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「 VPN ?  何だそれは?」


 主任が訝しげに首をかしげる。


「ヴァーチャル・プライヴェート・ネットワークの略です。今この園の LAN はプライヴェートネットワークと言って、インターネットからはアクセスできないようになっているんです。それはそれでセキュリティ上はいいんですけど、やっぱり外部から LAN にアクセスしたい、という場面もあると思うんですよね。VPN はそういう時に、インターネット上からプライヴェートネットワークにアクセスするためのものなんです」


「ふうむ……良くわからないけど、それってセキュリティ的には危なくなるんじゃないのか? ファイアウォールに穴をあける、ってことだよな?」


 ああもう、「良くわからない」なんて言いつつ、この人は本質的なところはちゃんと分かっている。でなければこんな質問はできない。そもそも「ファイアウォール」なんて言葉が出てくるのは、間違いなくこの園ではこの人だけだ。


 俺は念入りに主任に説明した。穴をあける、と言っても、園のファイアウォールに直接穴をあけるのではなく、俺の家の自宅サーバマシンが仲介する形で園内 LAN に接続できるようになること。

 そして、自宅サーバマシン上で動いている VPN サーバプログラムには、秘密鍵ファイルを持っている人間しかログインできないこと。さらに、自宅サーバのセキュリティ対策は万全で、もう五年以上運用しているが、今までに一度も不正侵入されたことはない、ということ。


 それでも、なかなか主任は首を縦に振ろうとしなかった。が、それを一変させたのは、俺のこのセリフだった。


「ぶっちゃけ、俺、自分のアパートからここの LAN にアクセスしたいんですよ。そうすれば、家にいてもいろいろ作業できるし。主任だって、VPN を使えば自分の家からアクセスできるようになりますよ」


「……なに?」


 主任の目がキラリと光ったようだった。


「私も家からここのネットワークにアクセスできるようになるのか? ってことは、システムにも?」


 そう。セキュリティを確保するため、例のシステムには園のネットワークからしかアクセスできないようになっている。しかしVPNを使えば、どこにいても園のネットワーク経由でアクセスが可能になるのだ。これは彼女にとってもありがたい話だろう。


「ええ。もちろんですよ!」


 俺はこの時勝利を確信した。そしてそれは一瞬後に、主任のうなずきと共に確定した。


 しかし……


 この篠原主任という人も、どうやら相当ワーカホリックのようだ……


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