15
「……すみません……もう一度、言ってもらえますか?」
園長室。俺は耳を疑った。
「ですから、今回はご縁がなかった……ということで……」
園長が、淡々と繰り返す。
「……」
呆然とする。言葉が出てこない。俺がようやく声を出すことが出来たのは、しばらく経ってからだった。
「……それは、不採用、ということ……なんですね?」
「そう……ですね」
「なぜですか? 俺……試用期間中に、何か不祥事でも起こしましたか?」
「いえ。これと言って、不祥事と呼べるようなことはありませんでした」
「だったら、なぜ……」
「あなたは、うちの園には勿体ない人材です。うち以外なら、きっとあなたの実力を十分に発揮できる場所があると思いますよ」
……。
そんな見え透いた誤魔化しで、納得するとでも思ってるのか……
「そんなこと……ありませんよ! 俺は、ここで十分、実力を発揮してます! ここの仕事に満足してます!」
「……」
園長は困ったような顔で黙り込む。
「教えてください! 俺の何が悪かったんですか? 園長先生! お願いします!」
俺は園長に向かって、深く頭を下げる。
「……あなたは、ここには向いていません」
「え……」
俺が顔を上げると、園長は哀しげな顔で、だけど俺をまっすぐ見据えていた。
「詳しい事情は、主任にお聞きください。彼女なら、あなたが納得できるように説明してくれるはずです」
「……わかりました」
俺は頭を下げて、園長室を後にする。
職員室に入ると、その場にいたスタッフが一斉に俺を見るが、すぐに下を向いてしまう。
もう、皆知っているのだ。俺が本採用にならなかった、ということを。
考えてみれば、今日は朝からおかしかった。マイちゃんもアヤノさんもマコトも、みな俺に対する態度がぎこちなかった。
……。
そうだよな。俺、無職に逆戻りだもんな……
だけど、こうまで手の平返しされると、さすがに辛いものがある……
そうだ、主任は……?
「主任は、今日は年休取ってます」
マイちゃんが、堅い表情で事務的に言う。
「そうですか……」
なんだよ、それ……まさか、俺に顔を合わせづらくて、逃げたのか?
あの主任に限って、そんなことは無いと思うが……
……。
重苦しい圧力が、職員室全体を支配しているようだった。
ダメだ。いたたまれない。ここにはいられない。
「すみません……俺、今日は早退します……」
「わかったわ……」アヤノさんが力なく応える。
俺は席を立つ。誰もが無言のままだった。
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