第7話 落第勇者に平穏はない

 俺たちは優奈さんの号令と共に目的地に向かって移動を始める。

 俺以外の皆は車に乗り、俺は走って目的地に向かう。

 正直俺は走った方が車なんかよりも断然速いし、ショートカットも沢山出来る。

 そう言うつもりで提案したのだが、皆には苦笑されてしまった。


 解せぬ。

 

「【身体強化:Ⅱ】」


 身体を強化して3階建てのマンションに飛び乗る。

 そして目的地の高層マンションを見つけると、真っ直ぐ一直線に移動する。

 よくラノベや漫画で家の屋根を移動する者がいるが、結構移動手段として優秀だ。 


 まぁ最近は……と言うより帰還してからは全く異世界系のラノベは読んでいないが。

 読んでいると違うなと感じてしまい、面白くなくなるからだ。


 まぁそんな話は置いておいて。


 闇雲に屋根に飛び乗っているわけではなく、出来るだけ人の少ない場所を通っているので、少し遅くはなったが車で20分程かかる距離を僅か数分で着かことが出来た。

 皆が来るまで特にすることもないので、一応ターゲットが逃げていないか感知で確認する。

 そしてその瞬間にマンションに突入。

 

「……逃げてはいないが……これはまずいぞ……」


 本来なら俺の勝手な行動は懲罰対象になるのだが、今回はまぁ見逃してくれるだろう。

 俺はもしもの時はこれを見せろと言われて持たされたバッジを受付に見せると、すぐに通して貰えた。

 ここで無駄な時間を浪費しないで済んだのでもしかしたら間に合うかもしれない。


 俺は全力で階段を駆け上がって鍵の掛かっている扉をこじ開けてターゲットの部屋に突入。

 そしてターゲットとその隣でターゲットの首を絞めている人間を一瞬で拘束。


「動くな。これ以上動けばお前を殺す」


 俺は首を絞めていた者に殺気を向けると、ガクガクと震えた後気絶してしまった。

 そして横を見てみると、さっきの余波を浴びたのか、それとも苦しさから解放されたからか涙を流しているターゲットが目に入る。

 こいつは拘束しなくても逃げることはないだろう。


 俺はそう判断して優奈さん達に電話を掛ける。


『もしもし隼人君? もう着いたのですか?』

「すいません優奈さん。今不測の事態で先にターゲットの部屋に突入しました」

『!?』


 電話越しにざわざわとする声が聞こえる。

 皆詳細を知りたそうなので簡潔に説明する。


「先程俺が早く着いたので取り敢えず逃げていないか感知してみたのですが……ターゲットが何者かに首を絞められていましたので、このままでは殺される恐れもあったので突入致しました」

『そう、ですか……分かりました。よくやってくれました。お手柄ですね隼人君!』

「あ、ありがとうございますっ!」


 俺は思わぬ優奈さんのお褒めの言葉に一瞬舞い上がるが、すぐに気を引き締める。

 

 それから10分程経つと、遅れて優奈さん達がやって来て拘束具をしてから組織に戻る。

 その間に皆が褒めてくれるが、俺は知っている。

 俺が突入するために壊したへしゃげた扉を見た時のみんなの顔は能面となっていた事を。

 まぁ矢上先輩は逆にキラキラとした目で「俺もこんなことが出来るようになりてぇ……」とか言って更に他の人達に白い目で見られていたが。


 組織に戻ると、二人はどこかに連れて行かれ、俺たちは再び代表室に移動する。

 代表室には龍童代表のみが座っていた。


「ご苦労だったな。それで早速で悪いのだが……何が起きていたのか詳しく教えてくれないか?」


 俺は代表に何があったのかを説明する。

 説明が終わると代表は背もたれに背を預けて溜息を吐く。


「ターゲットを殺そうとしていた者か……それも私達が来るほんの少し前……。今回は隼人君が早めに着いていたから良かったが……」

「もし俺が車に乗っていたら殺されていたでしょうね」


 今回の事で一つ分かったことがある。


「代表、ターゲットを殺そうとした奴は素人ではありませんでしたよ」

「だろうな……どうやらこの組織の情報が漏れている様だ……。取り敢えず君たちはお疲れ様。また次の任務頼むぞ」

「「「「「はい……」」」」」


 こうして俺の初任務は色々な謎を残して終わった。


 


 

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 新作を投稿しました。

 今作と同じく現代ファンタジーです。

 ぜひ読んでみて下さい。

 

『俺だけ持っている【異世界の記憶】スキルが最強すぎる件〜ダンジョン溢れる現代を、チート知識と数多のスキルで超速レベルアップして無双します〜』

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