第18話 僕の友達はテスト前になっても少しも焦らない。意味がわからない(side理佳)
四月下旬と言えば、
あとは虎徹にどこに行きたいかを聞くだけだ。
朝の
「そろそろGWだが、その前に実力テストがある。成績が悪い者は休み期間に補習をするから、赤点なんかとらないようにな。特に去年の成績が悪かった者、出席が少なかった者は一つでも赤点があったら補習決定だ」
言い切ったとたんに教室からブーイングが上がる。
「横暴だー」
「そんな進学校じゃないんだからさー」
「うちの学校の進学成績が下がって評判が悪くなったら、将来困るのは君らなんだぞ。毎日やれとは言わないから、テスト前くらいしっかり勉強してくれ、以上」
理解があるようなないような言葉を残して、担任は授業に向かって教室を出ていく。まだ不満の声が上がる教室で、理佳は一人、冷や汗をかいていた。
「どうした? 体調が悪くなったか?」
「体調というより、心の調子が」
「ん?」
首をかしげる虎徹はわかっていない。いや、そもそも成績のいい虎徹の頭の中には、補習なんて別世界の言葉にいちいち引っかかることなんてないのだ。
「ボク、キョネンノシュッセキニッスウケッコウスクナインダヨネ」
「なんでロボみたいになってるんだ」
ついでに言えば、受けたテストもそれほどいい点ではない。
理佳は過保護な両親と虎徹がいるせいで、TSしたらすぐに病院に連れ込まれていた。最近は虎徹のせいでTSの頻度が上がったことと
「赤点、赤点かぁ。何個までならGW全部なくならないで済むかな?」
「補習は受けること前提なのね」
乾いた笑いを浮かべながら
「だってー。ここの制服なら急に女の子になっても大丈夫だと思って、頑張って入ったのに」
「なるほど。入ってからは勉強の方で苦労してる、と」
「いいよね。二人は補習なんて異世界の話だもんね」
虎徹と信乃は学年ワンツー。一年生の最初のテストからずっと変わっていない。休みがちの理佳の代わりにノートをとってくれたり勉強を教えてくれたりと助けられてばかりなのだが、今回ばかりは二人が羨ましい。
「こてっちゃんはりっちゃんに合わせて高校選んだんだよね? その顔でよく勉強できるよね」
「顔で勉強はしてねえ。ただの毎日の習慣だ」
「虎徹はねー。小学生の頃、将来の夢はお医者さんだったんだよ」
理佳はニヤニヤと笑いを浮かべて言う。
「今はその話は関係ないだろ」
「へー、意外ね。やっぱり空手家になりたいって思ってたんだろうなー、って感じなのに」
「僕の病気をいっぱい勉強して治すんだって言ってね。毎日一生懸命に勉強してたんだよ」
虎徹が突っ伏すようにして机に顔を隠す。理佳はちょっとだけ苦しみを分け合えておもしろくなった。
「でもね。僕の病気は二十歳には治るって聞いてから、お医者さんになる、って言わなくなったんだ」
「こてっちゃん、結構かわいいところあるじゃん」
信乃にぽんぽんと頭を撫でられる虎徹はいつもと立場が逆だ。恨めしそうな目で体を起こすと、拗ねたように信乃を見る。
「そういう信乃は一年のときから勉強できそうだったのに、ずっと俺より成績悪いよな」
「別にメガネで勉強してるわけじゃないし。今はコンタクトだし!」
信乃は虎徹の肩をばしばしと容赦なく叩く。その姿はいつもと変わらないのに、理佳はなにか違和感を覚える。
「なんか、しーちゃんが変わった」
「え、別に何も変わってないけど」
「虎徹もいつの間にか名前で呼んでる。女の子は名前でなんて呼べない、って言ってたのに」
「いや、まぁ、信乃はだいぶ慣れてきたからな」
理佳は虎徹と信乃の目を交互に見比べる。違和感は覚えたが、その理由がわかるほど勘は鋭くなかった。
「それより自分のテストの心配をした方がいいんじゃないか?」
「あ、そうだった! 虎徹もしーちゃんも勉強教えてー。GWに補習になったら遊びに行けないよー」
「そうそう。勉強はちゃんと見てあげるから、終わったらみんなで遊びに行こ」
一限目の担当教師が教室に入ってくる。信乃は自分の席に戻り、虎徹も授業の準備を始めている。
理佳はなんだかごまかされたような気のせいだったようなよくわからないまま、近くに迫った自分の危機の方に意識は向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます