第8話 校外学習1
『5月20日火曜日の全国のお天気をお伝えします。梅雨前線が南下し高気圧に覆われて、各地で青空が広がると予想されます。関東では朝から晴れてる所が多く強い日差しが照りつけるでしょう。神奈川の最高気温は28℃まで上がり夏日となります……』
リビングでテレビをつけるとお天気お姉さんの透き通った声が耳に入ってくる。
5月で28℃とかもう終わってるよ、日本。この暑さの中の校外学習はもはや地獄でしかない。「サボってしまえ」という悪魔の囁きが聴こえてくるが、担任の笹島に来るよう念を押されてるので行かざるを得ない。
昭和の鬼教師め。時代錯誤も甚だしい。
憤りを抑えつつ、朝食を終え出発の準備をしにダラダラと2階の自室へ戻る。両親は仕事でもう家を出たので、催促されることはない。両親は俺と正反対の性格だ。真面目で勤勉に働いて社会の歯車を回す。この親に育てられて、なぜ不真面目で怠惰な性格になったのだろう。
「えーっと、しおりはどこだ。お、あった、あった。」
しおりを開いて、持ち物欄を確認する。
なになに。筆記用具、しおり、スマホ、時計…別にいつもと変わらないな。
それにしても、このしおりの絵を描くのは大変なんだろうな。下書きをして、色付けて、友達か親に見せて校正することもあるんだろう。興味はないが、少しは敬意を表してペラペラめくって眺めて観る。
しかし、何なんだろうか、このキャラは。目がやたらとデカい。アニメや漫画的な絵とも違うし……
進研ゼミ付録の漫画でよく見るキャラデザだよね。少女漫画の絵をモチーフにしたのかな……うん。
それ以上に感想が思い付かず、早々に鑑賞をリタイアしてしおりを鞄に詰め込んだ。
その後は制服に着替えて洗面所に向かい顔洗う。
改めて鏡に映る自分の顔を見る。いつ見ても冴えない顔だ。美女美男子ですら何年も同じ顔を見てると飽きてくるわけで、俺の顔なんか辟易する次元だ。美人の奥さんがいても多目的トイレで不倫する人がいるくらいだからな。因みにその多目的トイレ、某宗教家の息子が「〇〇さんの〜トイレ」と所有格を付けて呼んでいて笑った。公共物だぞ。
それに色んなYouTuberが多目的トイレを観光スポット的な感じで撮影してんのマジで草。野獣先輩のロケ地みたい。あれ謎に流行ってたよね。
支度を整えた後、リビングのソファーに寝転んで今日の予定についてあれこれ思案する。
今日は現地集合なので、初めて乗る路線で戸惑うこともあるだろう。もしもの場合に備え早く出るべきだろうが、早く着くのも時間の無駄だし、時間ギリギリに行くことにする。
これで遅刻するのがいつものパターンだが、遅刻を前提に集合時間を決めてるだろうし、まあ別にいいだろう。そういや、中学の修学旅行で新幹線に一人だけ乗り遅れた奴いたな。さすがに、あれはない。
問題なのは、最寄駅から鎌倉駅までは、横浜を経由しなければ行けないことだ。
「はぁーー」
ため息が出る。誰が好きでこんな混む場所に行かなくちゃいけないんだ。ほんとサラリーマンはすごいよ。あれ程混んでる場所でぶつからないのは感心する。体に磁石でも付いて、ぶつかるって時に反発しあってるのかもしれない。それくらい回避性能抜群だ。
そんなことを考えていると、いつのまにか時間がきてしまったようだ。
玄関を開けて外に出たら雲一つない青空が広がっていた。天気は快晴だが、意外とそこまで気温は高くない。だが、この時期特有の蒸し暑さが全身を襲い、背中にじわじわ汗が滲み出る不快感を感じた。
そこで、俺は180度ターンして家に戻ると冷蔵庫に直行する。夏はやっぱり冷えピタよ。冷蔵庫から取り出し背中と首、額に貼り付ける。冷んやりして気持ちいい。因みに最近は日傘が効果あるのかについて悩んでる。
さあ、気を取り直して、再出発だ。
*****
『まもなく鎌倉駅に到着します。お出口はー(略棒)』
横浜から30分近く電車に乗っていただろうか、ようやく駅に着くと、構内の一箇所に同じ制服を着た学生が既に列をなして集まっており、教師が何か注意事項を説明をしていた。
おっと、遅刻遅刻。早足で列に向かおうとすると、途中笹島が仁王立ちでどっしり構えていた。
「おい土橋!10分遅刻だぞ。ん、お前体調でも悪いのか?」
不機嫌な皺を眉目に作り怒気を含めて言ったが、俺の額を見て急に笹島が心配し出した。
何を言ってるんだろうか、俺は元気だぞ。
「いや、全然元気ですけど、どうしたんですか?」
「じゃあ何で冷えピタ貼ってんだよ」
「え、暑いからです」
俺が淡々と話すと、笹島は変な物でも見るような目で俺のことを見ていた。口を2センチくらい開けた、阿呆面であった。
そして「もういい、早く列に並べ」と白けたように指示を出して戻っていく。良く分からないが、怒られずにすんで儲かった。
そういや、冷えピタは8時間冷却とか謳ってるけど、2時間も経てば体の熱で保温され役立たずに変質する。もう要らない、そう思って冷えピタを剥がした
しかし、今振り返ると笹島は冷えピタを張っつけて来たことに驚いたのだろう。確かに、冷えピタ貼って外で歩く奴は見たことない。手持ちの扇風機みたいなの使う人は見かけるが、冷えピタの方が直接的に冷やしてくれて、いいと思うぞ。逆に何で冷えピタを使わないんだろうか?
閑話休題
列の後方まで移動すると地面に座るよう指示された。地面に座らせんのやめてくれないかな。下めちゃくちゃ汚いだろ。
周りが体育座りしてる中で、俺は一人だけ尻を床に付けないようしゃがむことにした。
踵をつけることができないので指の付け根辺りだけで体重を支えることになり、支点が不安定でよろけそうになる。
しかし、流石にこの状況で倒れるわけにはいかない。達磨さんが転んだみたいな状況になってしまう。
俺は教師の話そっちのけで、バランスゲームに熱中していた。校外学習でテンション上がる中、平衡感覚を鍛えることに必死なのは俺しかいないだろう。我ながら一体何をやってるんだろうか。
教師の話が終わると、ようやく苦役から解放された。話し、なげーよ。
ここからは俺、矢上、以下省略3名と共に班行動が始まった。
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