7話「寝相の悪い女神様」
俺はヴィクトリアを引っ張って宿屋に入ると中は意外というべきか、外壁の煉瓦の作りとは違い主な素材が木であった。
中世のイメージだと煉瓦だけで建築してるのかと思っていたが、そんな事はなかったんだな。
俺は博物館でしか見れないような光景にキョロキョロと見渡していると、カウンターに居た女性が声を掛けてきた。
「夜遅くにいらっしゃーい! おやおやカップルかい!? だったら休憩か宿泊どっちかな?」
茶髪で柿色の瞳をした宿屋のお姉さんが勢いよく俺達に聞いてくる。
「カップル? 休憩?」
……あぁっ!? そ、そうかコイツが居るからカップルに間違えられているのか。
いや待てよ。そう言えば女性と一緒に宿泊するのって何気に初めての行為だな。
行為って言うとそっちを想像してしまうが、純然たる寝るだけの事だぞ。
いやダメだ。何言ってもそっちにしか解釈できねえ……。
「あー違いますよ! ただの知り合いです本当に!」
「そうですよ! 何でこんな冴えない男とこの私が付き合わないといけないんですか!」
何かを誤解している宿屋のお姉さんに、俺はヴィクトリアはただの知り合いと言う事を伝えると、さっきまて不貞腐れていた顔だけ女神が復活して喋っていた。
「えーそうなの? まあ、いっか! それで部屋はどうする? ちなみにツイン部屋はもう埋まってるから、あるのはセミダブル部屋だよ。二人でバラバラにシングル部屋に泊まるっていう手もあるけど、料金も上がっちゃうからお姉さんのオススメはセミダブルだよ!」
「せ、セミダブル……!」
ヴィクトリアは宿屋のお姉さんに言われると顔を赤くしていた。
なんでそこでその反応? もっと恥じるべき点はあっただろと言いたい。
そして宿屋のお姉さんは凄いセミダブル部屋を推してくるが……そんなにも俺達を一緒にさせたいのだろうか。
多分そうだろうな……。目がウキウキしていらっしゃる。
これは選ぶ宿屋を間違えたかなぁ……てかヴィクトリアがここをオススメしたんだよな。
こうなることぐらい想像できた筈だが……ま、まさか!? 遠まわしに俺と寝たいという意味なのか?
待て待て、いくら美女といえども中身はアホでサイコパスだ。
いやしかし、美女という点だけは……。
俺は脳内で色々と試行錯誤していると、ヴィクトリアが肩を叩いてきた。
「ゆ、ユウキどうします? いくらお金は私が増やしてそこそこ持っていたとしても、初っ端から大胆に使うのは危ない気がするのです」
「た、確かにそうだな……」
ヴィクトリアでも真面目な考えができるのかと今日初めて感心した気がする。
まあ、そんな事よりも俺としては何故この宿屋オススメしたのか根掘り葉掘り聞きたいんだがな。
「決まりましたー? いまらなら朝食もセットで料金変わらずにしときますよ!」
悩んでいる俺達に宿屋のお姉さんは最後の一手を決めてきた。
そしてここに来てから食べる事しかしていないヴィクトリアは朝食セットという言葉にピクッと体を小さく反応させると。
「セミダブルでお願いします!」
宿屋のお姉さんにそう言っていた。
おいおい……いくらなんでも簡単に決め過ぎじゃないか?
俺は男だぞ? 狼にだってなれる童貞やぞ?
ヴィクトリアを見ながら思っていると宿屋のお姉さんは俺を見てきた。
「はーいセミダブル部屋ね! ありがとうございます! 一万二千パメラになります!」
えっ? なに? そんな見られても、お金持ってるのヴィクトリアなんだけど。
あー……もしかしてこの世界でも男性が基本お金を払うみたいな風潮なのか?
「お、おいヴィクトリアお金頼むよ」
「あぁそうでしたね」
俺が肘で小突くとヴィクトリアは思い出したかのようにポケットからお金を取り出した。
そんな様子を宿屋のお姉さんは見ていたのか、俺に向かって。
「あぁ、今流行りの”ヒモ男”なんですね」
っと言ってきた。
「ち、ちげーし! たまたまコイツが持っていただけだし!」
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「おぉー! 部屋は中々に良いですね!」
「はぁ……無駄に疲れた気がする」
ヴィクトリアは部屋を物色していると俺はベッドに腰を掛けた。
あの後、お金を支払い終えると宿屋のお姉さんから鍵を受け取って二階の部屋へと向かい今に至るという訳だ。
部屋の内装はシンプルで木製の机と椅子とベッドが置かれていて、ランタンが壁に飾られている。
RPGゲームに出てくる宿屋そのもので本当に泊まるだけという感じの部屋だ。
これで朝食付きなら、まあ良いだろう。
「さて、ヴィクトリア。寝る前に今後の予定だけ確認するぞ」
「そ、そうですね!」
俺が話し掛けるとヴィクトリアは両手を上げてベッドにダイブしそうな格好をしていた。
ホテルに初めて来た子供のようなリアクションだな。
まあ、あんな所に居たらこういう所は珍しいわな。
「知っての通り俺達の目的は魔王討伐だ。だが! 現状のこのままでは
「おぉ……流石は引きこもりゲーマー。妙に冒険者っぽい考えですね」
俺が今後の予定を伝えるとヴィクトリアもベッドに腰を掛けて話を聞いていた。
「引きこもりじゃない。というか現状だとお前が一番の戦力なんだから頑張れよタンクの役割」
「任せなさい! 相手をおちょくるのは得意なのです!」
ヴィクトリアは笑顔でそう答えていた。
女神という最高の存在チートを使い、序盤でレベルを三十ぐらいまで上げれたら良いなっと俺は考えている。
そうすればある程度レンジャー職のスキルも取れて、形だけはそれなりのパーティになるだろう。
しかしヒーラーがいないのは痛いな。遠征クエストとか来たら流石にマズイ。
これは今後の課題だな。
あと欲を言えばゴリゴリの火力戦士アタッカーがもう一人欲しい。
なんせレンジャーの火力なんてたかが知れてるからな。
この二つの役職はギルドにて後々募集を掛けてみるか。
「まあ、話はこのぐらいだな。今日は色々と疲れたし、明日は早いしでもう寝るか?」
「もちろんですよ。休息は大事です! あ、それと一応言っときますが襲わないで下さいね! いくら私が美人女神だとしても!」
ヴィクトリアは俺に言うと、修道服みいなのを脱いで
「お、おう……善処します……」
あまりジロジロと見ると失礼かなっと思い俺は目を逸らした。
というか直視できなかった。これが童貞の弊害なのだろうか?
う、生まれて初めての経験なのだ。こんな近くで女性が薄着姿で一緒に居るのは……!
……いかんいかん落ち着け。コイツは美女だが中身はサイコパスでギャンブル好きの女神だ!
俺は脳内で何回もそれを復唱すると、変な気持ちはそよ風の如く消えていった。
「ユウキ? ランタンの火消しますよ?」
「お、おう頼む」
ヴィクトリアがランタンの火を消すと部屋は一瞬で真っ暗になった。
窓から月明かりが差し込んできて俺の右手首に付いている白いブレスレットを照らすと、こんな事を思った。
この装甲さえまともに動いてくれれば、かなり戦力の増強に繋がるんだけどなぁ……。
まあ、明日のクエストで試してみるかな。
俺も今日はドタバタで疲れた。
瞼を閉じると数秒で俺の意思は夢の世界へと堕ちていった。
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「ってぇ!? 何だよ……コイツ寝相悪過ぎだろ……」
ヴィクトリアから無差別な蹴りや拳が定期的に飛んでくると、俺は嫌でも目を覚ました。
「うへへ、私の勝ち……です……」
見た目だけ美女の女神は涎を垂らしながら寝言を呟いていた。
まーたギャンブルの夢でも見てるのか? もはや中毒の極みだな。
そこから俺が再び寝付くには時間が掛かった。
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