第4話 少女との出会いと新たな友人
一般に問題児のイメージは不良・ヤンキーやおふざけキャラなどクラスの中心人物を想定するが俺はそうではない。いわゆる陰キャラだ。100人が見たら99人が認めるだろう。寝癖を治してないボサボサに伸び切った髪。黒縁のメガネ。若干猫背。身長は平均身長と同じ170センチ。何もしなければ誰の印象にも残らない、そんな奴だ。
だが、そんな一見大人しそうな奴が怒られていると、そのギャップから寧ろ印象に残ってしまう。一年の時、俺を見ながらヒソヒソ声で隣の人間と可笑そうに話してる女子生徒がいたな。しかも可愛くて少し気になっていた子なので傷ついた。他にも知らない先生が話しかけてきたこともあったな。とまあ、どうにも自分は悪目立ちをしてしまうのだ。
*****
全校集会のため校庭へ向かってる途中肩を叩かれた。
「ねえ、君。先生となんの話してたの?なんかやったの」
口元に笑みを浮かべて楽しげに話しかけてきたのは、なんと女子だった。誰だったか、確か矢上夏帆という名前だったと思う。身長165センチくらいで女子の中では背が高い方だ。まだ四月だと言うのに日に焼けており、ショートカットの髪型が活発的な印象を与える。
俺に話しかけるなんて物好きな奴だ。何を言うのかと訝しみながら
「あー、1年の時ちょっとやらかしちゃって笑。それで呼ばれてました」
笑顔をうまく取り繕ってそう答える。猫を被るのは得意なのだ。
「初日から忠告される程、問題起こしたの?」
初対面だというのに、ざっくばらんに聞いてくる子だ。
「そんなおおごとでは無いんですけど。ちょっと遅刻が多くて……」
「へえ、うちの生徒って基本真面目なのに、変わってるね〜」
矢上はまるで幼児が面白いオモチャを見つけたように目を輝かせている。
その目を観ていると瞳に吸い込まれそうになる。
そして、彼女は「じゃあね」と言ってクスクス笑いながら去っていった。
彼女の物怖じしない姿に俺はしばらく呆気に取られてしまった。
しかしまあ矢上が言うことにも一理ある。
俺が通う宮前学院高校はそこそこの偏差値がある。確か某大手塾の偏差値表で65くらいある自称進学校。当然ある程度勉強しないと入れないし、校則が厳しいと有名なのでまず変な奴はこの学校に入ってこない。
だからかうちに入学するには東京の真面目ちゃんを一箇所に集めたんじゃないかってくらい常識的で真面目な生徒が多い。学年の修了時には皆勤賞制度があり、無遅刻、無欠席の人には賞と景品が貰えるのだが、冗談抜きにクラスの8割くらい貰ってた。あれは流石にびっくりして、思わず「えっ!?」「社畜候補生じゃん!」と口に出して言ってしまうほどであった。俺はというと、二十日くらいはサボったかな。遅刻は数え切れない。
必然、この環境の中で教師に怒られる奴は異端だ。
校長の長い話が終わってようやく全校集会がお開きになる。今日は新学期一日目なので後は帰りのホームルームだけ。
ホームルームが終わりさようならの挨拶が終わると同時に一目散に教室を出る。1秒でも早く帰りたい。
四月も中旬をすぎ、ゴールデンウィークが近づいてきた今日この頃。周りの連中は環境に適応したようで、新しい人間関係を構築している中、俺はあいも変わらずぼっち生活を謳歌していた。というのは少し嘘。
俺にも1人だけ少し会話する程度の友人ができたのだ。友達を作る時の条件は自分と同じタイプの人間を選ぶこと。そう、1人はあの留年生だ。やはり学年が上の先輩ということであまりフレンドリーに接しにくいのだろう。そういう雰囲気を感じてか、その留年生も話しかけ辛そうだった。俺はそこに目をつけ自分から話しかけた。
四月は健康診断やら体力測定やらでなにかと忙しい。
そいつに話しかけたのも体育の体力測定の時間だった。
「今からハンドボール投げの飛距離を測定するから、ペアを組め」
体育教師が機械的にそう宣言する。
周りが2人1組を作って行く中、俺は周囲で余ってる人間を探すと焦った風に首をキョロキョロ動かしてる奴と目があった。お、留年した山下だ。これはチャンスと思い
俺はおもむろに山下に近づくと
「一緒にペアを作りませんか?」と丁寧な口調で話しかけた。一応向こうは先輩だからな
「あ、こちらこそお願いします」
ほっとした表情でぺこりと頭を下げてきた。
おっとりしていて、先輩の威厳を全く感じさせない人だな。
自己紹介は簡単に済ませハンドボール投げの計測に急いで取り掛かる。
結果はお互い高2男子の平均25メートルを遥かに下回る記録だった。
俺は18メートル、山下は15メートルと悲惨で、隣の野球部に笑われた。
つーか、ハンドボールを投げることに意味があるのか?
「山下君ってなんで留年したんです?」
早々に計測を終えて、歯に衣着せぬ質問をしてみた。直球な質問をすることで意外と堅苦しい態度を捨てて打ち解けることも出来るのだ。
「えっと、ちょっと人間関係が上手くいかなくて……」
意表を突かれ驚いたよう表情だったが、節目がちで答えてくれた。
「なるほど、まー1年間よろしくお願いします」
形式的で儀礼的な挨拶し、会話が終える。デリケートな内容は当然深掘りしてはいけない、程々が肝心。周りの人間からすれば味のない内容だろうが、俺にはこれで十分な会話だ。
こうして、この何気ないやり取りがキッカケで俺と山下は休み時間に会話する程度の間柄になった。
中学や高校で友達を作るのはそんなに難しいことではない。学校という閉鎖的な共同体で生活する以上、友達の必要性は誰もが認識している。そもそも学校は友人を作ることを前提に運営されてるので当然だ。体育では好きな人とペアを組めと言われるし、校外学習や修学旅行の班決めで友達が必要になる。
だから、こちらが話しかけて無視する奴はまずいない。余程性格や趣味が釣り合わない時は別だが、中学生にもなれば相手に合わせてビジネスライクな付き合いができる。山下との会話のように、こちらから積極的に話しかけさえすれば、友達という関係性は容易にきづくことができる。
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