中村君を悪く言わないで!

第1話 怖い顔ってだけで3/4損してます。

私、高嶋美月たかしまみつきは、今、ある人に恋をしている。

不愛想で、格好いいけど、いつも無表情で、顔はちょっと怖い。

多分だけど、その人はクラスメイトの名前を、1人も言えない。…と思う。

その名前も知られてない、クラスメイトの中の1人の私は、勉強のせいでは決してないけれど、視力0.03と言う、ど近眼で、黒縁のメガネをかけ、テストの成績はほぼほぼの点数しか取れないし、体育でも、特に活躍する場面はまるでない。


唯、地味で、教室の4隅がよく似合う女子生徒だ。



そんなある日、私はとてもやってはならない、もしかしたら、殺されるかも!と思う事件が起きる。



その日は、日直で、英語のリーダーのノートを、クラス全員分集めて、職員室に持って来るよう言われ、重いノートを持って、階段を降りよとした。と、その時、

「きゃっ」

1番上のノートを落としてしまい、何とか拾おうとした私が馬鹿だった。

ここは、階段の1段目。

バランスを崩し、落としたノートが幸い(?)お尻の下に敷かれて、そして猛スピードで階段を駄々すべってしま…う寸前、抱えていたノートを全部私の手から振り払い、“ふぁ”っと体が軽くなり、何が起きたのか解らず、そっと目を開くと、そこには中村なかむら君の顔がドアップで目に飛び込んできた。

中村君が、私を助けてくれたのだ。

助けてもらった立場で、こんなこと言うのは失礼極まりないが、まさか、無愛想で、只々強面で、友達が居なくて、いつも1人きりで、他の生徒には興味は無いんだろうな…なんて、勝手に中村君の内面を軽々しく想像していた私は、この後、より驚く中村君の言動に、思わず泣きそうになった。


「大丈夫か?」

と聞かれ、それが中村君の声だったのか…。

いやいや、そうじゃない!

「な、な、な、な、中村君は?」

と恐る恐る聞くと、

「男が女を助けるのは当たり前だ」

と、なんだかこっぱずかしい言葉を言ったかと思うと、何も言わず、ノートを集め出してくれていた。


私もようやく正気に戻り、

「ごっごめんね。私も拾うね」

と言い、1,2分でノートは無事、中村君の腕の中に…、待て待て!

「中村君!なんで中村君がノート持ってくの?日直は私だよ」

「肘、擦りむいてる。保健室へ行け」

そう言うと、階段を降りて行ってしまった。



中学2年生まだ今の今まで知る事の無かった…この胸のドキドキは…。

なんでなのか、中村君の後ろ姿が輝いて見えるのは…。


その後ろ姿に見惚れていて、大切なことを言い忘れていた。

「中村君!ありがとう!」

「あぁ」

それだけ言い残し、ノートを運んでくれた。



そのそれだけの1言2言の会話で、心臓が救心を必要としているのではないかと、そう思うほど、胸の動悸は速かった。


中村君が職員室へ向かっている間、私は何となく、ただ少しボーッとしながら、教室に入った。


すると、酷い!と胸ぐらをつかんでやろうか!と思うほど、最低な女子の会話が耳に入って来た。



「中村ってさ、言っちゃえば変人じゃん?」

「そうそう!普通に話せ、てかんじ。なんの特徴もないくせに、顔だけは強面って!」

「あはは!絶対冷たい奴だよ!私は100%そっちに賭ける」


私は、すぐさまその女子詰め寄り、

「なんでそう言う事言うの?中村君は優しい人だよ!」

…と、言ってやりたかったけど、けれど、やっぱり中村君の事を完璧に理解した訳じゃないし、ほとんどクラスメイトと話さないのも事実だし…。

なのに、どうしてだろう?


しかし、気になりだしたら、止まらない私は、次の日から、少し違う視点で中村君をうかがう事にした。


次の日の朝、少し早めに教室の扉をまたいだのは、私の方だった。

(中村君…まだかな?)

何だか急に頬が熱を帯びて来た。

(何?私…なんでこんなに緊張してるの?)

自分で自分が解らない…と言うのはこう言う事を言うのか…。

1コ勉強になった。


いやいや、そうじゃない。

今、大切なのは、中村君の事だ。

次々入ってくる生徒の中に、中々中村君は現れなかった。

(今日…休みなのかな?)

そう思ったら、何だか一気に気分が落ちて行った。

そう思った瞬間、やっと中村君が教室の扉を開けて、入り口の前で…入り口の前で…何か…。


私は急いで席を立ち、中村君の居ない方の扉から、中村君の後ろに隠れ、何か言ってる、と初めて解った。

その内容に私はどうしようもなく涙が溢れた。


教室に入る直前、



「おはよう…。みんな元気そうだな…良かった」



そう…そう、呟いたのだ。



誰も、何も気づかない、なら、先生さえしていない素晴らしい行為だ。


(そうだったんんだ…毎日…クラスを心配してくれてたんだね…)


そんな私は、中村君に心配かけないように、

「中村君、おはよう!昨日はノート、ごめんね。助かっちゃった」

「あぁ…あれか…あれは、あぁするのが最善策だからな」

「でも、職員室まで持ってってもらっちゃって…」

「気にするな」


そう言うと、中村君は、教室に入ろ…う…としたと思ったら、ブンッと振り返り、

「高嶋、何か悲しいことでもあったのか?」

と唐突に聞いてきた。

「へ?」

私はすっかり忘れていた。

さっきふき取ったつもりでも、目の充血はそう簡単にはしまえない。

そんな事で昨日みたいに心配してくれて…。



その時、私は中村君が好きになっていた。



「大丈夫か?」

その心配そうな言葉がフラッシュバックして、昨日の『大丈夫か?』が頭をよぎって、私はつい、泣きだしてしまった。


その様子を見ていたクラスメイトが、

「どうしたの?高嶋さん!」

「え…美月?大丈夫?」

クラス中が集まってきて、只私が中村君を好きになってしまっただけの瞬間涙しゅんかんなみだで、みんな中村君を睨んでいる。


「ちっ違うの!私は…!」

言い訳を探して、あたふたしていた私は、凄く悲しい言葉を、中村君に浴びせる事になってしまった。

「俺が泣かせた。ごめん」

「ちょっ!それだけ?女子1人泣かせて、それで謝ったって思ってるの?」

「良いの!私は…私が泣いたのは、中村君のせいじゃないの!」



『私は中村君が好きになってしまって、どうしても涙が出ちゃって…』



そう言いたいのにクラス中、中村君を悪者にして、フォローしてもしようがない。



こう言えば、すべて丸く収まる。

その方法を私は知っていたのに。


『私は、中村君が好き』


それを言えない、私は、最低だ。

だって、ここで『中村君が好き』、そう言えば、すべて解決する。


なのに…、みんなが思ってる中村君のイメージにさらに火種をつけてしまった。


どうしても言えない―…。

中村君は、みんなから馬鹿にされて、誤解されて、変人だの、普通に話せだの、酷い事いっぱい、いっぱい言われて…。


なのに…どうしてかばえないの?




恥ずかしんだ。

気まずいんだ。

自分もクラスメイトから変人…て思われるシーンが眼を覆う。



(もう、ダメだ。もう私、最低だ…)

いるにいられなくなった私は、中村君を残して走って…走って…逃げしまった。


(ごめん!ごめん!ごめんね!中村君!!)

泣いて泣いて、授業をさぼり、家に帰るかと思うと、自分の部屋に閉じこもった。

両親は、共働きで、こんな風に一人になれる場所があって良かった。


泣いても泣いても邪魔しに来る奴はいない。

それに比べ、色んな奴から白い目で見られ、悪い奴、と思い込まれて…、私のせいで…私の………私…の…。


私は、だんだん脳みそが回りだした。


なんで、私は中村君が好きだと言えなかったのは、あの『中村って言っちゃえば変人じゃん?』とクラスの女子が話してた会話と、自分が一緒の偏見で中村君を見ていたのは私だったから。



その日の夜、私は強い罪悪感と、自分の身勝手さに泣きながら眠った。


次の日、私は、またこんな話を聞く羽目になる。

…と言うより、また、中村君があらぬ罪を着せられていた。


「ねぇ、津崎つざき、昨日さぁ、帰りの時間、雨だったじゃん?」

「おう。で?」

「中村に傘よこせとか脅されてなかった?」

「お、おう。マジビビったわ」


確かに昨日の下校時はまぁまぁの雨が降っていた。

しかし、そこは問題点ではない。


私は、その時、下駄箱に辿り着いたところだった。

その視線は、勝手にあの人の顔を見つけた。


美月は、なんとなぁく靴を持ったままその様子を見ていた。

「やっべー!今日雨かぁ!どうする?今井、走るか?」

と、津崎と今井が走り出そうとした時、


「これ、使え」

と、2人に折り畳み傘を手渡した。

「俺は、家が近い。津崎と今井は確か駅まで距離あったよな?」

「え…でもよぉ…」

「良いから使え」


そして、多少強引に傘を貸すと、中村君は、走って帰って行った。



それを…そんなに大切なことを…嘘にして…恥も見せず…悪者にする…。

(なんて根性が悪いんだ…)

私は思わず、



「津崎君、今井君、今、嘘ついたよね?」

「は?嘘?」

「何々、津崎達なんかしたのぉ?」


何が津崎と今井と美月の話の話題になっているか、それを知りながら、美月の事を馬鹿にしようと、会話に入って来た。

早速はやみさんたちも、ちょっとしか知らないならそんな出鱈目話、やめた方が良いよ」

「…!でも!津崎達認めたじゃん!中村に脅されたって!」

「中村君はそんな事する人じゃないよ!昨日のは中村君が津崎君と今井君に、傘を貸してあげてただけの事だよ!」


「みんな知ってるの?中村君が教室に入る時、ちゃんとみんなに『おはよう』って言うんだよ?『みんな元気だな』ってクラスメイトを気遣ってるんだよ?」

「でも!あたしらの名前、絶対中村は言えないでしょ!それだってクラスメイトに対する反感の声でもあるんじゃない!?」



そう言われて、美月は自信が持てなかった。

そこだけは。

「でも、高嶋って言ってくれたし、津崎君も今井君も、覚えてたじゃない!」

「だけど…」

まだ食いつく早速に、美月は大泣きしながら教室の中心で愛を叫んだ。


「これ以上!中村君を悪く言わないで!!」


すると、そこに現れたのは、中村だった。


「高嶋…それ以上言うとまるで俺の事を高嶋が好き、みたいに思われちまうよ。もういい。かばってくれて、ありがとな」


「かばったんじゃない!今まで好きになった事を誰にも言えなかったけど、それは好きになった人に、とってもとっても失礼だって…好きになった事を恥ずかしいだなんて、中村君じゃなかったら、きっと一生気付けない事だったと思う。私…中村君が好きです!」



「…」



「だ…めですか…?」



「俺で良いのか?」



「はい。中村君が良いんです」



「ありがとう。高嶋…俺も高嶋の事、す…きなのか…なぁ?」

「え…?」

いいところで、中村が首を傾げた。

「今まで女子に好感を持たれた事がないから、よく解らないんだ」

「私が1番で良かったな。と思わせて見せるから、私と付き合ってください」


「おう。頼む」


中村君は、頬を赤らめて返事をくれた。


そして、これぞ告白返し。


『中村君を悪く言わないで!』


「あれは、相当嬉しかったぞ」



ところで、こんな方々もいるかも知れないので、一応報告します。


中村の下の名前は?



中村純じゅんです。

なんの得にもなりませんが、参考までに。


では、またの機会に。

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