6話「勝利の女神」
俺とヴィクトリアは無事に職業を決め終えてギルドから出ようとした所、先輩冒険者達から熱い歓迎を受けてしまい、しばらくの間帰るに帰れなかったが……。
お酒の力で殆どの先輩冒険者が酔いつぶれるとやっとギルドから出ることができた。
「はぁ……やっと開放された……」
酒と料理の匂いが充満するギルドから出ると、俺は新鮮な空気を吸って吐いてから呟いた。
「私はあのピギーのステーキが気に入りました! 週一で食べたいですね!」
先輩冒険者達の奢りでステーキを食っていたヴィクトリアはご満悦の様子で言ってきた。
女神でもあんなガッツリとステーキにかぶりつくもんなんだな。
やっぱり見た目だけで中身はおっさんか悪魔入ってるだろ。
俺の親友の方がもっと上品に食うぞ。
っと……そんな事を考えている場合じゃないな。
「良いかヴィクトリア。ギルドが終わったら次は宿屋だ!」
ギルドで過ごした時間が長かったせいか外は既に真っ暗だ。
詳しい時間は分からないが、恐らく午後八時ぐらいだろう。
「そうですね。お腹はいっぱいなので後は寝るだけです!」
ヴィクトリア自分のお腹を叩いてアピールしてきた。
「よし、宿屋を探しに行くぞ!」
「おぉー!」
俺は人差し指を多分、宿屋があると思った方に向けて言うとヴィクトリアも腕を掲げて叫んでいた。
やっと冒険者らしい台詞を言えた気がするな。
俺は満足気に歩き出そうとするとヴィクトリアが袖を引っ張ってきた。
「ちょいちょい、宿屋はそっちじゃなくてこっちですよ」
「そ……そうですか」
ヴィクトリアは顔をクイッと動かして方向を教えてくれた。
違うなら違うって早めに言ってよ! なにをノリノリに一緒に叫んでるんだよ!
俺は少しの羞恥心を抱えながらヴィクトリアと共に宿屋を目指して歩き出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「マジか……よ……」
俺は一つの看板を目にすると、そんな言葉が自然と出てきた。
「これは……足りませんね……」
ヴィクトリアも俺と同じく看板を見て言っていた。
あの後、土地勘のない俺はヴィクトリアに再び案内を任せて付いていくと、外見も綺麗でそこそこの宿屋に着いたのだが……。
俺達の視界に入ってきたのは……看板に書かれた圧倒的な値段である。
「一泊、一万二千パメラだと!?」
た、高過ぎるだろ! 何だよこの値段はよぉ! 観光地付近のホテル並みの高さじゃないか!
こういっちゃあ悪いけど、異世界って何処か田舎っぽい雰囲気があって物価の値段とか安いと思ってたのに……!
「ど、どうします……?」
ヴィクトリアは未だに看板を見ながら言ってきた。
「どうするも何も……そんな金持ってないんだから、野宿しk……!?」
俺が最後の手段。野宿を言おうとした瞬間、勢い良く白い腕が両方を掴んできた。
「嫌ですうううう!! こんなモンスターが居る世界で野宿とか正気ですか!」
ヴィクトリアは俺の両肩をガッチリと掴みながら必死な顔を見せて訴えてきた。
正気も何も……これからクエストをこなしていく時に近くに宿屋が無かったらコイツどうする気なんだろうか。
「だったら他に方法があるって言うのか?」
他に方法がない以上今日は野宿して体を休めて、明日にはクエストに出たい所だ。
しかしヴィクトリアは俺の言葉を聞くとニヤッと口角を上げていた。
「任せて下さい! 残りのお金を返して頂ければパパッと増やしてきますよ!」
「…………ギャンブルでか?」
「もちろんです!」
ヴィクトリアは曇りなき顔で言い切っていた。
あぁー駄目だコイツ。破産するタイプの人間と同じ事言ってやがる。
「お前なぁ、そんな非現実t……」
いや待てよ? 待て待て。
確かコイツのステータスは勝率アップだったよな?
ってことはワンチャンあるのでは? そして上手くいけば、俺の初期装備代も稼げるのでは!?
うーむむ……やっぱり冒険者は度胸が大事だよな! ここはヴィクトリアに賭けるとするか!
最悪失敗したら、ヴィクトリアを酒場で働かせればいいしな。
俺は自分の中で結論を出すと、ヴィクトリアに顔を向けた。
「頼むぞヴィクトリア! 全ての力を使い資金を増やしてくるんだ!」
言いながら七千パメラを手に握らせた。
「フッ……誰に言ってるんですか私は
そう言ってヴィクトリアはお金を握り締めて、賑わっている街の方へと消えていった。
俺はヴィクトリアの姿が消えていくのを確認すると、宿屋の近くに置いてあったベンチに腰を下ろして待つことにした。
ああ言ったのはいいが……本当に七千パメラも渡して良かったのだろうか……。
一応、あれだけあれば安い装備なら買えた気がするんだよなぁ。多分だけど。
それに、いつまで俺は学生服を着てなきゃいけないんだよ。
場違い感凄まじいんだけど。
何かもっとこう……ファンタジーな世界に合う服が着たいな。
「はぁ……しかしこんな所で新事実発見とはなぁ」
頬を掻きながら俺は呟いた。
アイツが何の女神かが、こんなしょうもない事で分かるとは思わんかったぞ。
勝利女神……ヴィクトリアか。どうりで勝利率や運が高い訳だ。
まったく、女神ってのは存在がチート級だな。
俺はそんな事を思いながら空を見上げると無数に輝く星が視界に入った。
綺麗に輝く星達は空という黒色のキャンバスに装飾を施しているように美しい。
日本では絶対に見られない光景だと思うと、本当に俺は異世界に来たんだと実感させられる。
何度も言うけど……本当にここは異世界なんだよな。
日本に居る親友は元気にしているだろうか。
俺は今、頭のネジが数本飛んでいる女神に宿屋代を稼がせにギャンブルをさせに行かせた所だよ……。
俺の判断は間違っていないと切に願う。
そして……体感時間で数十分が経過すると俺の方に足音が近づいてきた。
「お待たせしました! ガッツリと稼いできましたよ!」
「おぉ! 良くやっ……た? …………お前本当にヴィクトリアか?」
「失礼な! こんなにも美しい私を間違えないで下さい!」
足音の正体はやはりヴィクトリアだったが……何故か金色フレームのサングラスを掛けての登場だった。
いや意味分からん。
「いやぁ……それよりそのサングラスどうした?」
「これですか? これは連勝したら貰える強者の証みたいな物です!」
ヴィクトリアはサングラスをクイッと動かしてアピールしてきた。
仮にも女神がそんな威圧的なサングラスを掛けていて良いのだろうか……。
「そ、そうか。それよりいくら稼げたんだ?」
「ふふ……聞いて驚かないでくださいよ? なんと十万パメラです!」
言いながらヴィクトリアはポケットから札束を取り出して見せてくれた。
「な……んだと……」
俺の視線は札束に釘付けだった。
おおおおぉお!! こ、これは予想していた以上に神的な展開だ!
さすが女神とう存在チートだぜ。これなら宿屋を数回泊まっても大丈夫そうな額だな。
あとついでに……服も買えそうだな! やはり俺の判断は正しかったぁあ!
「よ……よし! 早速宿屋に入るぞ!」
「はいっ!」
ベンチから立ち上がって言うとヴィクトリアは良い声で返してくれた。
……っとその前に。
「お前はサングラス外してけよ」
「いやああああ! これは私の勲章です!」
ヴィクトリアは後ろに二歩下がるとそんな事を言っていた。
「お前は馬鹿か!? どこの世界に修道服みたいなのを着て、サングラス掛けた女性がこんな遅くに宿屋に行くんだよ! 第一印象で断られるわ!」
「いやぁ! いやああ!!」
俺は頑なにサングラスを取ろうとしないヴィクトリアをなんとか片手で押さえると、空いている方の手で取り上げた。
「あぁ……そんなぁ……う、う”う”う”う”!」
サングラスを取り上げられると、ヴィクトリアは泣きそうな表情でお得意の唸り声を出し始めた。
まーた唸りだしたか……やれやれ。
そんなに気に入っていたのか? まあいいや。
「あとで返してやるから、早く宿屋に入るぞ!」
俺は不貞腐れているヴィクトリアを引っ張りながら宿屋に入った。
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