第42話 序列戦と動き出す襲撃者達②(三人称)

 アルトが手引き犯の元へ向かい始めた頃、第1闘技場では2年生の序列戦が始まっていた。


 その試合を観ていた生徒会長で序列1位のユミルが、生徒会副会長で序列2位のドロウに問いかける。


「今戦っているのは?」


「今は序列93位のミナ・フラワーと、序列89位のスミス・ノーブルです」


 ドロウがそう言うとユミルは戦っている2人の方を再び見て。


「まあまあだな。魔力操作がまだ少し拙い」


「まだ2年生なので、そこはしょうがないかと」


「だが私や君は出来ていたじゃないか。なら他の奴らが出来ていてもおかしくないんじゃないのか?」


 ユミルがそう言うとドロウが溜め息を吐く。


「そんなこと言いながら1年生の時に、先輩に拙いと言われて物凄い魔力操作を練習していたのは誰ですか?」 


 ドロウがそう言うと、ユミルは身に覚えがあったのかすっと目を逸らす。


 そしてこれ以上この話を続けると自分が不利になると思ったユミルは、焦って別の話題に変える。


「そ、そう言えばドロウ。この前1年生の教室に行ったらしいじゃないか。どうして何だ?それにお前の弟が決闘でボコボコにされたと聞いたが……」


 そう言うと今度はドロウが目を逸らす。


 その動きによってこの話がドロウの弱点とわかったユミルは、ここぞとばかりに攻め立てる。


「それで何が起きたんだ?」


 ドロウは言わないようにすると面倒だと感じたのか、素直に話し始める。


「俺の弟がクラスの1人の男子に虐められていると言うから会いに行ったら、ただ【不適合者】が自分よりも強いのが気に入らないから、追い出そうとしていただけだったので、頭を下げた。だがハンクは納得していなかったから決闘をしてもらっだけです」


 そう言うとユミルは『なるほど……』と状況が分かったのか納得していた。


「まぁそれは弟がいけないけど、その【不適合者】は強いのか?」


 ユミルが訝しげに聞くと、ドロウは大きく頷く。


「はい、アルト・ガーディアンは強いですよ。昔、国王陛下直々に褒美を貰い、サーシャ王女の婚約者でもあるとのことです」


 ドロウが自慢げに言うとユミルは「ああ」と返し。


「アルト・ガーディアンと言えば、前代未聞の測定不能を出した奴じゃないか。そして確か本当の主席なんだろう?」


「そうです。魔力量検査では歴史上2位の60万を叩き出し、無属性の【魔力弾】で的を全て壊し、手合わせでは1人ではないがバナー先生を倒した男だと把握しています」


「ほぉ……確かに凄いね。特に魔力量。僕の6倍はあるじゃないか」


「いや魔力量もそうですが、もっと怖いのは常に腰にぶら下げている『銃』と言う武器です」


「銃……?」


 ドロウがそう言うとユミルは聞いたこともない武器に首を傾げる。


 ドロウはまぁしょうがないかと説明し出す。


「本人から聞いた話では、自分のスキルで作った武器らしいですよ。遠距離の武器だが、近距離用もあったり、超遠距離用もあるらしいです」


 そう言うとユミルは『えっ!?』と驚く。


 まぁそれもしょうがないことだろう。


 この世界の遠距離武器は、弓と魔法しか無く、魔法は撃つのに時間がかかるし、弓はそこまで遠距離を狙うことは出来ない。


 そしてどちらも近距離で撃つとなると相当な達人でなければ不可能に近いのだ。


 それを全て使いこなせ、なおかつ更に遠距離を狙えるなんて物は恐ろしいとしか言えない。


 そのことを身に染みて知っているからこそ、ユミルはあのように驚いたのだ。


 どうやらアルトに会いたくなったユミルはドロウに聞く。


「今ここにアルトは居るよな?確か1年生は見学だろう?」


 するとドロウは首を傾げながら答える。


「サーシャ王女がいますから、アルトもいるはずなのですが今此処には居ないようです」


「ふむ……なら僕が会長権限で魔法の許可をするからバレないように【魔力感知】で探してくれ」


 ドロウは『分かりました』と言うと、アルトと同等の魔力操作で【魔力感知】を使う。


 それを見ていたユミルは。


(やはりドロウの魔力操作は他の奴らを……この僕さえも凌駕している。これなら誰にもバレずに感知を出来るだろう)


 そしてドロウは、ユミルの思った通り誰にもバレずに感知をしていたのだが……。


「ッッ!?!?!?」


 すると突如ドロウの顔が驚愕に染まる。


 そして直ぐに【魔力感知】を止め、焦りながらユミルにプライベートの時と同じ口調で言う。


「ユミル!今日は誰もこの学園に来る予定はないよな!?」


 突如物凄い汗をかき焦っているドロウを見て、ユミルは緊急事態だと分かり、先程のヘラヘラした態度を一変させ、アルト達の入学式の時のような真剣な態度に変わる。


「今日はそのような予定はない!あるなら必ず校長先生に言われているはずだ!」


 するとドロウが更に焦った表情になり、ユミルに説明をし出す。


「今この学園に4人の侵入者がいる!しかも全員S級並みの魔力量だ!」


 そう言うとユミルも驚きの表情に変わりドロウに叫ぶ。


「なんだと!?そんなバカな!この学園には結界があるんだぞ!?何故勝手に入れる!?」


(そう、この学園には普段教師とこの学園に通う生徒しか入れないように、特殊な結界が張られている。それが解除されるのは入学試験の時だけ……まさか!?)


 そう言った瞬間、ユミルは理由を察する。


「…………この学園にいるのか?入れた奴が、敵側の人間が」


 そう言うとドロウは神妙に頷く。


「俺もそれが1番可能性が高いと考えている。と言うかほぼそれで間違い無いだろう。ただ俺はそれが誰かわからない……」


 そう言って落ち込むドロウを見て、ユミルは物凄い早さで思考を開始する。


(現状では襲撃者を止めることが先決だが、原因を潰さなければ意味がない。だがこの侵入者達に気づいているのは俺たちだけ……。これを生徒に言えば確実に侵入者にバレてしまい、直ぐに暴れるかもしれない。ただ俺たちだけで動くとしても、4人もS級並みの侵入者がいるから足止めすら出来ない……。くっ、一体どうすれば…………!)


 そこでユミルはふと疑問に思う。


(待てよ……?侵入者に気づいているのは本当に俺たちだけなのか?魔法を使うのを禁止されているのは生徒だけだ。教師は特に禁止されていない……。他の教師は信用できないが、校長先生は信用できるし、校長先生ならもう把握しているかもしれない!)


 そう思ったユミルはドロウに指示を出す。


「ドロウ!今校長先生に繋がる通信魔道具は持っているか!?」


 そう言うとドロウもユミルと同じ考えに至り。


「持っている!繋げればいいんだろ!」


 ユミルはそうだとばかりに頷く。


 それを見たドロウは通信魔道具を発動させ、イリア校長に繋げる。


 するとすぐに繋がり、


「ナイスタイミングだよ、君たち!もう状況は把握したの!?」


 2人は頷く。


「ならユミル君は、私とバナーとリーンと一緒に襲撃者の捕縛に。ドロウは今手引き犯を追いかけているアルト君と合流しなさい!」


 そう言うとドロウが驚きの声をあげる。


「えっ!?アルトが気づいているのですか!?」


「そうよ!と言うか、1番に気づいたのがアルト君で、私たちに指示を出したのもアルト君よ!」


 それを聞いて急にドロウが笑い出す。


「そうかそうか、さすがアルトだ!俺よりも早く気づいただけで無く、手引き犯まで勘付いているとは!それでは校長先生、俺はこのままアルトと合流します!」


 ドロウがそう言うとユミルを見る。


 ユミルは頷くとイリア校長に言う。


「それでは僕は校長先生達と合流します!ドロウ!必ず捕縛しろ!会長命令だ!後輩が頑張っているんだ、此処で何もしないと生徒会長と副会長の名が廃る!しくじるなよ!」


 そう言うとドロウはニヤリと笑い返事する。


「勿論だ!此処らで一発先輩の凄いところを見せてやらないとな!」


 そう言ってユミルとドロウはお互いに笑いながら、密かに行動を開始する。


 それはアルトが向かい始めて5分後のことだった。






♦︎♦︎♦︎






 そんなユミルとドロウの話を聞いていた者たちがいた。


「アルトが危険なところに行ってるって!助けに行かないと!」


「そうね……例えS級並みの相手でも私達と兄さんで戦えば勝てるわ。それじゃあ行きましょう!」


 聞いていたのはアルトの婚約者で恋人でもあるサーシャ王女とユミルの妹のソフィアだ。


 2人は丁度ユミルに会いに行こうとしていたところで例の話を聞いてしまった。


 そうしてサーシャとソフィアも動き出す。


 こうして学園でも最高峰の強者達が、続々と行動を開始し始めた。


 これから殆どの生徒と教師の知らぬところで、学園史上最も大規模な戦闘が始まろうとしていた。



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初めての三人称でしたが、どうだったでしょうか?

今回はドロウとユミルを出せて作者は大満足です。

次回から本格的に襲撃者との対戦です!

お楽しみに!!


 それとこの作品で、☆300&60000PVを突破しました(^O^)/

 この作品を見て下さっている読者の方々には感謝しかありません。

 まだまだ続いていくのでこれからもよろしくお願いします!!


 この作品が面白い!まぁいいんじゃない?ドロウ副会長とユミル会長の活躍が見たい!などと思っていただければ、☆☆☆→★★★にしていただけるとありがたいです!

 また、フォロー、感想、応援コメント、誤字脱字や改善点などを頂けると作者の励みになります。

 ではではまた次話で。

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