第3話 新クラス

 少し奥に進みピロティ付近でクラス替えの紙が教師から渡される。

 うるさいな。周囲は盛り上がる生徒で騒がしい。

 俺は少し移動し喧騒から離れた場所で確認する。


 ここで普通の生徒ならドキドキしながらクラスメイトの名前を確認するのだろうが、俺は冷めた気持ちでクラスを確認する。なぜなら俺には友達がいないからだ。正直一人でいる方が落ち着けて好き。人といると相手のことを気にしないといけなくて怠いから。


 親しき中にも礼儀ありで、相手が嫌がることは言わず、相手が好むことを考えながら会話する必要がある。これは最低限のマナーだが、結構神経を消費する行為だ。それに自分が好きなことだけをするわけにもいかない。結局ぼっちが1番楽で楽しい。


 まあ本当のことを言えば、会話をする間柄の友達は3人いたのだ。いくらぼっちが好きだと言っても友達がいることに越したことはない。休んだ時にはノートを見せてもらう必要があるし、宿題をうつさせて貰える。ただ、写したことがバレて俺だけ宿題の量が三倍に増えたこともあった。あれは地獄だった、


 そしてうちの高校は2年次からは選択科目によってクラスが分かれる仕様になっている。その3人は日本史を選び、俺は世界史を選んだので、必然的にクラスが一緒になることはないわけだ。俺も日本史を選べば、一緒のクラスになった可能性があったのだが、人に合わせるのは性に合わない。なんか負けた気がする。そんなちんけな意地を張っているから、一から友達を作るハメになるのだが。

 

 閑話休題


 2年7組。それが俺、土橋怜の新しいクラスだった。うちの学校は1組から8組まであって、4から8までが文系のクラスになっている。

 日本史選択が4、5、6組。世界史が7、8組になってる。やはり日本史選択者が多い。友人3人もカタカナが苦手で日本史にしたと言っていた。しかし、個人的には世界史の方が楽だと思う。漢字は覚える必要ないし、あっても簡単なものだ。何より範囲が広い分、地域ごとに覚える内容は浅いもので、楽なのだ。私文なら世界史がおすすめ。早慶以外なら9割は堅い。


 校内からは新学期ということもあり、かなり浮ついた雰囲気を感じる。

 教室に着いてから出席番号で指定された席に座る。

 

 周囲を見渡してみると驚いたことに、すでに人間関係が出来上がってるようだ。皆んな1人は知り合いのようで仲良く話し合ってる。恐らく1年から同じクラスの人も居れば、部活や委員会などで交流があった人もいるだろう。

 

 勿論そんな面倒なものには所属してない俺は誰も知らないし、話す相手もいない。すでに構築された人間関係に新しく入るのは至難の業。

 

 さあ、どうしようかと頭を悩ませているとドスのきいた声が聞こえてきた。

「おーい時間だぞ、みんな席につけ」

そう言って教室に入ってきたのは50代の初老の笹島先生。身長が175くらいのスリムな体型だ。生徒指導の担当者らしく動きがキビキビしており、話し方に威圧感を感じる。話に聞くと結構厳しい人らしい。


 うーん、ハズレ。多分クラス全員がそう思ってる。

「ホームルームを始める。今日から新学期なわけだが、まず最初に自己紹介をしてもらう。わたしは笹島達だ、一年間よろしく」

 簡単な挨拶を済ませると、なぜか俺と目があった。嫌な汗が流れるのを感じながら、何事も起こらないことを祈る。


 自己紹介は特に何もなく終わる。適当に名前、一年時のクラス、入ってる部活を紹介した。帰宅部だけど。

 そういや、自己紹介の紙を記入する機会がたまにあるけど、部活に入ってない人は部活欄はなんて書けば良いんだろ?帰宅部は正式名称じゃないだろうし、無所属と書けば良いのだろうか?


 ボーっとしながら聞いてるとある自己紹介に意識が向いた。

「えっと、山下です。去年も2年7組でした。留年して年は一つ上ですがき、気軽に話しかけてください。あと部活には入ってません」

強張った声の主はどうやら留年生らしい。1つ年齢が上ということで、居心地が悪そうにそわそわしている。容姿は短髪で髪がまとめられ、黒縁メガネを掛けていて度がかなり強そうで、目が小さく見える。


 全員自己紹介が終わり、多少の事務連絡を伝えて新クラスで初めてのホームルームが終わった。

「はいホームルームはここまで。1時間目はグラウンドで全校集会があるから遅れないように」

 そう言った後笹島は一呼吸置いて俺を見る。

「あと、土橋。ちょっとこっちに来い」


 その瞬間教室の時間が止まった。一瞬で静まりクラス中の注目が俺に集まる。


 およよ、一体俺は何をしたんだ?皆目見当がつかない。


 初日から何やらかしたんだと好奇な視線を浴びせてくる衆人環視のもと、訳もわからず恐る恐る近づくと


「お前が土橋か、一年の時の担任の谷垣先生から話は聞いてるぞ。問題をよく起こすらしいじゃないか」


 どうやら一年時の素行について言ってるようだ。


「んーまぁ、はい、すいません」


 思い当たる節がありすぎて、なんとか釈明しようとするが、適切な言葉が出てこない。


 「学校は遅刻するわ、無断欠席するわ、提出物を出さないと言っていた。注意しても治らないそうだ」

 

眼光鋭く俺の目を一閃に見てくる。そんな見つめられると恥ずかしい。威圧を感じついつい目を逸らしてしまう。

 

 周りの視線もあることだし早く終わらせようと反省しましたって雰囲気を出しつつ謝る。


 「はあ、すいません。今年からもっと注意して行動します」


 「俺のクラスでは怠慢は許さないぞ、分かったな。もう下がっていい。」

 

 初日ということもあってかすんなり解放してくれた。顎で戻れと指示を出されたので頭を下げて会釈し、席に着く。どうやら俺は笹島に目をつけられたらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る