第6話 落第勇者、違法異能者を捕まえる
感知によって入ってくる日本中の人間の情報が頭の中で暴れ回る。
この世界は異世界とは人口の規模が違うが、幾ら俺が弱くなったとしても異世界の全てを本気ですれば感知できたのでイケるかと思ったが……
「こ、これはちとマズいぞ……い、意識が……」
優奈さんのために頑張ってはいるが、余りの膨大な情報量に俺の頭がショートし始めたのを感じていた。
そのせいで強制解除させようと体が意識を失おうとしている。
しかしここで止まってはただの痛み損になるし、何よりダサい。
優奈さんにあれ程の啖呵を切っておきながら出来ませんでしたなんてとてもじゃないが言えない。
俺だって人生で初めて出来た好きな人の前では格好つけたいんだ。
俺は歯を食いしばり、拳を血が出るほど握って何とか耐える。
しかし既に五感は勿論のこと、方向感覚すらも分からず、始めは前回無理して一〇kmを感知した時とは次元が違う痛みに襲われていたのに今ではその痛みすら感じない。
なので今自分が歯を食いしばっているのか、拳を握っているのかも分からない。
だが時間が経つ毎に外の情報が無くなっていくので集中力は上がっていく。
もしかしたら今までで一番集中しているかもしれない。
俺は極限状態のまま目的の人物を探していく。
まずは異能者以外を排除。
これがやっと今終わり、1億人だったのが五〇〇万人程に減る。
次はその中からまだ異能を発現させていない者を排除し、更に戦闘系と回復系を外す。
これによって一気に対象者が減り、残り一〇万人程になった。
ここから【変装】のスキルを探す。
……
…………
……………………
………………………………
「―――見つけた」
俺は目をカッと見開く。
【変装】の異能を持っていた人間は全部で二人。
そしてその内の一人がとても特殊な例だが、生まれて数ヶ月の赤ちゃんだった。
どうやら生まれて間もないにも関わらず、異能を発現させたようだ。
と言う事は必然的にもう一人が犯人ということになる。
俺はそれを伝えるために直ぐに立ち上がろうとするが、おかしな事に全く力が入らない。
不思議に思い目線を足元に向けてみると……
「―――!?」
足元に大量の血が溜まっており、もはや殺人現場と見紛う程に滴り落ちている。
急いで自分の体を確認すると、戦闘服が血でびしょびしょになるほど流れていた。
自分でもよく死ななかったなと思わないこともないが、俺の近くでダウンしている数人の異能者を見るに、どうやら必死に回復系の異能を使ってくれていたようだ。
更には隣で俺の手を握りながら目を瞑っている優奈さんが居た。
「ゆ、優奈さん……大丈夫ですか?」
「……隼人君? ―――隼人君!? 大丈夫なのですか、話しても!?」
「はい。この程度で話せなくなる程弱くはなってないんで」
俺は、驚きながらも俺を心配そうに見つめている優奈さんに笑みを浮かべて頷く。
これは決してやせ我慢などではなく、本当に全く問題ない。
まぁ多少血が足りなくてフラフラすることもあるが、こんなの異世界では当たり前だったし、何なら昔は普通に腕一本や足一本は千切られていたので、脳がぶっ壊れていない限りは大丈夫だ。
体の感覚を掴むとゆっくりと立ち上がる。
そして皆が俺を見ている中で口を開く。
「…………取り敢えず風呂入らせてくれません?」
俺のその言葉に否定するものは誰も居なかった。
☆☆☆
全身に付いていた血を洗い流し、服も新品の物に着替えた後で報告をする。
「俺が探知した結果、日本には【変装】の異能持ちが二人おり、その内の一人がまだ生まれて数ヶ月しか経っていないようです。なので俺はもうひとりの方だと……と言うかそいつしか居ないでしょう」
「……だろうな。そもそも血筋が違うのに同じ異能を持っている人間が居る事自体初耳だ」
そう言う龍童代表の言葉で、俺はこの間調べた時に見たサイトでの一文を思い出す。
確かあのサイトの奴は遺伝で同じ異能を受け継いだと書いてあったな。
と言う事は遺伝以外では同じ異能が現れることはないと思われていたんだろうか?
そんな事を考えていると、龍童代表が質問してくる。
「もしかしてその二人は親子か?」
「いえ、詳しく感知してみた結果、家族ではないと感じました」
家族なら気配がそれとなく似ており分かりやすいが、今回の二人の気配は全くの別物だった。
因みに俺と俺の家族は気配の大きさに大小はあれど皆にた気配を纏っている。
「……話がずれましたね、では……続けます。そしてその人間の名前は
「とんだクズ野郎じゃねぇか! 隼人、この屑はとっとととっ捕まえようぜ!」
そう言って意気込む矢上先輩に反対する者はいない。
「では今から任務を達成しに行きましょう! ナビゲートは隼人君に任せてもいいですか?」
「勿論です。お任せ下さい」
「ありがとうございます。皆さん気を引き締めてくださいね!」
「「「「はいっ!!」」」」
皆の意思を確認した優奈さんの号令とともに俺達は動き出した。
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