13
俺の輸血でアスカくんの容態は安定した。念のため一日入院させて様子を見るが、明日には退院できるだろう、とのことだった。
アスカくんの両親は、その日の 17:00 過ぎにそろって医院にやってきた。主任を先頭に、俺と川西先生はみな平身低頭、平謝りだったが、ご両親はむしろ、迅速で適切な対応に感謝します、と言って俺たちに深々と頭を下げていた。しばらくご両親と俺たちの謝り合戦が続いたが、ご両親の、きりがないのでもうやめましょう、という提案で、ようやく俺たちも頭を下げるのをやめた。
17:30 。俺たちは医院を後にした。川西先生は園に戻るルート上にちょうど自宅がある、とのことで、そのまま直帰することになった。それで俺は川西先生と主任の関係を聞いてみた。
なんと、主任は川西先生の教え子なんだそうだ。うちの園の前身、野村幼稚園の園児だった主任は、当時まだ新米だった川西先生にいろいろ面倒を見てもらった、とのことだった。ピアノの楽しさを教わったのも彼女からだそうだ。園長よりもキャリアが長い、園の生き字引的存在らしい。なるほど。それで主任も頭が上がらなさそうだったのか。
主任と楽し気にそんな話をしてくれた川西先生を家に送った後、主任は運転しながら大きく息を吐き、俺のほうを向いて微笑む。
「今日は本当に、君のお手柄だったな。アスカくんの命にもしものことがあったら、これではとても済まなかった。園は多大な賠償をする羽目になっただろう。君は園を救ったのかもしれん」
「そんな、大げさな……」俺はかぶりを振って見せる。「これは、みんなの手柄ですよ。マイちゃんも、アヤノさんも、マコトも……みな迅速に対応してくれましたからね」
「それらも含めて、君の手柄だよ」
「……え?」
「あの三人があそこまでテキパキと対応できたのは、君がICTのスキルを彼女たちに伝授したからだ。そうでなければ彼女たちもあれほど迅速には動けなかった」
「そうでしょうか……」
「そう、だと私は思うな。とにかく、今日はよくやってくれた。お礼に、ドライブに連れてってあげよう」
「……は?」
なんだか話の雲行きが怪しくなってきた。
「私も最近いろいろストレスがたまることが多くてな……園に戻る前に、気晴らしに景色のいいところに行こうじゃないか」
「……って、具体的にどこのことですか?」
この時点ですでに、俺はかなり嫌な予感がしていた。
「
やっぱり……!
「……それ、ただ単に、主任が峠道を走りたい、ってだけなんじゃないですか?」
「……バレたか」
主任が、ニタァ、と、少し嫌な感じの笑みを浮かべる。
「いやぁ、君がそこにいると、左右の重量のバランスが良くてな。左コーナーでのトラクションのかかり方が違う。特にこんなウェットな路面ではな」
「やめてくださいよ……俺、まだ死にたくないっす……」
「大丈夫だよ。これだけ路面が濡れてたら、私も制限速度くらいのスピードしか出せない。軽く流すだけだから、心配するな」
ええと……制限速度って、路面が乾いている時の、ですよね……
「……ほんとに、流すだけですね?」
「もちろん」
「わかりました。お供します」
「そう来なくてはな! ようし、それじゃ行くぞ! Here we go!」
言うが早いか主任の左手がシフトレバーを3速に叩き込み、135馬力の 1.4 リッター DOHC ターボエンジンが唸りをあげてアバルト500を急加速させる。
た……助けてくれー!!!
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