5話「憧れのギルド!!―後編―」

 ギルドにて冒険者登録する為に、俺とヴィクトリアは受付に行くと唐突にも服を脱げと言われた。

 一瞬何を言われたのか分からなかった……だが、冗談だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

 

 俺のド派手な下着を見て受付のお姉さんが若干、照れて表情を見せてくたのがフフッ……可愛かったぜ。


「脱ぎましたね? ではこちらに立ってください」

受付のお姉さんは俺の下着を視界に入れたくないのか、変な方向を見ながら言ってくれた。


 言われた通りの場所に行き棒立ちしていると、受付のお姉さんが射影機に近付いて色々と弄っていた。

 何かこの指定された場所に立っていて下さいねは、ヴィクトリアにも言われた台詞だな。

 たかが、数時間前の出来事だと思うが地味に懐かしさと同時に苛立ちが湧いてくる。


「撮りますよ! こっち向いて下さい!」

 準備が整ったのか、受付のお姉さんは射影機越しに俺を見ていた。


「カッコよくお願いしますね~!」


 とりあえず言ってみたものの、陰キャの俺は写真慣れなんてしていないので表情筋が動かない。

 こういう時はヴィクトリアのあの豊かな表情が欲しいと思えるから不思議だ。


 と、俺が射影機を見つめて思っているといつの間にか撮り終わっていた。


「お疲れ様です。あとはステータスをプレートに入れていくので、カウンターでお待ち下さい」

「あ、はい。ありがとうございます」


 意外と難しい事は何もなくあっさりと終わった。てっきりフラッシュとか炊かれるのかと思ったけど。

 にしても……ヴィクトリアの方は大丈夫だろうか? というより受付のお姉さんが心配だ。

 アイツは一言うと百返してくるタイプだからなぁ。


 俺は心配になり、服を着ながら聞き耳を立てる事にした。


「す、凄いですね……!」

ヴィクトリアとは違う女性の声なので恐らく茶髪の受付のお姉さんだろう。


 何がすごいのだろうか。俺凄く気になります。


「まあ、私ぐらいになれば造作もないことです!」

ヴィクトリアが何か誇らしげに言っているようだ。


 まーたヴィクトリアが何か自慢しているのか? 

 やはり声だけじゃ詳しいことは分からんな。


「この圧倒的な白い肌に……形の整った胸は女性にとって理想の体型ですよ!」

「えっへん! 当然でしょう!」


 な、なんだと!? アイツそんなに綺麗なおっぱいをしているのか!? 

 ちょ、ちょっと覗けないだろうか……。


「……んーーー!」

俺は何とか覗こうとカーテンの隙間に顔を近づけると、目の前から……白い拳が飛んできて見後に目にクリーンヒットした。


「う”ぎゃあああ!!」

俺は余りの痛みに悶えて床に倒れた。


「ふんっ! まったく……童貞の考えそうな事ですよ。さあ、パパッと終わらせましょう」


 その後……ヴィクトリアも撮影を終えると、俺と一緒にカウンターにてプレートを受け取るのを待っていた。


「すみません! お待たせしました……って何があったんですかこの短時間に……大丈夫ですか?」

受付のお姉さんは銅色のプレートが着いたネックレスを二つ持って現れた。


「いえいえ、大丈夫ですよ。お気になさらず」


 恐らく俺の腫れた右目を見てお姉さんは言ったのだろう。

 覗きがバレて殴られましたとか言えない……だから俺は精一杯のクールな表情で乗り切る。


 ちなみにヴィクトリアは怒っているのか、一度も目を合わせてくれない。

 

「そ、そうですか……では最後にプレートの色の説明と職業を選んで頂きます!」


 おぉ!! やっとRPGっぽい展開キタキター!

 何かもう色々とあって心が折られそうだったけど、そうだよ! 俺は魔王を倒しにきた勇者様だぜ。


「お願いします!」

俺がハキハキとした声で言うと受付のお姉さんは説明を初めてくれた。


「はい、最初にプレートの色ですが実は四種類ありまして、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤモンドとそれぞれの色によって受けれるクエストが変わってきます。初心者冒険者の方々は一番下のブロンズから初めてもらい、受けれるクエストはCとBランクに限定されます。もちろんクエストの功績や貴方方のレベルによってはブロンズからシルバーにランクアップする事も可能なので是非頑張って下さいね!」


 なるほどなぁ。この世界ではプレートの色によって冒険者の大体のレベルを示すのか……。

 中々にやりがいがありそうだな。

 

 俺はゲームでも最初の街でかなりレベルを上げてから進めるタイプの人間だからそういうの得意だぜ。

 このギルドに居る奴らの度肝を抜いてやるぐらいの速度でダイヤモンドまで一気に進めてやるぜ!


「なるほど分かりました!」

「あら、意外と質問とかないんですね」

俺の理解力の早さに受付のお姉さんは少し不思議そうな様子で顔を見てきた。

「えぇ、まあ」

フッ……この俺が何年ゲームをやり込んでいると思っているのだ。

歴が違うのだよ歴がね!


「ンン……最後に貴方方の大事なステータスですが……」

受付のお姉さんが咳払いをして空気を締め直すと、いよいよ大本命のステータスについてらしい。


 これが一番大事な部分だよな。

 ステータスによっては序盤の動きが大きく変わってしまうからな。

 頼む……! 高ステータスなっててくれ!!


 神にも縋る思いで俺は願った。……まあ、神は横に居るんだけど。

 阿呆な女神様が。


「まず……ユウキさん……ですね?」

受付のお姉さんは何やら神妙な面持ちで言うと、俺は思わず生唾を飲み込んだ。


「は、はい……」


 な、なんだろうか……この急に重たくなった空気感は……。

 まさか俺のステータスは高レベルなのか!?


「じ、実は……ユウキさんのステータスだけ……」


 おぉ……!? この展開はやはりそうなのでは!

 俺は胸をドギマギとさせて次の言葉を待っていると。


「残念な事に”トラブル”というステータスに大きく偏っていて、正直このステータスだと早死するかと……」

「…………はぁ?」

 衝撃的な事を言われると俺の口からは乾いた声が出た。


 な、なんじゃそりゃああああ!! おいおい、行き成りそんな事を言われても困るんだが!

 それに何だよ! トラブルステータスって! 意味分かんないぞ!


「そ、それってどう意味ですか……?」

俺は狼狽えながらもお姉さんに聞いた。


 早死すると言われても、はいそうですか、何て納得いくはずないだろ!

 ここは詳しく聞かねばならないッ……!


「えーとですね? このトラブルとは、言うなれば不運の事でユウキさんには何故だか……この不運に大半のステータスが持ってかれていますね……こんなの見た事ないのですが……」

「うっそだろ」


 俺のステータスはやはり凄ったらしい……凄いと言っても褒められるべき方ではないがな。

 終わったな……俺の魔王討伐の道。

 引退だわもう……このクソゲー異世界め!


 言われた事は納得出来なかったが、ステータスはステータス。

 変えようのない事なので諦めてプレートの付いたネックレスを受け取ると俺は横に移動した。


「さあ! 次は私の番ですよ! きっとユウキよりはマシなステータスの筈です!」

ヴィクトリアは意気揚々と言っていた。


 まあ、俺にはもうどうでもいい事だ。

 あぁそうだ、このあとは高いとこに行って紐なしバンジージャンプでもやろうかな。

 きっと異世界の夜景はさぞ綺麗なことだろう。


 俺はこの世の全てを呪う勢いで項垂れていると、受付の人達がヴィクトリアに集まりだしていた。


「こ、これは!?」

「……凄い初めて見ましたよ!」

受付からそんな言葉が数多く聞こえてくると俺も自然と負の意識から戻り、視線をヴィクトリアの方に向けていた。


「そうでしょう私は凄いのです! もっと言っても良いんですよ!」

相変わらず褒められると調子に乗るヴィクトリアに呆れていると、何がそんなに凄いのか気になり俺もお姉さん方に聞いた。


「コイツの何がそんなに凄いんですか?」

「むっ! いまコイツって呼びましたね!? てか指を向けながら言わないで下さいよ! 流石に怒りますよ!」

横で何か言ってるヴィクトリアは放っといて、今はコイツの何がそんなに凄いのか確かめる方が先だ。


「はい……ヴィクトリアさんのステータスは……!」

受付のお姉さんは一呼吸置くと俺達に顔を向けて重い口を開く。

 

 一体ヴィクトリアの何が凄いんだ……!?

 

「圧倒的なまでの勝率運を持っています!」

「……はぁ?」

決してお姉さんはふざけて言ってるいるのではなく、至って真面目な顔で答えていた。

だが俺の口からは本日二度目の乾いた声が出ていく。


「こ、これだけじゃあ意味が分かりませんよね! えーっと詳しく言いますと! ヴィクトリアさんは生まれ持っての勝率、つまり幸運が高いんです! これらはモンスターとの対決時に有利になったり、ギャンブルでの勝率が上がったりとかなり凄いスキルですよ!」

「えーっ……何その俺とは対照的なステータス……」

何であんな人を間違えて殺すようなサイコパスが、そんな高ステータスなんだよとは正直思った。

これも女神の力なのか?


 お姉さんからあらゆる事象に置いて勝率=運が強いと聞かされると、横でプルプルと全身を震えさせているヴィクトリアが何か言ってきた。

「でしょお!? 私は偉大なのです! さあ褒め称えなさい!」

「チッ……そんなもんはどうでも良いんだよ! さっさと職業決めんぞ!」


 ここぞとばかりに調子に乗ろうとするヴィクトリアに先手を打って静止を掛けると、不服そうな顔をしていたが知るか。

 これ以上コイツがチヤホヤされたら何か……嫌になる。


 これは嫉妬という感情なのか……それとも長年ネットの世界に浸っていた陰キャ学生の弊害なのだろうか。

 他人の幸せなんぞ握り潰してくれるわ!


「あーっ……では職業ですね……?」

「そ・う・で・す!」

お姉さんは俺の勢いに押されているのか引いているか分からないが、顔が引き攣っていた。

 

 しかーし! ここまで出鼻をくじかれた俺にはもう何も怖いものはない。

 あとは勢いで突き進むのみ! そして早くギルドから出たい。


「ユウキさんの場合ですと……初心者クラスの冒険者、ナイト、レンジャー、ぐらいです」

お姉さんは職業の詳細が書かれた紙を見せながら教えてくれた。


 うーむ……少ない……たったの三つしかないとは。

 これは意外と悩むぞ……なんせ今後の冒険活動がこれによって有利に進むかどうかも関係してくるからな。

 まあ、早死するとか言われてるからあれだけど。


「うーん……」

俺は差し出された紙を見ながら悩む。


 冒険者はバランス型か、武器も多種多様に使えて魔法もそれなりに使えると。

 ナイトは攻撃型。素早い剣技で敵を翻弄して倒すと……うん駄目だな。こんなの前衛職選んだら即行で死ぬわ。ただでさえ早死するとか言われてるのに。

 最後にレンジャーだが……これは索敵特化見たいだな。足音を消したり聴覚を鋭くしたりと状況変化にすぐ対応できる。


「よし……決めたぞ。俺の職業は”レンジャー”だ!」

俺はお姉さんにカッコよく伝えると……特に何も起こらなかった。


「あ……すみません。職業がある程度決まったら左に置いてる機械にプレートをセットして貰って、そこで選んで貰います」

お姉さんは右手を機械が置いてある方に向けて言った。


「そ、そうですか……」

やだもう……恥ずかしいだけじゃん! 返して俺のさっきのカッコイイ雰囲気返して!


「さあ、どいて下さいユウキ! 次はこの私が選ぶ番ですよ!」

ヴィクトリアは何故か妙にやる気を出していて、俺を弾き飛ばしてきた。


 何なんだよ急に? ヴィクトリアも俺と同じ初心者クラスしか選べないだろ?

 だっていくら幸運が高いからと言ってそんな……なあ?


「ヴィ、ヴィクトリアさんは最初から上級者職が選べますよ!」

「なんでだよっ!」

お姉さんがそう言うと俺は無意識にツッコミを入れていた。


「ヴィクトリアさんは何故かスキルポイントだけ、既にカンストしていまして……オカシイですね……こんなの普通は有り得ない事なんですけど……」


 普通は……有り得ない……?

 ハッ、そりゃそうだろな。だってヴィクトリアは”女神”だしな!

 あっ、そうか……そうだった。コイツと比較してるのが、そもそも駄目だったのか。

 なーんだ簡単ことだったな。ハッハハ! 


 と、そんな事を思っているとヴィクトリアは職選びで難航している様子だった。


「うーん……どれが良いのかまったくわかりませんね……」

「フッ、どうしたヴィクトリア。この俺の知恵が必要かな?」

悩んでいるヴィクトリアの横から颯爽と俺は声を掛けた。


「何ですかそのキャラウザったいです。……しかし、ここは童貞の力も借りたい所ですね……」

「うっさいわ童貞言うな! 今は関係ないだろ!」

ヴィクトリアは俺の方を向くと、眉を顰めて嫌そうな顔をしていた。


「あ、間違えました。ゲーマーの力です!」

「どう間違えたらそうなるか分からんが……まあ、任せとけ」


 どれだけ高ステータス持ちでスキルカンスト勢でも、所詮は女神だな。

 ここは数々のゲームで異世界を救ってきたこの俺様に任せな。


 まずは、職業選びだな。

 いきなり上級職が選べるというチート並みの行為。これは甘んじて受け入れよう。

 せめてコイツが強ければ俺のレベル上げや魔王討伐もスムーズに進むに違いないからな。


 俺は悩みに悩んで、ようやく二つまでに絞る事ができた。

 さてさて……後はヒーラーかタンクのどれにするかだな。

 正直な所、俺がアタッカーをやるとなると二つとも欲しいのが本音だ。


 だが……ここは敢えて”タンク”をやってもらうか。

 だってヴィクトリアって馬鹿だしな……ヒーラーなんて柄じゃないぜ。

 足りない役職は後々に募集でもして補えば良いだろう。


「よし決まったぞヴィクトリア! お前の職業はシールドマスターだ!」

「し、しーるどますたー?」

「そうだ! 何も考えずに相手をおちょくってヘイトを集めるだけの簡単な職業だ」


 まあ、大分端折ったけど本質はそんな感じだろう。

 

「あのー。そんな簡単な職業「お気になさらず!」で……」

俺達の話を聞いていたお姉さんが会話に入り込んできて、要らん事を言いそうだったので牽制した。


「なるほど簡単そうな職業ですね! ならそれでいきます!」

俺の巧みな話術により、ヴィクトリアは即決していた。


 よーし! これでタンクの役職ゲットだぜ! 

 あー、チョロくて助かった。


「あはは……。では左の機械で決定してください……」

お姉さんは窶れた顔を見せながら言っていた。


 すまない……! 次に来た時はもっと素早く事を終わらせるから!

 そして俺達は言われた通りに機械にプレートをセットした。

 機械と言っても見た目は日本でもよくあった、お土産の記念メダルに刻印を施すやつみたいな物だ。

 何だか子供頃を思い出してしまうな。

 

「えーっと、レンジャーは……あ、あったこれだな」

俺はレンジャーと書かれてるボタンを押すと、プレートに何かが押し付けられて返却された。

こんなあっさりとレンジャーになれるのか? なんも変わった感じはないけど。

 

「ユウキ? しーるどますたーとやらで本当に良いんですね?」


 俺がプレートを眺めていると、ヴィクトリアが再確認してきた。


「あぁ、それで頼む」

「分かりました!」


 ヴィクトリアもシールドマスターと書かれたボタンを押すと、同じく何か押し付けられて返却された。

 恐らくあの押し付ける動作で情報をプレートに入れているのかも知れない。

 てか多分そうだろう。


 こうして俺達はやっと職業選びまで終わり一段落ついた。

 ゲームで例えるならチュートリアルが終わった感じだ。

 

「ここまで終わったなら後は宿屋探しだな」

「そうでした! はやく休みたいのです!」

俺達はギルドから出ようと後ろを向くと……気づかなったが俺達の周りには先輩冒険者達が囲んでいた。


 えっえ? なに? 何でそんなに見てくるんだよ……?

 まさか、新参者いびりでも始まるのか!?


俺がそんな事を危惧していると、槍を持った冒険者がこう言ってきた。

「おぉぉおおお! ”不運の塊”と”幸運の塊”という破天荒な冒険者達の誕生だぜ!!」


 それに続き続々と声が上がってくる。


「こりゃあ、凄い事が起こりそうだな!」

「俺は気づいてたぜ! あんな服装見たことないから只者ではないと!」

「あの女性は美しいだけではなく、その日で上級職になるなんて……私、憧れちゃいます!」


 男性女性共に俺達に声を掛けてきてくれた。そしてギルドは一時の間、お祭り騒ぎとなった。

 

「フッ……これが異世界のノリってやつか」

俺は静かに呟いた。

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