11話「女騎士は剣がお好き」

 二体目のブラックバードを倒した俺達はやっとの思いでミストルの街まで戻ると、ボロボロになった体を引きずってギルドに討伐報告をしに行った。


「あのぉ……随分とその……傷だらけですね」

受付のお姉さんは報告をしに来た俺達を見て苦笑いしている。

「えぇ……。色々とあったので。……それより! ちゃんとブラックバード討伐してきましたよ!」

俺はもう早く宿屋に戻って時間が許す限り寝たかったので、食い気味でお姉さんに言った。

「……あぁ! そうでした。私がクエストを紹介したんでしたね! それでは冒険者ドックタグをこちらに提出してください」

受付のお姉さんは俺の食い気味な姿を見ると少し仰け反った姿勢を取って引き顔だったが、直ぐに仕事用の顔に戻って木製のトレイを差し出してきた。

 

 どうやらこのトレイにドックタグ乗せればいいみたいだな。

 俺達は言われた通りに首からドッグタグを外すとトレイに乗せた。


「では、確認してきますのでしばらくお待ち下さい」

「あ、はい。分かりました」

受付のお姉さんはドックタグが乗ったトレイを持つとカウンターの奥へと消えていった。


 ……これは街に戻ってギルドに向かう途中にパトリシアから聞いた話なのだが、この世界では倒した魔物のデータ? 因子? みたいなのが逐一ドックタグに反映されるらしい。

 

俺はそんな科学をも超えた原理に少し興味を惹かれパトリシアに詳しい事を聞こうとしたら

「そんな事、考えた事もありませんでしたわ」

と、言われて真相は分からなかった。


 やはり異世界のテクノロジーというか、魔力というか、そういう文明レベは日本よりだいぶ進んでいるな。

 いや……そもそも世界が違うから比べることすら可笑しな話か。

 日本に魔力なんてないし。


「ねえユウキ? 私、ギルドから借りた大盾壊してしまったんですけど大丈夫ですかね……?」

俺の左から戦意喪失からすっかり回復したヴィクトリアが聞いてきた。

「あぁーそうだったな。とりあえず、他の受付の人に聞いてみたらどうだ?」

「分かりました! あ、あと! あの約束忘れで下さいよ!」

そう言ってヴィクトリアは他の受付に大盾の報告しに行った。


 あぁー。そうだったな。

 初回の報酬を多めにやるからって条件で金を巻き上げていたんだっけか。

 結局、倒せた数は二羽だけだからなぁ。

 クエストの情報通りなら一羽、五千パメラ……つまり二羽で一万パメラになる筈だ。


 …………正直に言おう。もう俺は異世界で生きていける気がしない。

 あの存在チートヴィクトリアを使って一日で稼げるのがこの額って終わってるだろ。

 

 はぁ……。何か嫌になってきたなぁ。

 魔王討伐だなんて夢物語だろ。


 と、俺がこの先の未来を考えて不安になっているとパトリシアがモジモジしながら視線を送ってきている事に気がづいた。

 そう言えばブラックバードが現れる前にも同じ仕草をしていたな。


 もしかしたら本当にパトリシアはのでは……?

 ほらよくあるじゃないか、吊り橋効果的なので男女の距離が一気に縮まる奴。

 これは、もしかしたら俺にも春が来たのかも知れないぞ!


「なあ? さっきから何をそんなに俺を見ているんだ?」

俺は最初から確信を突くのではなく、軽めのジャブから入った。

しかし、パトリシアは尚もモジモジしている。

なんなら頬が若干赤くなっている気もしないではない。

「…………もしかして惚れたのか?」

俺はこの言葉を言うか一瞬迷ったが、ここしかないッ!っと思い声をキョドらせながら訪ねた。


 そして……パトリシアはコクリッと頷いた。


「ま、マジなのか!?」

俺は自分の顔が熱くなっていのを感じた。


 うっぉおおおお!! きたぁぁぁ!! やはり俺の考えに間違えはなかったァ!

 年齢=童貞の俺だが、やっと人生の春を迎えれそうだ!

 よし、今日は奮発して美味しいご飯を食べに行こう!


 と、俺が喜びに震えているとパトリシアがやっと口を開いた。


「ユウキの……その……しまいましたわぁぁ!!」

パトリシアは両手で顔を覆って顔を左右に振って悶えている。


 ……は? えっ? 何を言っているんだこの女は。

 俺の剣に惚れた? ちょっと待て意味分かんない。


「あー……どういうこと?」

俺は人生でもっとも最高潮だった所から一気に落とされると、事情がよく分からず戸惑いながら聞いた。

「い、いきなり言われても困りますわよね……。実は私は……」

パトリシアは顔から両手を離すと語り始めた。


 そしてその話を纏めるとこのパトリシアという女……つくづく分からない。

 主に性格面が。

 

 パトリシアは珍しい剣を見るとついつい欲しくなってしまうとしての顔があるらしい。

 これまでにも世界中の珍しい剣を買い集めているそうな。

 日本刀もその一環らしくデザインと切れ味を気に入っているからだそうだ。

 

 はぁ……。何だよ。せっかく人生の春を迎えれると思ったのに、ただの剣好きのオタクって。

 そんなオチありかよ……。

 畜生、俺が童貞だからってモテ遊びやがって!

 

 あぁぁあぁ!! こうなったら帰って自棄酒やけざけならぬ、やけ食いをしよう。

 俺は糠喜びをさせれた気分になっているとヴィクトリアが戻ってきた。


「ユウキ! 大盾の件は何とかなりましたよ!」

ヴィクトリアは笑顔で俺を見てきた。

「そうか……なら良かったぜ……」

今の俺にはそんな笑顔すら届かなかった。

「……? どうしました?」

「何でもない。気にするな」

ヴィクトリアは俺の顔を左右から覗き込んでくるが、全てがどうでもいいので気にしない。

本当なら鬱陶しいっと言ってアイアンクローでも食らわせてやるとこだがな。


 俺の右には童貞を弄ぶ剣オタクのパトリシアが居て、左には未だにチラッチラッと俺を見てくるヴィクトリアが居る。

 そんな奴らに両サイドを挟まれ、数十分が経過するとやっと受付のお姉さんが戻ってきた。

 

「すみません! お待たせ致しました。確かに討伐を確認しましたので報酬を支払わせて頂きます。……っとその前にドックタグをお返ししますね。後で機械にセットしてけてくださいね!」

言いながら受付のお姉さんはドックタグを乗ったトレイを俺達に前に置いた。

「分かりました」

「承知しましたわ」

「私もう……スキルカンスト済み……」

各自返事をしてからドックタグを受け取る。


 それにしても、やっと報酬金が貰える……! こちとらもうそれだけが頼りだぜ。

 例え額は少なくてもお金はお金だ。ヴィクトリアの装備代に少しでも回せれば後々利益になるだろう。


「それではこちらが今回の報酬金、パメラになります!」

受付のお姉さんは紙幣と硬貨をトレイに乗せて出してきた。

「……は?」

俺は差し出された金額を見て、普通に疑問に思った。

あれ? なんで金額減らされてるの? 一万パメラじゃないのか?

俺達が初心者冒険者だからって舐めているのか? この巨乳の受付お姉さんは。


「あのー? 一万パメラじゃないんですか?」

もしかしたら受付のお姉さんは間違って出しているのかも知れないと思い、俺は聞くことにした。

だが……受付のお姉さんは凛とした態度で。

「いえ、これで合っていますよ。大盾代を引いての報酬金です」

「えっ? あれって初回無料の筈では?」

「確かに初回は無料ですが、破損した場合は修理費用を頂きます」


 な……んだと……。


俺はその言葉を聞くと即座にヴィクトリアへと顔を向けた。

「おい、お前さっき大盾は何とかなったと言ったよな?」

「そ、そうでしたっけ……?」

ヴィクトリアは俺の顔を見ようとせずに只管ひたすらに目を逸らし続けた。


 チッ……まあ、しょうがない。壊してしまったのはこちらの不注意だ。

 ちゃんと弁償代ならぬ、修理費は払わないとな。それはどこの世界でも共通ルールだ。


 俺は減額された報酬金を受け取ると、横に置いてある機械へと向かった。

 いつまでも悄気てはいられない。

 たとて美人騎士が俺を弄ぼうと、女神のせいで報酬を減額されようとだ! 


返してもらったドックタグを機械へとセットすると俺はステータスを確認する。

「おぉ……すげぇ。ちゃんとレベルが五も上がってるぞ!」

受付のお姉さんが言っていたスキルポイントの振り分けを行うのだ。


 うーむ。こういうのを見るとゲーマーの血が疼くな。

 使えるスキルポイントは十五ポイントか。一レベルで三ポイント付くみたいだな。


 さてさてここからは大事なとこだな。

 レンジャー職だからを取っていきたい。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 俺が無事に新しいスキルを習得するとギルドから出て、温泉へと向かうことになった。

 体中はブラックバードのせいで傷らだけだし、何気にこの世界に来てから風呂に入っていなかったからな。


 ちなみにパトリシアはしっかりと付いてきているぞ。

 なんなら俺達のだ。

 

 その出来事は数分前に遡る。




 俺とヴィクトリアがギルドから出ようとした所、急にパトリシアに呼び止められて振り返ると真剣な顔つきで

「わ、私を貴方方パーティに入れて下さらないかしら……? 不甲斐ないことに私はまだまだ騎士としては未熟者ですの。あの時、貴方方が居なかったら私はきっと……あの場で……。ですから! 是非とも私をパーティに入れて下さいですの! 私は何者にも負けない騎士になりたいんですの!」

深々とお辞儀をしていた。


 俺とヴィクトリアはお互いに顔を合わせて頷くと

「あぁ、もちろん歓迎するぞパトリシア。元々今日の討伐活動を振り返っていると、どうしてもメンバー不足が原因だったのもある気がしたんだ。だからむしろ俺達の方からお願いしたいぐらいだ」

「そうですよ! 最弱職のユウキより上位職のパトリシアがいてくれた方がよっぽと心強いですしね!」

俺達はパトリシアに思いを伝えた。


……するとパトリシアは顔を上げて

「ありがとうですわ……! 騎士の名に恥じない活躍をお見せしますわ!」

と、胸を張っていた。


「おう、期待しているぞ。これからよろしくなパトリシア!」

「一緒に頑張りましょうね! パトリシア!」

俺とヴィクトリアはニッコリと笑みをパトリシアに向けた。

「はい! よろしくお願いしますの! ユウキ、ヴィクトリア!」


 …………よーし! 何か良い感じの雰囲気だから乗ってみたが、意外と簡単に上位職でしかも美人の女騎士ゲット出来たぜ!


 まあ、性格面が変だけど。

 フッ……これでまた俺の冒険者活動が楽になりそうだ。多分。


 と、いった感じの出来事があったのだ。


「そう言えばユウキ? 私に何か忘れていませんか?」

「はて? 俺は何か忘れているのか?」

「…………多めにくれるって言いましたよね?」

ヴィクトリアは俺をジト目で見ながら聞いてきた。


 何でコイツはこんなにも自分に素直なんだろうか。


「あぁ。そんなもんチャラだチャラ。修理費でお前の分は消えたと思え」

俺が人差し指を向けて言うとヴィクトリアが掴みかかってきた。

「何でですかぁぁぁ! あれはユウキが無理やり私を前線立たせたからじゃないですか!?」

「うるさい! あれが本来のタンクの役割なんだよ! 覚えとけ!」

文句を言いながらユサユサとヴィクトリアが俺を揺らすと、そんな光景を見ていたパトリシアが笑いながら呟いた。

「ふふっ。ユウキ達は随分と仲が良いんですのね」

「「どこが!?」」

俺とヴィクトリアは同時に同じ言葉を出してパトリシアに向いた。

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