであろうユリアに向かって魔法を解くように叫んだ。
「わ、分かった……! スキル解除!」
スキルを解除したユリアは、足をプルプルと小刻みに震えさせながら大杖を支えに、何とか立っているようだった。
クソッ……ここからどうするべきなんだ! 確かにユリアのおかげで皆は救出できた。
現状はただそれだで、未だに親玉に対しての有効な攻撃は何一つ出来ていない。
それに次にまたあのブレス攻撃みたいなのが飛んでくると、いよいよそれで俺達は終わる。
なにか……何か一発逆転の意外性のある攻撃はないのか?
「そう言えば、何でユウキは
「…………あっ」
オイオイオイ!! そうだよ! 俺ってば装甲とかいう武器を持っていたじゃないか!
唐突にも訪れた
やはりまだ……服のように着れる様になったとしても無意識で纏う事をできないようだ。
と、そこへヴィクトリアがここぞとばかりに。
「そうですよ! ユウキってば装甲があるじゃないですか! 何でさっさとそれを使わないんですか! 何の為にその力を与えたと思っているんですかぁ!」
「う、うるさいな……。こっちだって急に訪れた非日常のせいで忘れてたんだよ!」
「非日常なんていつもの事じゃないですかーー!!」
いやまあ……確かにヴィクトリアの言う通りだけどさ。
だが今はそんな事を置いといてだ!
装甲が使えると思い出した今ならちゃんと策はあるぞ!
「お前ら! 俺に策があるからちょっと集まれ!」
三人に向けて周りに集まるように手を振った。
「――――という事だ。やれそうか?」
俺は三人に策の内容を話すと問題が無いか訪ねた。
「大丈夫ですわ。と言うよりそれしかもう出来る事はないですわ」
パトリシアは頷いて策に賛成してくれた。
「あぁ、オレも問題ないぞ。……だが使えてあと一回が限界だからな」
「大丈夫だ。その一回で仕留めてやる」
ユリアは未だに体が小刻みに震えているが、最後の頑張りを見せてくれるようだ。
「また私が身を犠牲にして囮に……。はぁぁ……」
「無事に親玉を倒せたらピギーのステーキ奢ってやるから頑張れよ」
ヴィクトリアは策を聞くと死んだ魚の目をして項垂れていたが、俺がご褒美をやると言ったら急に顔を近づけてきて。
「本当ですか!? 私はA五ランクじゃないと嫌ですからねっ!」
「お、おう。分かってるよ」
フッ……バカは単純だからチョロくて助かる。
俺は空を見上げると親玉は未だに空を旋回しながら俺達の様子を伺っているみたいで、そのおかげで作戦を練る時間が作れた。
「よし! 作戦開始だァ!」
「「「おーう!!」」」
俺の合図と共に三人は指定の位置に着いた。
作戦内容はこうなっている。
まずヴィクトリアがヘイトスキルで親玉を限界までこちらに引き寄せる。そして俺が装甲を纏うとユリアの魔法で一気に親玉に向かって突撃するという策だ。
パトリシアの役目は万が一俺の策が失敗してヴィクトリアに攻撃が及びそうになった時、抱えて走って逃げれるようにスタンバイして貰っている。
こういう時に体力が多い聖騎士は心強い。
そしてヴィクトリアが位置に着くと。
「行きますよぉ! A五ランクのステーキの為に! スキル『モア・アトラス』!」
ヴィクトリアがスキルを発動すると空を旋回していた親玉が、一直線に降下してそっちの方に向かって行った。
「何があってもヴィクトリアは私が守りますわ!」
パトリシアはヴィクトリアの傍で構えている。
「よし……次は俺達の番だぜ。起動せよ装甲! 我が万象の力は皆を救う力! 穿つは爆風龍エリシン!」
俺は装甲を纏うと後ろに居るユリアが最後の力でスキルを発動する声が聞こえた。
「頼んだぞユウキ! アイツが見せる死の顔をオレに見せてくれ! スキル『ウィンドライド』!」
あぁ! 俺に任せとけ!
必ずあの親玉の首を両断して顔を永久保存してやるぜ!
俺はユリアの魔法によって勢い良く親玉に向かって飛ばされた。
それはまるでボウガンのように飛んでいるだろう。多分。
やがて親玉の顔が目の前へと迫ると、俺はブレードを引き抜いて装甲スキルを発動した。
「貰い受けるぞ! その首をよォォ!! 装甲スキル『スラスター』!」
この親玉の鱗は尋常ではない程の硬さを誇っているのは砲弾の攻撃で知っている。
ならば! 勢いをこのブレードに上乗せさせて一気に首を断ち切るまで!
「うぉぉお!! くたばれェェェエ!!」
スラスターで一気に加速した俺はそのまま親玉の首めがけてブレードを振り下ろした。
その時、俺は確かに肉を裂く感触をブレードを伝って感じた。
俺の一太刀により親玉は悲鳴すら上げる事はなく首と胴体が切り離されると、そのまま地上へと落ちていった。
そして……俺はそれを
よく考えたらこの後の事を考えてなかったや。
しかもユリアはこれが最後の一回だとか言っていたし、どうしよ。
…………いや待てよ。
以前に同じような場面から落ちていた事があったではないか。
そう、転生を果たしたあの時と同じだ! ならばきっと今回も大丈夫だろう。
だが! やっぱり落ちるというのは人間の本能的に怖い訳で。
「ぬあぁぁあ!!! 落ちるぅぅう!!」
俺は意味も無くジタバタと手足を動かして地上へと激突した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いやぁ……ユウキ達のおかげでミストルの街が守れたぜ! ありがとうな!」
「最後のあの一撃! 最高にクールだったぜ!」
「しかも何だよ! あの見たことない防具? 装備? はよ!」
場所は変わってここはギルドの酒場だ。
俺は現在、冒険者達から質問責めに遭っている。
あのあと俺が地上へと激突して、気絶していた所を他の冒険者達が急いで回復魔法掛けてくれたいみたいで直ぐに目を覚ます事が出来た。
それに俺を心配して集まった冒険者達が皆、口を揃えて「ユウキって本当に人間なのか?」っと言って驚いた顔をしていたのが印象的だ。
まぁ、俺だって普通の人間さ。ただ日本製の超ハイテク防具と武器を持っているだけのな。
当然そんな事言えないけど。
そんなこんなで飛竜の親玉を討伐した俺達パーティはギルドで盛大な歓迎を受けているという訳だ。
見ればギルド内の受付の人達は討伐されて運ばれて来た、飛竜達の換金作業で大忙しの様子だ。
「さあ約束ですよユウキ! ちゃんと私にA五ランクのピギーのステーキとウォルツの酒を奢って下さい!」
「何か一個増えてないか? まあ良いけどさ」
ヴィクトリアめ……流石に抜け目のない奴だ。
すると俺とヴィクトリアが話している横から。
「あら? 私達も頑張ったんですから奢って下さらないんですの?」
「そうだぞ! オレ何て魔力が枯渇するぐらい頑張ったんだぞ!」
うぐッ……。確かにパトリシアとユリアも今回は凄く頑張っていた。
まあ、それを言うなら俺も頑張っていたんだけどな!
しかしまぁ。今回ぐらいは良いかも知れんな。
「よしお前ら好きなだけ食え! 今日は俺の奢りだ!」
「「「おぉぉぉ!!」」」
その後、俺達は酒場にて飛竜討伐の祝杯を上げた。
何故かエリク達が”俺の奢り”って言葉を拾い上げて、それをギルド内に拡散して他の皆も好き勝手に飲み食いを始めていたがな。
まったく。俺はそこまで奢る気はないぞ!
……でも、何だろうな。
「このお祭りのような騒ぎは嫌いじゃないぜ」
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