第8話 落第勇者、妙な噂を聞きつける
釈然としない初任務の後は取り敢えず解散となり、俺は直ぐに家に戻った。
帰った時に家族にどうしたのかと心配されたが、長年鍛え上げた完璧な作り笑いで安心させた。
その後は少し調べるものがあるからと言って自室に戻った。
そして制服を脱ぐことなくベッドに寝転んだ俺は意味もなく天井を見上げる。
「……一体奴は何をするために金を盗んだんだ?」
俺の頭はその問で一杯だった。
感知したときにも感じていたが、あの【変装】の異能持ちの男に銀行強盗をするほどの度胸はないと思う。
それは直にその男を見て確信した。
だが実際には奴は強盗を行っている。
それなら、あの臆病な男が銀行強盗をしなければならなかった理由が必ずある筈だ。
そしてその者には絶対に逆らえないと理解しているのだろう。
異世界でも誰かが下の者に色々とやらせる……と言う事案は沢山あったそうだし、実際に俺は目にしてきたつもりだ。
圧倒的な暴力の前で一般人ではいかなる精神力を持ってしても断ることは出来ない。
更にそんな奴に自分の弱みを握られているとかになると断ると言う選択肢は一気に消えてしまう。
「ならあの男は何か弱みを握られていたのか?」
だが一体どんな?
まぁそれについては今の俺では分からないが、その内組織が必ず解き明かすだろう。
俺達に捕まりそうになったほんの少し前に殺されそうになっていたのなら、もしかしたら言うかもしれないと信頼されていない証拠であり、何かしらの情報を握っていることを証明している。
「取り敢えず……風呂にでも入るか」
俺はベッドから起き上がり、下の階へと歩を進めた。
☆☆☆
「なあなあ隼人、少し聞いてくれよ!!」
俺が学校に登校した直後。
既に教室に居た将吾が、俺の机にバンと手を置いて突然そんな事を言いだした。
「なんだよ一体。朝っぱらから五月蝿いぞ」
「これが俺のデフォルトなんだよ――ってそんな事はいいからさ、取り敢えず俺の話を聞いてくれよ」
どうやらそんなに俺に話したいらしい。
仕方ない、これ以上拒んだ所でどうせ勝手に話し出しそうだし聞いてやるか。
「それで一体どうしたんだ?」
「出たんだよ!!」
「出た……?」
そんな抽象的な言葉じゃ流石に分からないぞ。
だが少しだけ興味が湧いて来た。
「何が出たんだ?」
「―――不審者だ!」
「不審者?」
俺は今日の登校中にそんな人間を見た記憶はないので首を傾げる。
だが心当たりが無いわけでもない。
……もしかして例の暗殺者を仕向けた組織か何かか?
俺や清華がこの学校に通っているのなんてすぐに分かるだろうし、まさか殺しに来たか?
「お、おい隼人……ど、どうしたんだよ急に」
「……ん? 何が?」
突然俺を見て少し恐怖を目に宿らせる将吾に更に首を傾げる。
しかし直ぐにその感情は消え、何時もの将吾に戻った。
「……いや、何でも無い! そんなことより、俺は更に不審者のことを言いふらしに行くからまたな!!」
「お、おう、またな。……アイツこそ急にどうしたんだ?」
いきなり逃げるようにどこかに行って。
「はぁはぁはぁはぁ……マジでどうしたんだよ隼人の奴……。あんな表情初めてみたぞ……」
将吾は隼人の顔を思い出して再びブルっと震えると同時に少し笑みを浮かべる。
「でも……あんな顔もできるんだなアイツ……」
まるで親の仇でも見ているような表情でさ。
「こりゃあ惚れた女でも出来たかな? いつか必ず弄ってやろ」
そう考えて先程の顔を思い出して再び震える将吾だった。
深く考えない――馬鹿だからかもしれないが、これは立派な生存方法である。
特に――
――自分が敵わないと思ったときは。
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