第4話 片想いの相手の男友達が恋のライバルになった。意味がわからない(side信乃)
「付き合うのはいいけど、どうしてスカートなの?」
信乃も理佳が女扱いされるのをあまり好きではないことを知っている。女の子の体であればやらなければならないことがあるから、必要なことだけは教えてきたが、服は男物しか持っていなかったはずだ。
「昨日、お医者さんから聞いたんだ。僕の病気が治った時、女の子になるかもしれないんだって」
「へ、へぇ」
ぎゃあぁ、と叫びたいのをなんとか
虎徹の一番は間違いなく理佳だ。そんなことは付き合いの短い信乃でもすぐにわかる。理佳が女の子になったら虎徹が惹かれることなんて、木になったリンゴがいつか地面に落ちるくらい当然のことに思えた。
「虎徹はね、僕のこと一生面倒見てやる、って言ってくれた。でも僕は何も返してあげられないと思ってた。彼女になれたらもっといろんな恩返しができると思うんだ」
「そうだよね。りっちゃんはこてっちゃん大好きだもんね」
「うん。世界で、一番大好き」
自分で言って、恥ずかしくなって顔を隠す理佳に、信乃は勝てないなぁ、と思う。ただ何もせずに譲るのは少し諦めがつかなかった。
※ ※ ※
入学して最初の校内試験の後だった。
その時の信乃はすでにクラス委員となり、クラスメイトから少し煙たがられていた。真面目で融通が効かない頭の固い奴だ、と。
そんな評価はどうでもよかった。それももうすぐ
張り出された学年順位。信乃は二位だった。
「一位の奴は誰よ。ダテザキ、コテツ?」
変な苗字に古臭い名前。こんな時代遅れみたいな奴に負けたとは思いたくなかった。信乃は急いで階段を駆け上がり、虎徹のクラスに押し入って叫んだ。
「ダテザキってどいつ!?」
「俺か? 俺は
立ち上がった虎徹の顔を見て、信乃は死を覚悟して意識を失った。
目が覚めると、信乃は保健室のベッドで横になっていた。手を伸ばしてメガネを探す。ぼんやりとよく見えない視界の先に岩みたいな塊があるのだけはわかった。
枕元で見つけたメガネをかける。クリアになった視界の先にいる虎徹を見て、信乃はまた失神しそうになった。
「ぎゃあぁー!」
「叫ぶな。急に倒れたんだから安静にしてろ」
「ここどこ?」
「保健室だ。俺の顔を見て逃げ出す奴は大勢いるが気絶した奴は久しぶりだ」
虎徹は慣れた手つきで信乃の額に手を当てる。
「熱はないみたいだな。帰れそうか?」
「うん。たぶん大丈夫」
人殺しを仕事にでもしてそうな見た目で、優しい言葉をかけられると、どう返していいかわからなくなる。
信乃は次の言葉を探して、ふと目を虎徹の手元に向ける。
「何それ?」
「あ、あぁ。倒れたのは俺のせいだし、何か
恥ずかしそうに差し出された大きな手の上には、きれいな折り紙の花がちょこんと置かれていた。
「幼馴染が病気で寝込んだ時は、いつもお守り代わりに枕元に置いてやってたんだ。それでつい」
「あはは。何それ、似合わなーい」
信乃は両手を叩いて笑う。虎徹はムッとして顔をしかめたが、最初に見たときに感じた威圧感はすっかりなくなっていた。
「それだけ元気ならもう大丈夫だな。俺は帰るぞ」
「待って待って。それ、ちょうだい。お詫びなんでしょ?」
虎徹の手にある花の折り紙を指差す。
「こんなもんでいいなら」
もらった折り紙は少し温かく感じる。しわもズレもない完璧な出来上がりなのに、どこか不器用さがにじんでいた。
虎徹が保健室から出ていくのを見届けて、信乃は折り紙をこっそりと生徒手帳のホルダーに挟んだ。
※ ※ ※
「しーちゃん?」
理佳の声を聞いて我に帰った。気付くといつの間にか購買部の前まで来ていた。
「そういえばサイズとかわかるの?」
「ちょっと大きそうなの買ってベルトすれば大丈夫だよ」
「いや、スカートはアジャスターはあってもベルトはつけられないから」
「そうなの?」
理佳は本当に知らなかったようで、ポカンと口を開けている。本当についてきてよかった、と思う。スカートがずり落ちるようなことがあったら、虎徹によって教室が血の海になりかねない。
「じゃあウエストから測らせてもらおっか」
「はーい、お願いします」
手を挙げて理佳は顔をほころばせる。やっぱりかわいい、と気分が沈む。
メガネを外して髪型を変えても、虎徹は何も言わなかった。もしかしたら気付いていないのかもしれない。
理佳がスカートを初めて履くのと同じくらいのことをしなきゃ気付いてもらえない。
「でもまだ終わったわけじゃない」
胸ポケットに入れた生徒手帳に手を触れる。あの日の虎徹の手の温かさがまだ残っているようで、それがあれば信乃はいくらでも勇気が湧いてくる気がした。
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