13話「ギザ歯の女賢者、現る」

 コボルト退治のクエストを受けることになったのだが、前回のブラックバード討伐で文字通り痛い目を見たので今回はもう一人、ヒーラー系魔術士を連れて行こうと俺は考えた。


 早速、メンバー募集の提示版に紙を張り出してのだが……既に三十分が経過しようとしていた。

 待てど待てど、一向に誰も来る気配がない。

 何がいけないんだろうか、それとも初心者冒険者にとってそれ程までにヒーラー役は人気なのだろうか? 


 ……いや人気だろうなぁ。


 ヒーラーがいれば一々、軽い傷如きで病院なんぞ行かなくても済むからな。

 それにこれは俺の妄想なのだが、ヒーラー系って基本美女しかいなくね?

 某RPGゲームの僧侶や賢者も美女だし。ラノベとかでもそうだったし……。


 うーむ。これは思ってた以上に難航しそうな予感だ。


 そして、流石の俺も待ちくたびれたので、今は酒場の端っこの席で水を飲みながらウェイトレスさん達のお尻を目で追いかけている最中だ。


「あぁー。あのウェイトレスさんお尻でかいな……凄く良いッ!」

俺はお尻を凝視しながら呟くと、水を一口飲んだ。


 このギルドの酒場は水をただで出してくれるので、いくら飲んでも無料だ。

 うん、最高。


 噂では魔法で出した水とか何とか言ってたいが、俺もそういう便利な魔法が欲しいなっと思う。

 火とか水とか風とかな! 男子たる者、魔法とは永遠の憧れだろう。


「あっ、そう言えば……」

俺は魔法繋がりで一つ気になることを思い出した。


 この前、レンジャースキルを取っていた時に変な項目が現れたんだよな。

 あの機械を触っていると、右端に【???】と書かれた項目が現れてビビった俺は特に何も弄らずそのままにしといたが……一体何だったんだろうか?


 ちなみにあの機械とはプレートをセットしてステータスを反映させる機械のことな。

 なんかもう面倒いから俺が勝手にとでも名づけてやろう。


「にしても、問題はコイツだな。……はぁ」

右手首に付いている白いブレスレットを見て溜息をつく。


 この前のブラックバード戦では最初だけ動いて後半はただの鉄屑となりやがったからな。

 何を条件に動かなくなるのか未だに不明だ。

 

 しかもこれは俺が日本で使っていた装甲ではあるが、機能が殆ど動いていない。

 と言うのも本来ならこの装甲には日本の技術がふんだんに注ぎ込まれているのだ。

 例えばスラスターで一気に加速したり、空を飛んだり、”燃料”を使って驚異的な怪力を使ったりな。


 ……ん? 今は俺は自分でさらっと大事な事を言わなかったか?


「あぁそうだよ! 燃料だ!」

椅子から音を立てて立ち上がると、そんな俺の声を聞いて周りが一斉にこっちを向いた。

「あっ……す、すいません。何でもないっす……」

俺はペコペコと頭を下げると静かに椅子に座る。

 

 やべえ、超恥ずかしい。

 だ、だが! そんな事はいい! 問題は今、この装甲は何を燃料にして動いているのかだ。

 

 日本に居た時は、専用の”装甲コア”というのを入れて動力源にしていたが。

 流石に中世ぐらいの文明しかないこの世界にそんな物はないだろう。


 うーん。だとしたらこの世界にしかなくてコアの代わりになる物……。

 俺は脳をフル回転させて考えた。



 そして――――ある一つの可能を発見した。



「そうか! この装甲は俺のステータスを動力源にしているのか!」

再び席から勢い良く立ち上がって声を上げると、今度はウェイトレスさん達から睨まれた。

きっと水しか頼んでいなのに騒ぎやがって、とでも思われたのだろう。

「す、すいませんっした!」

俺は高速で頭を上下に下げると再び椅子に座った。


 しかし、これでやっと謎が解けたな。

 最初にこの世界に落とされた時に装甲が動かなかったのは、この世界の概念でもあるステータスがなかったからだ。

 そしてギルドでレンジャー職を選んだ時に初めて俺にステータスが付与され、それが装甲の動力源となった。

 

 だが、レベルが低い俺はブラックバード戦の後半で動力切れを起こして動かなくなった。

 つまり俺のレベルが上がれば上がるほど、この装甲は自由に動く! という事だな。

かなり無理やり感があるが、それぐらいしか今は可能性が見えない。


と、俺が一人で納得して水を一気飲みしていると、背後から声を掛けられた。

「お前が、ヒーラーを募集している者だな?」

「えぇそうです……け……ども?」

振り向きながら言葉を返すと、そこには杖を片手に真っ黒いコートに身を包んだが立っていた。

 見るからに魔法使い系の職業だと窺わせる。


「そうか、なら私をパーティに入れてくれないだろうか? きっと役に立つ事を保証するぞ!」

「は、はぁ……。その前にお互いに自己紹介しないか? 名前すら分からないんだが……」

目の前の少女は杖を振りかざしてアピールすると、俺はタメ口になっていた。

姿を見るからに年齢は俺と同い年といった所だろう。


「あ、あぁそうだな! じゃあ、まずはオレから自己紹介するぞ! 職業はをやっている! ちなみに賢者と言っても攻撃系ではなく支援系の方だから安心してくれ。そして名はユリアと言う以後よろしくっ!」

そう言ってユリアは俺にニコッっと微笑んできた。


 ……ど、どどうしよう。

 異世界補正なのか何なのかは知らんが、このユリアって子凄い美女だ!

 容姿は黒髪ポニーテールに赤目……しかもだ……これは漫画やラノベでしか有り得ないと思っていたが、何とユリアはギザ歯なのだ!


 うぉおおぉ!! 女神様ありがとうございます!

 俺は一度でいいからギザ歯の女の子に会いたかったんだ!

 よしゃっ夢叶ったぜ。


「ユリアって言うんだな。よろしくな! 俺はユウキって名前で職業はレンジャーをやっている。他にあと二人仲間が居るんだが、どちらも上級職なので安心して欲しい」

俺はユリアに自己紹介すると、あと二人メンバーが居る事を簡素に教えた。


「おぉ凄いな。その下級職でよく、上級職がそこまで集まったものだ。もしかしてユウキは……」

ユリアは何かを言いかけると途中で言葉を止めた。

「もしかして何だよ? てかユリアだって上級職じゃないか、案外この街には多く居るのかもな」

途中かけの言葉が気になると同時に、俺は最初の街ミストルに上級職が多く居る事を不思議に思った。


「いや、気にするな。それより他のメンバーとクエストについて知りたい。作戦会議の場を作ってくれないだろうか?」

と、ユリアが言ってくるので、俺は酒場で串物を頬張っているヴィクトリアと紅茶を永年と飲んでそうなパトリシアに向かって大声で呼んだ。




「まったく……なんですの? 大きな声で呼ばれると流石に恥ずかしいのですが……」

「そうですよユウキ! ビックリして喉に焼肉が詰まるとこでしたよ!」

二人が俺に呼ばれて席まで寄ってくると、文句を言い始めた。


 まだパトリシアはいいとして、ヴィクトリアは本当にクエストに行く気があるのか?

 口の周りを肉汁でテカテカにしやがって。

 

 ……てかその金はどっから出てるんだよ。

 ちゃんと自分の金なんだろうな?

 数少ないクエストの報酬金を使っていたら、身包みを剥いでマッサージ店にでも働かせにブチ込んでやるからな。

 

 まあ今は、取り敢えずこの二人をユリアに紹介しないとだな。

 さっきからユリアが目を丸くしてキョロキョロしてやがるぜ。


「ンンッ……。紹介が遅れたな。この二人が俺の仲間だ」

この言葉でようやく二人は呼ばれた理由を理解できたのか、ユリアを見てハッっとした表情をしていた。

「初めまして! 私はヴィクトリアです! 無理やりシールドマスターをやらs」

ヴィクトリアが自己紹介ついでに何か変な事を言いそうだったので、俺はすかさず手で口を塞いだ。


 うわぁ……咄嗟だったから忘れてたけどコイツの口周り肉汁でベタベタだった……最悪。


「んー! んんー!!」

ヴィクトリアは必死に何かを言おうとしているが、俺は気にするなと言わんばかりの視線をパトリシアとユリアに送った。


すると次はパトリシアが前に出て。

「初めまして、私はパラディンをやっていますパトリシアと申しますわ」

うちの聖騎士は優雅にお辞儀をしていた。

 

 そしてユリアはパトリシアの綺麗な立ち振舞いに見蕩れているのか、その場から動かなくなってしまった。

 

このままでは話が進まなくなってしまうので俺が声を掛けると。

「お、おーいユリア? どうした?」

「……あっ!? す、すまない。の人とは初めて遭ったもので……」

ユリアは意識を戻すとパトリシアから視線を外した。




 さて、仲間同士の自己紹介も終わった所で次は、席に座りながらコボルト討伐クエストについての意見交換を始める事になった。

 と言っても、俺はゲームでの知識しかないので話し合いを聞いて頷く役に徹している。

 

 ヴィクトリアは何時ぞやのなるもので、この世界の女神と情報を共有できたらしく魔物やこの世界についての知識が増えつつある。

 ぼっち女神だと思っていたのに、いつの間にか友達を作っていたとはな。

 

 俺はコイツに情報を送っているそんな物好き女神は一体誰なのかと聞こうとしたら、ヴィクトリアは焦った顔で「無理です! 絶対に教えません!」と返してきたので追求はしていない。

 

 しかし、これでやっとクエストに出れそうだ。

 後は誰もをする事なく、に皆で帰ってこれると良いな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る