15話「コボルト達の第一陣」

 ヴィクトリアがスキルを発動すると、洞窟の中からおびただしい程の足音と唸り声が聞こえてきた。

 無事にスキル『アトラス』がコボルト達に効いたのだろう。


「パトリシア! しっかりとヴィクトリアのカバーしつつ俺と同時に出てきたコボルト達を討伐していくぞ!」

「ええ! 言われなくとも大丈夫ですわ!」

俺は洞窟の入口近くまで走って声を掛けると、パトリシアはしっかりと洞窟の入口を見据え刀を構えていた。 


 よし、今なら装甲を起動しても問題はないだろう。

 ……てか早く纏わないと俺が危ないッ! アレ一応防具としの役割もあるし!


 それに! 今回は事前にちゃんとカッコイイ台詞も用意しといたんだ。

 まったくこの機能は急いでる時ほどウザったいぜ。


俺は急いで右腕を天に掲げると、なるべくイケボ風に。

「行くぞ! 我が力は森羅万象をも超え、調律されし理の力ッ! 起動せよ装甲ォオ!」

と、言い放つ。

そしていつもの如く、眩い光が俺を包んでいくとヴィクトリアとパトリシアが何か言ってきた。

「相変わらず眩しいですねその! 何とかならないんですか!? 毎回目がチカチカしますよ!」

「ヴィクトリアの言う通り目がチカチカしますわ……。それにユウキが纏っているその装備はどこの街でも見たことがありませんわ……一体何処で作られた装備か気になりますの」


 いやいや、この機能を付けたのってヴィクトリアじゃないのかよ。

 俺はしっかりと覚えいているぞ。これはサービスですよってお前が言っていたのをよォ!

 

 それにパトリシア! お前が気になっているのは装甲の方じゃなくて、装甲に搭載されているブレードの方だろ! さっきからチラッチラッと見てきてんじゃねえよ!


「お前ら文句はいいから、しっかりと態勢を整えとけ! 相手は武器も使ってくるんだぞ!」

俺は注意力が散漫になりかけている二人に対し注意すると、何かを察知したのかちゃんと前の方を向いて身構えていた。


「きますわ……!」

パトリシアが言うと同時に洞窟の中からは第一陣と思われるコボルト達が姿を現した。


 そのコボルト達の見た目は小さ体格で赤い皮膚をしている。

 体に見合った小さな短剣やボウガンを持っていて一目散にヴィクトリアの元へと走っていく。


俺は案の定コボルト達からは華麗なるスルーを受けると、ブレードを引き抜いた。

「パトリシア今だッ! 殺れるだけ殺れ! 討ち残しは俺が受け持つ!」

「分かりましたわ! このコボルト風情が、ヴィクトリアには触れさせませんわよ! スキル『ホーリーエクスブロード!』」

パトリシアが主人公みたいな台詞吐くと、ヴィクトリアの近くにいたコボルト達を瞬く間に切り落としていく。しかもコボルト達が放ったボウガンの矢すらもなぎ払って。


 それはまるで芸術作品のような繊細さすら感じさせる鮮やかな剣技の舞であった。

 周りにはコボルト達の亡骸が転がり体中から真っ赤な血を流して、地面には血だまりが出来上がっていた。

 

 ……これは素人目線で語るが、パトリシアってもしかしたらかなりの剣豪なのでは?

 ブラックバード戦でも的確に羽を切っていたし……。


 どこかで聞いた事がある。

 鍛え抜かれた剣技は見るものを魅了すると。

 実際俺は少しの間だが魅了されていたと自覚できた。



 …………って違うッ! 違うぞおぉおお!

 何を俺は傍観しているんだ! ちゃんと役割を果たせ俺!

 と、自分を鼓舞していると。


「ひぃやぁあ!! 後ろからも来てますよぉおお! ちょっと誰かぁぁあーー!!」

ヴィクトリアは大盾を前に突き出しながら首だけ後ろを向いて叫んでいた。

多分、第一陣に気を取られているうちに少数のコボルト達は背後に回っていたのだろう。

知能は低いと聞いていたが、どうも馬鹿ではないらしいな!


パトリシアはヴィクトリアの悲鳴を聞くと俺の方を向いてきた。

「私とした事が……コボルト如きに背後を取らせるとは……。すみませんがユウキ! ヴィクトリアのカバーをお願いしますわ!」

「あぁ任された! で、パトリシアはどうするんだ?」

俺は急いでヴィクトリアの背後へと行き、ブレードを構える。

「私はこのまま前線を維持しますわ!」

パトリシアは相変わらずカッコイイ事を言っている。


 この討伐作戦が開始してまだ五分程度だが、既に戦況はぐちゃぐちゃになっている。

 パトリシアが前線を維持しつつヴィクトリアが只管にヘイトを引き、俺がその死角をカバーするといった具合になっている。

 

「やはり数が多いと乱される……なッ!」

俺は飛びかかってきたコボルト達の腹を切りながら文句を言う。




「はぁはぁ……。皆、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですわ!」

「上半身だけで這いずって近寄ってくるのは想定外でした……絶対に夢にでますよアレ……」

俺が辺りを警戒しつつ声を掛けると、二人は息を切らしながら返事をして、茂みの中からはゴソゴソと草が擦れる音がすると、ユリアが杖を左右にふって大丈夫というアピールをしてきている。


 よし、今のところガタガタではあったが順調と言えるだろう。


 第一陣のコボルト達を何とか制圧すると、ヴィクトリアのスキルがクールタイムに入った。

 再度使用するまで、洞窟の入口に気をつけながら休憩する事となり作戦会議を開くことにした。

 幸いコボルト達も警戒しているのか、洞窟から出てくる気配はない。


「それで……どうします? まだ中にどれだけ居るか分かりませんよ?」

「さっき倒しただけでも半分ぐらいですの……。まだ中に相当居ると言っても過言じゃない筈ですわ。……」

ヴィクトリアが中腰の姿勢で聞いてくると、パトリシアが納刀しながら言葉を詰まらせた。


「どうしたパトリシア? 何か不安要素でもあるのか?」

「い、いいえ! 何でもないですわ!」

俺は気になり聞き返すと、パトリシアは見るからに不自然な慌て方をしていた。

この時、俺はある一つの可能性を見出した。


 そう、女性が野外で慌てる時、それはトイレを我慢しているのではないかと!

 男ならその辺で出来るから対して慌てる事もないのだが、女性はそうはいかないのだろう。

 

俺はこのまま我慢した状態で作戦を続行され、支障をきたされると困るのでパトリシアの方を向いた。

「おい、トレイなら今のうちにしてこいよ! 俺はデリカシーのある人間だ、から大丈夫だ!」

「……ば、馬鹿ですの!? 女性に向かってトイレしてこい、だなんて……! そんな言葉はデリカシーのある人からは絶対にでない言葉ですわ!」

パトリシアは俺の言葉を聞くと、顔を赤くさせて体をプルプルと震えさせている。

「まあ、童貞のユウキにデリカシーを求めてはいけませんよ」

横からヴィクトリアが煽りを入れてくる。


 ……なんだよコイツら。俺がせっかく気を使ってやったんだぞ!

 音を聞かないなんて大分譲歩した方だと俺は思うが……これ以上何か言うと変態扱いされそうなので黙っておこう。


それより。

「はぁ……。本当にトレイ行かないなら、このまま後半戦の作戦を考えるが良いか?」

「も、もちろんですわ! それ以上言いますと切り倒しますわよ!!」

俺は早く作戦を練りたかったので、パトリシアに再度確認すると刀の柄を握り始めたので直ぐに視線を外した。




 そして、数分が経過すると俺達は新たな作戦を思いつき実行する事となった。

 内容としてはこうだ。

 まず、俺がレンジャー職で所得したスキル『クローク』によって洞窟内に潜入して残りの敵数と様子を確認してくる。

 その後、ヴィクトリアがスキルのクールタイムを終えて再度使用して残党を狩る。

 言ってしまえば簡単だが、潜入する俺は凄く怖い。敵陣に突っ込む訳だからな。


 ちなみにスキル『クローク』とはレンジャー職で取れる隠密スキルで、数分間気配と足音を消して敵に気付かれないようにする物だ。

 しかし、敵に攻撃したり明確に敵に気づかれたりすると解除されてしまう。


 敵陣のど真ん中で解除されたらと思うとゾッとするが仕方ない。

 やるしかないのだ。言いだしっぺだし。


 そして、今洞窟付近に居るのは俺だけだ。

 ヴィクトリアとパトリシアはユリアの方に行って貰った。

 この作戦を伝える為と言うのもあるが、パトリシアが急に「お茶の時間ですわ」とか言い始めたからだ。

 

 しかも、アイツちゃんと自前の小型テーブルと紅茶セットを持ってきていのだ。

 ピクニックじゃないんだから……と言いたかったが、何故かヴィクトリアも「お茶飲みたーい!」とか言い出したので、まとめて後方に送ったのだ。


 ったく……敵が目の前に居ると言うのに……何たる隙だらけの行為。


「まぁ……ぐたぐた言っててもしょうがない、行くか! スキル『クローク』!」

俺は初めてスキルを使うと、全身が軽くなったような感じがした。


 だがしかし――――。


 これ本当に気配とか消えているのか?

 スキルを使ったはいいが、如何せん信用がなぁ……。

 何か試せれる事があればいいんだが……あっそうだ!


 俺はヴィクトリア達が居る茂みまでノロノロと近寄っていくと三人が仲良くお茶を楽しんでいる光景が視界に入った。

 チッ……お前達だけ呑気にしやがって! よし、お前達で試させてもらうからなッ!

 

 俺はその辺に生えていた猫じゃらしを引っこ抜いて持つと、ヴィクトリア、パトリシア、ユリアと順番に首筋へと当てていった。


「ひぃやっ!?」

「な、なんっ……ですの!?」

「はわっ……!」

三人は飲みかけのカップを机に置くと、後ろ見たり横を見たりと忙しく首を動かしている。

けれど俺に気づいている様子はなく、スキル『クローク』は成功しているみたいだ。


 俺はその事を確認すると、そそくさと離れて洞窟の入口へと戻った。

 

「よしゃぁあ! 見えないなら無敵だオラッ! 行くぞぉお!!」

意気揚々と俺は洞窟の中へと入っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る