14話「コボルト達の住処」

「そう言えばユウキってコミュ障治ってませんか? 女性は苦手じゃなかったんですか?」

「……そう言えばそうだな。きっとこの世界の女性達は変わり者しかいないから、変に気を使う必要がないと本能的に判断したんだろう」

ヴィクトリアが歩きながら話題を振ってくると、俺はしみじと思った。


「あら、その変わり者に私も入っているんですの?」

「あぁー。お前は今のところ大丈夫だ。まだ出会って日が浅いのもあるがな」

パトリシアは変わり者扱いされていないか気になるのか、俺に聞いてくるが正直出会って数日じゃ分からない。

そんな俺達の何気ない会話聞いていたのか、ユリアが口を開いた。

「道中でもちゃんとコミュニケーションがとれているパーティはやっぱり良いな!」

「……? こんなの普通の事じゃないのか?」

俺はユリアが言ったことが気になり返す。

「それが……そうでもないんだ。オレが前に居たパーティは効率を求める連中でな。目的の場所に行く時でも私語は厳禁。もちろん最低限連携の為なら少しは許されたが……あれはやってて楽しくなかったな。あぁでもアイツらの表情は凄く……」

ユリアは最後の言葉を言うと、思い出し笑いのように顔を歪めて笑みを浮かべていた。


 その歪んだ笑みの意味も気になるが、今の俺はユリアが時折見せるの方がのでもっと見せて欲しい。




 ……しかし、どこの世界にもそんな厳しい奴が居るんだな。

 私語厳禁って、そんなんで冒険者活動していて楽しいのものかね?

 まあ、俺だったらそんなパーティ即行で抜けて違う所にいくがな。

 

 そして今現在俺達はクエストの詳細欄に記載されていたコボルトの住処へと向かっている最中だ。

 ギルドにて対コボルト作戦を練った後、日が暮れる前に目的の場所に着きたかったので急いでミストルの街から出てまでは良いが……完全に距離感を見誤っていた。

 目的の場所までは意外と遠く、既に俺は歩き疲れている状況だ。


 何故か、他の三人は体力が有り余っているように見えるが。


「そう言えばヴィクトリアが背負っている大盾って……」

「えぇ! 気づきましたか? 前回はあんな粗悪品を渡されましたが今回は違いますよ! なんとあのオリハルコンをあしらって作られた最高の大盾です!」

俺の質問に対しヴィクトリアは自慢げに語っている。


 別に前回の支給品の大盾が粗悪品なんじゃなくて、ヴィクトリアの能力が高すぎるから大盾の方が追いつけていなかった感じだけどな。

 更に言うと女神ネットワークでこの世界の知識を無駄に蓄えたコイツは一丁前にオリハルコンなんて言葉を使ってきやがる。


「オリハルコンを使った武器をよくギルドが貸してくれましたわね。ゴールドランクじゃないと普通は借りれない筈ですが……」

横からパトリシアがヴィクトリアの大盾に視線を当てながら聞いてくる。

「そ、それは……私の見た目が美しいからギルドの職員が気前よく貸してくれましたよ! あははっ!」

ヴィクトリアはパトリシアの質問に目を泳がせながら、笑って誤魔化していた。


 そう、俺は見ていたのだ。

 ヴィクトリアがこのクエストに出発する前にギルド職員の方々にネチネチとイチャもんをつけてあの大盾を奪っていた事に。

 

 ……本当にすみません。ギルド職員の方々。

 俺がヴィクトリアに「ちゃんと大盾借りてこいよ」とか言ったばかりに……。

 心の中で職員の方々に俺は謝り続けた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 そして、その後も他愛もない話を四人で続けていると、コボルトの住処へと到着した。

 そこは一面を木々が覆い尽す程の森の中で、コボルトらは自然に出来た洞窟内で生活しているらしい。


 聞けばコボルトとは一個の群れで百体ぐらい居るみたいだ。

 これを聞くと正直、数で押されるんじゃないかと思われるかも知れないがコボルトらの知能は低く、ちゃんと一体ずつ倒せば大丈夫との事。


 しかもコボルト達は酷いことに、山菜を取りに来た老人や子供をたまに襲ったりもするらしい。

 だから少しでも生息が確認されるとギルドとかに募集が掛かるみたいだ。

 

 俺は初めてクエストで間接的に人を救える行為をしていると思うと、少しテンションが上がっている。


高鳴る衝動を抑えて俺は三人に顔を向けると。

「ここからならコボルトの奴らにもバレないだろう。今一度作戦の概要を確認するぞ」

「了解ですっ」

「承知しましたわ」

「おうッ」

三人は声のボリュームを下げつつ返してくれた。

今、俺達はコボルトの奴らに変に警戒心を与えないように茂みの中から様子を伺っている。


「まずはヴィクトリアのスキルでヘイトを引く、そしたら俺とパトリシアで出てきた奴らを順序よく倒していく。……あとは不足の事態が起こった時用と怪我した時用に今回の切り札、ユリアの魔法が肝だ」

俺はギルドの酒場でヴィクトリア達が話していた内容をリーダーっぽく述べてみた。


「ねえパトリシア。あれって私達が提案した作戦ですよね?」

「ええそうですわ。きっとユウキはパーティリーダーとしての風格を作っておきたいんですのよ」

何やらコソコソと二人で会話しているようだが俺は無視した。

と、そこでユリアが小さく挙手すると。

「……あのぉ、オレの魔法に期待してくれているのは嬉しいが、あくまでも支援系だという事忘れないでくれよ?」

「あぁ、大丈夫だ。ちゃんと分かっている」

俺はギルドで作戦会議をしている時の会話を思い出していた。


 作戦も纏まって、いざ出発! っとなった所で俺達はユリアにこう言われたのだ。「オレの得意魔法はヒールで、一応攻撃魔法も扱えるのだがその……詠唱に時間が掛かる上に結構グロ事になるで……出来れば使いたくないんだよなぁ~ははっ」その時のユリアの声色はどこかだった。


「ユウキの言う通り大丈夫ですよユリア! そ・れ・に・! 不足の事態なんて起こさなければいいだけの話ですから!」

ヴィクトリアはユリアの言葉にフラグとも言える言葉を返していた。


 本当に大丈夫なんだろうか?

 まあ、こう見えてもヴィクトリアは幸運値だけは高いし、その影響が言霊に乗ってくれると良いな。

 あれ? これって前回も言っていた気がする……ような?

 

俺は前回のブラックバード戦で言っていた言葉を思い出そうとしていると、パトリシアが横から声を掛けてきた。

「そろそろ始めませんこと? 日が暮れてしまいますわよ」

「そうですよ! 作戦も確認できた事ですから早速奴らをボッコボッコにして金に変えちゃいましょう!」

ヴィクトリアは拳を握るとボキボキッと鳴らしながら言ってきた。

……やっぱコイツ女神じゃねえや。


 だが、二人の言うことにも一理ある。

 森の中で日が暮れると完全にコボルト達の独壇場になってしまう恐れがあるからだ。


 だが俺は装甲を起動すると、眩い光を放つという呪われた性質持っている為に起動したら即戦闘が始まることが予想される。

 つまり、前もってヴィクトリアにヘイトを集めといて貰う必要があるのだ。


 俺はヴィクトリアとパトリシアに共に行動するように伝えて、洞窟の入口付近へと待機させた。


「……あとはユリアだが、ここから援護を頼むぞ!」

「了解したッ」

俺は横に居るユリアに言うと、杖を握り締めながら頷いていた。


 魔法使いの基本は後方で詠唱して、大爆破や回復といった援護が主の仕事だ。

 これはゲームとかでも変わらないだろう。

 だから後方にて待機させる。


「よしヴィクトリア! ヘイトを集めろォォ!! 討伐開始だ!」

「了解ですっ! さあコボルト達よ集まってきなさい! スキル『アトラス』!」

俺が茂みから出て洞窟に向かって走りながら言うと、ヴィクトリアは大盾を構えてスキルを発動した。


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