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なんとか俺は弥彦山から生還した。主任の運転は……まあ、予想通りというか……とりあえず、俺は FF 車でカウンターステアをあてるドライバーを見るのは初めてだった。
それでも、俺を車酔いさせなかったのは、やはりさすがと言うべきか。聞くと、なんと主任はAライ(国内Aライセンス)を持っていて、近くのサーキットで走ったりもしてるらしい。最近は忙しくてあまり行けてない、とのことだったが。
峠から下ってくると、なんだかんだで19:00近くになってしまい、主任が送ってくれるというので結局俺も直帰することにした。今日は雨だったので、俺も自転車じゃなくてバスで出勤していたのだ。
「今日は疲れただろう。雨に濡れて体も冷えたことだしな。早く休んで、明日もまたバリバリ働いてくれ」
俺のアパートの入り口で、主任はそう言って俺に笑いかける。
「ありがとうございます。主任もあまり無理しないでくださいね」
「分かってるさ。それじゃあ、な」
「はい。お疲れ様でした」
そう言って俺が車から降りてドアを閉めると、主任は手を振って車を発進させる。雨はもう随分小降りになっていた。俺はそのまま彼女の車のテールライトをぼうっと見送る。それは交差点でウインカーを引き連れ園の方向に曲がると、そのまま野太い排気音と共に流れて消える。
……。
やっぱ、まだ仕事するつもりなんだ……主任こそ、社畜の名に
―――
翌日。
俺は空前の忙しさに見舞われた。
今までパソコンやタブレットに見向きもしなかった先生方が、いきなり大挙して俺のところに押し寄せてきたのだ。
どうやら、昨日の一件で、ICTを活用すると園の危機を救えるほどの威力を発揮する、ということが皆に知れ渡ったようだった。もはや引っ張りダコなんて生易しいものじゃない。タコの足の数をゆうに超える「教えてクレクレ」リクエストが殺到している。
キリがないので、午後、園児たちのお昼寝タイムに、
そして、この ICT フィーバーはその後しばらく続くこととなった。これは、パソコン四天王のメンバーにとっても有益だった。他の先生方に色々質問されて、それに答えることで、彼女たちのスキルもさらに定着し磨かれていくのだ。そして、そうなると、彼女たちのモチベーションもどんどん上がっていく。
いつの間にかマコトは園のSNSや動画サイトのチャンネルまで開設し、それらの管理を一手に引き受けていた。最近はインフラ回りの勉強も始めたようで、LinuC 資格の取得を目指している。
マイちゃんは表計算でマクロを軽々と組めるようになった。さらに彼女は有名なお絵描き中心のSNSでデビューを果たし、今やイラストのオファーが来るほどの絵師である。
アヤノさんはPC検定の1級に受かってしまった。タッチタイピングのスピードは間違いなく俺よりも速いし正確だと思う。
そして、俺は……とうとう本採用の是非が決まる、運命の時期を迎えていた。
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