第7話 小休止


ある日の昼休み。周りに人がいないことを確認して山下にこんな話をした。


 『やれやれ系、なんて言葉があるけど意味を調べてもどうもうまく消化できない。

あれはちょっと両義的かつ多元的な概念だと思うんだよ。だって、アイツら基本無気力とか言いながら、なぜか厄介ごとに巻き込まれるだろ? 意味が分からない。無気力ならば他人との関係性を切り捨てればいいだけの話じゃないか。本当に無気力で理性的であるならば、非合理な付き合いはしないはず。面倒だからな。


そう、要は彼らはツンデレなんだよ。普段無気力・無関心を装って、相手からの注意を引きたいだけなんだ。親にかまってほしい幼児と同レベルの憐れむべき奴らだと思うね。

世間はさ、彼らを否定的に捉えるけどちょっと待ってほしいね。

素直になれない彼らをもう少し温かい目で見てあげよう。いつかは気付くはずだ、無意識に人に甘えていたことを。

だから折木奉太郎やキョン、比企ヶ谷八幡といった人間をあまり責めないでくれ。

幼児に「あなたは構ってほしいだけでしょ、その手には乗らないよ」なんて大人気ないことを言ったりはしないだろ?

「まあ、子供だから仕方ない」そう見守ってあげよう。』


そんな内容のことを話すと山下は興奮気味に言った。

「確かに、無気力な癖に周囲に巻き込まれるのは矛盾してるな。その発想は無かった!」

「だろ? 『やれやれ』と言って結局問題に取り組むんだから、最初からやれよってはなしだ」

そういうと急に山下は顎に手をやり、神妙な面持ちになった。

どうしたんだ? 不思議に思い声を掛けようと思った時、唐突にある主張に展開し出した。


「でも、こういう可能性もあるかも知れないぞ」

「なんだ?」

「そう言えば、往々にして奴らはは女性からなぜかモテる。なぜか? 恐らく幼児性に対して母性が働くのではないか? だからあんなに女が寄ってくる。これはもしかして、意図的にやれやれ系を演じてる可能性についても考慮する必要が出てきたんじゃないだろうか」


山下はまるで、討論番組に呼ばれた専門家みたいに机の上で手を組んでそう話した。


「なるほど。逆転の発想だな…」


この後も俺たちは盛り上がり、時間を忘れて議論を交わした。


こういうオタク的談義も悪くない。

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