第9話 校外学習2

 

 ここからは俺、矢上、以下省略3名と共に班行動が始まった。


 俺たちの予定はこうだ。


9:00 鎌倉駅到着


9:30 班行動(鎌倉散策前半)


11:30 昼食


12:30 自由行動(鎌倉散策後半)


15:00 鎌倉駅集合(点呼・解散)


 まあ、ざっとこんな感じだ。

各班行動ルートは自分達で決めることができ、俺たちの班はど定番の鶴ヶ丘八幡宮の周辺を散策することに決めた。


 まずは鎌倉駅東口を出て、小町通りを通過して鶴岡八幡宮に行く。その後は近くにある頼朝さんのお墓に参って、受験の神様菅原道真を祀る荏柄天神社に参拝と。


 これが前半のルートになる。

その後は昼食を挟んで後半は自由行動となり、鎌倉駅で解散という流れになっている。


「土橋君、もう行くよ!」

「あ、はいっ」

しおりでルートを確認していたら、矢上に呼ばれた。俺はしおりを鞄にしまい、とぼとぼ歩き出した。


 さあ、憂鬱な1日の始まりだ。


 矢上と女子(名前知らんのでXにしよう)が先頭で二人並んで歩き、その後ろに男子A、B(コイツらの名前も知らん)が続く。

 上述の4人に少し遅れて、俺がついて行く構図になっている。ぼっちの定位置だね。


 小町通りは観光客で溢れていた。知らない人に説明しておくと、小町通りは鎌倉駅と鶴岡八幡宮の間にある商店街である。お土産屋さん、ファッショングッズ、飲食店など幅広いジャンルの店は構えている。食べ歩きで人気である。


 幸いなことに、矢上はXと話に夢中でA、Bは心優しいお節介を働く者ではなかったので、黙々と一人歩いて行く。気を使って話しかけられる方が面倒くさい。やることが無いので、俺は周囲を観察することにした。


以下独白


 それにしても、大学生のカップルらしき二人組が目立つ。よくもまあ、男も女も同じような格好をするもんだ。杓子定規で面白みがないね。あと、授業サボんなよ、今日平日だぞ。小学校、中学校、高校で一切休まなかった奴が、大学になるとサボり出すってのは、いかに人がルールや常識に縛られるかを如実に表してるな。


 みんな同じような髪型に服装。この前電車で隣同士座ってた女子二人なんて髪型、服装、マスク、化粧が酷似してて、ドッペルゲンガーが仲良く座ってるのかと思ったよ、あの人今も生きてるだろうか。


 まー、しかしぼっちというか、人目を気にせずにいるということは、流行にもとらわれないということであって。

例えば、髪型。90年代半ばはロングヘアーが、2000年代に入るとソフトモヒカン、2010年代以降はキノコヘアー、ツーブロックなどなどが流行ってるらしい。


 時代によって人の髪型も変わっていくわけだが、俺は流行に感化されることはない。正直髪なんて長くなけりゃ何でもいい。安いし早いから1000円カットで十分である。テキトーに「3ヶ月分切ってください」って言った10分後にはもう店出てる速さ。用事があった時に「急いで下さい」って頼んだら5分程度で終わるほどである。合理的すぎて素晴らしい。今度から毎回急いでるって言おう。


 ぼっちは一人がデフォルトだから、こんな脈絡のない考えが次々と頭に浮かんでくるものだ。ぼっちを謳いながら会話文が多い小説は信用できない。

 あれはエアプだと思う。友達や彼女要らないとのたまっておきながら、自身に好意を寄せる人物が現れると、すぐ友達・彼女を作る。貴方、美しくない!


 しかし、俺ってほんと、人と会話する機会がないんだよな。1日口を開かないことも良くある。帰りに昇降口を降りてる時に「そういや、今日一言も喋ってねえ」って気付くみたいな。お陰で声帯が貧弱になってしまった。


独白終わり


 そろそろ考え事にも飽きてきたところで、矢上と女子Xが「茶茶和」という抹茶のスイーツ処の前に立ち止まった。店の塗装が一面緑で抹茶一押しが伝わってくる。貼り紙によると、食べ歩きで抹茶わらび餅が人気らしい。

「この店、抹茶わらび餅が有名なんだよね」

「何にしようかな。抹茶ラテとか、グリーンティーもあるよ」


 矢上と女子Xが会話に興じてる一方その頃、男子A、Bと俺はそっぽを向いてスマホをいじっていた。そりゃ、抹茶は女子向きだもんな。興味ないわな。

 それから1分程が経ち、二人はグリーンティーを購入した。さっぱりしてて美味しそう。

 

 しかし、こうした分断が生じるのが班行動のデメリットだ。女子と男子では好みが違うため、どちらかが退屈を持て余すことになる。俺なんか、中学の修学旅行で班の女子が服を買う間1時間も待たされたからな。ふざけんなっつーの。

 

 だが、どうやら矢上も同じことを考えていたらしい。


 「A君、B君は何か食べたい物とかあるの」

  「いや、僕達は大丈夫」


 男子側の不満を察してか矢上を機転を効かせてA、Bに尋ねた。俺には聞かないのかよ。だが、これでA、Bの不満が和らぎ、不穏な空気は収まった。人は誰かに認知してもらいたがる生き物である。無視するのではなく、気にしてますよアピールが大事なのだそう。これが俗に言うマズローの承認欲求な。


 それから行動を再開し、風景を漫然と眺める時間がしばらく続いた。



後書き

それにしても会話文が少ないですね。しかし、これがリアルなんですから仕方ない。

ただ、後半からは展開を広げますので、興味があれば次もよろしくお願いします。

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