第37話 美少女との疑似デートは誰でも緊張する。意味がわかる(side真尋)
「どんな服着ていけばいいんだろ?」
「ってことは兄貴は、
言っていると少し混乱してくるが、自分のためにわざわざTSしてきてくれると思うと、残念な顔はさせたくなかった。
「でもそういうこと考えると緊張するよぉ」
この調子だと理佳に会う前にTSしてしまいそうだった。
「そういえば緊張するときは体を動かすといいって梓さんが言ってたなぁ」
部屋でぴょんぴょんと飛び跳ねてみる。イマイチ変わらなくて、今度はその場で駆け足。
「うるさい! 夜なんだから静かにしなさい!」
ドア越しに母親に怒られる。突然の怒鳴り声に真尋の体がビクリと跳ねた。
「はぁ。よくよく考えたら体動かしてたらTSしちゃうじゃん」
結局決め手がなくて、真尋は一番よく着ているティーシャツとジーンズを選ぶ。少しダボついた服が多いのはふいにTSしたときに服がきつくなってしまわないようにするためだ。これすらも少し弱気になっているように思える。
「よし、やっぱりこっちにする!」
ダメージジーンズに少しタイトなシャツ。不良っぽく見せるために普段は買わない服を買ってみたときのもの。結局恥ずかしくて一度も着られていない。
これを着て街に出ることで恥ずかしさに耐えることも緊張しないための修行になるはずだ。
選んだ一組だけを残して、真尋は残った服をタンスに戻す。
「姐さんはどんな服で来るんだろ?」
理佳の顔を思い浮かべる。一緒にカフェでパフェを食べていたときの姿はきれいだった。きれいなまつ毛が伸びる目元。かわいらしい顔つきに似合っている栗色の髪。どんな服を着ても似合いそうだ。
真尋はしっかりと眠れないまま、デート当日を迎えることになった。
待ち合わせは市街から少し離れた小さな本屋にした。人目が多いと緊張してしまうから、と人の少ないところから順番に回る計画だった。
「なんか場違いじゃないかな?」
太もものあたりが破けたジーンズはなんとなく心もとない。あまり客のいない店内を、理佳の姿を探してうろつく。本棚を向いているせいで顔は見えないが、かわいい栗色の髪はすぐに見つかった。
「ごめんなさい。お待たせしました」
「ううん、全然。真尋ちゃん、意外なファッションだ」
そういう理佳も意外な感じだった。真尋はベースの体は男だから、性別も男だと思っている。あまり女っぽい格好は好きじゃないし、大きくなった胸を見られるのも嫌いだった。
今日の理佳は、ふわりとしたブラウスにペールカラーのチェックスカート。春めいた淡い色合いのコーデが、はっきりとした目鼻立ちの理佳の顔を引き立てている。
誰が見ても本物の女の子。それも真尋が隣を歩くのが引け目に感じるほどの美少女。よく見ると、メイクをしているのか、リップが引かれ、アイラインも薄く入っている。
「今日は女の子として真尋ちゃんの特訓に付き合うから。一緒にいても緊張しないように頑張ってね」
「は、はい。がんばりましゅ!」
言ったはいいが、真尋の脈はすでに速くなっていた。緊張とか関係ない。かわいい女の子が近くにいれば勝手にドキドキするのは、男なら当然のことだ。
「ほら、最初はどこに行こっか?」
その女の子がひょいっと自分の手をとってくるならなおさらだ。
「えっと。確か最初はカラオケに行く予定で」
まずは理佳の前で歌うことで緊張に耐える練習をする。個室なら二人きりだから周囲の目を気にする必要はないという作戦だった。
「オッケー。じゃあさっそく行こうよ。駅前のところ?」
「あ、姐さん。待ってください」
「うーん、今日は姐さんはやめよ。それだと練習にならないし。今日は僕のことは普通の女の子として見て、他の子の前でも緊張しないようにしないとね」
普通の女の子はそんな風に口元に指を触れるだけでドキリとさせてはこない、と真尋は言いたくなる。そのしぐさの一つ一つは本物の女の子にしか見えなかった。
「今日は
握ったままの手が引っ張られる。真尋は理佳のペースに巻き込まれながらも、理佳の協力に少しでも報いられるように緊張しない精神を手に入れよう、と心に誓った。
* * *
二人が並んで歩いていく後ろから、三人の人影がこそこそとついていく。
「うわぁ、りっちゃんヤバ。あんなことされたら私でも好きになるわ。梓さんのガチナチュラルメイクも破壊力高いし」
「理佳様って本当に面白い方ですね。虎徹様の前ではあんな感じですのに」
理佳の完璧な女の子っぷりに感心した
「俺に何の関係があるんだ?」
「別に。こてっちゃんは知らなくていいの」
「そうですわ。虎徹様はずっとそのまま鈍感でいてくださいね」
理不尽に罵倒されたような気がするが、虎徹は意味がよくわからないまま、カラオケに向かう理佳と真尋を追いかけていった。
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