第3話 落第勇者、S級異能者のチームに入る③

 練習場に着いた俺たちは、早速向かい合っていた。

 俺は制服から組織が俺の為に作ったらしい特注の戦闘服に着替え軽く準備体操を始める。

 相手は三人同時で、みんなそれぞれ違う戦闘服に身を包んでおり、手には武器を持っている。


「お前……武器は? まさか使わないとは言わないよな?」

「流石にそんな事はしません。では……」


 俺は訓練場に立て掛けてある練習用の木刀を取る。

 俺の使っている愛剣と殆ど長さが同じなのでこれが丁度いいだろう。


 何度か振ってみて、極限まで体に合う様に魔力で重さと硬度を高める。

 戦場ならこんな事せずに武器なら何でも使うのだが、これは待ってくれるのでとことん俺の体に合う様に近づけさせてもらおう。


「あいつ……ずっと剣振って何したんだ……?」

「ふむ……我は調節している様に見える。多分本当の武器は出さないつもりだろう」

「……て事は俺たちを舐めていると言うことか……?」


 眼鏡の男――佐原が言った言葉に青筋を立て、今にも襲いかかりそうな三木谷を佐原と最後の1人であり、奇抜な金髪の男――矢上と言うらしい――が必死に抑える。

 その姿を見ていた優奈さんが声を上げた。


「隼人くん! もう始めてもいいですか!?」

「優奈さんが始めたいときには始めてもらって大丈夫です」

「な、ならよーい――始め!!」


 その言葉と共に坊主頭で筋肉ダルマの三木谷が突っ込んできた。

 奴の体は先程よりも一回りほど大きくなっている。

 

「――絶対にぶっ潰す!」

「……【身体強化:Ⅲ】」


 三木谷の武器はバトルアックスで間合いが長いので思ったよりも速い攻撃が来る。

 重そうな武器を片手で軽々と持ち、尚且結構な速さで此方に突っ込んでいるのを見るに、俺と同じ身体強化系の異能だろう。

 しかし――


「――眠たくなるほど遅いな」

「なっ――!? くッッ!!」


 俺は適当にバトルアックスを躱して懐に入り、ガラ空きな腹に木刀の峰で殴打を食らわせる。

 更に後ろに回って背中に蹴りを入れる。

 流石に本気でやると腹に風穴が開くし武器も粉々になってしまうのでそれは避けたが、その後も蹴りを入れたしある程度のダメージにはなるだろう。


 それと後もう一つ。


「お前らチームなら連携攻撃で来いよ。じゃないと何百年経っても俺には勝てないぞ!!」


 わざわざ俺が三人同時に相手をするといった理由はここにある。

 こいつ等の個々の力は弱いが、連携が加われば格上でも十分に倒せる可能性があるのだ。

 と言うか異世界ではある程度の実力がついたらパーティーとの連携の方を強化を優先するくらい重要だ。

 実際に連携をされると戦う側からしても面倒に感じるし、ミス一つで形勢が逆転されたりしてしまうので戦いづらい。


 俺は試す意味も込めて、何のフェイントもせず真っ直ぐ3人の下に駆け出す。

 その速度は三木谷よりも遥かに速く、俺達の距離20mを僅か1秒足らずで縮め、木刀をさは――もう眼鏡でいいや――眼鏡に振り下ろす。

 その瞬間に『ガンッ!』という空間でなにかにぶつかった様な音がすると同時に木刀が止まった。


「よしッ! 動きを止めたぞ! 三木谷と矢上は攻撃を頼む」

「おうよ!!」

「任せて! はぁぁぁぁ!!」


 矢上と三木谷が、俺が動けないと思い込み突っ込んでくる。

 矢上も恐らく身体強化系だな。

 常人よりも明らかに動きが速すぎるし、盾と片手剣を持っているのに高くジャンプが出来るなんて異能でなければありえない。

 だが、この2人は何時でもブッ倒せるから後。

 まずはこっちだ。


 俺は2人から眼鏡を視線を戻し、軽く拳で木刀の隣を殴ってみると、やはりなにかの壁があるかのように一定の場所で止まってしまった。

 更に言えば木刀の刃が結界に刺さっているのか中々抜けない。

 成程な……眼鏡の異能は結界系か。

 確かに足止めにも有効かもしれないが……だがこの程度の強度で俺の攻撃が防げるわけ無いだろ。


「ふんッ!!」

「―――は? グペッ!?」

「ちょ、まっ――グハッ!?」


 俺は剣に力を込めて結界を破壊する。

 そしてそのままの勢いで眼鏡の顔面を木刀で殴打してその反動を利用して、後ろから来ていた三木谷のバトルアックスの柄の部分を真っ二つにした直後に再び顔面を強打。

 それにより三木谷と眼鏡はほぼ同時に宙を舞う。

 しかしそれだけでは終わらない。


 呆然としている矢上は放っておき、宙を舞う2人に回し蹴りを食らわせ地面に叩き落とすと木刀を矢上に投げる。

 それに気付いた矢上は自身の盾を使って器用に木刀を弾き飛ばすと、落ちていく俺に剣を振り上げた。

 これが0.01秒の間に起こっていたなら間違いなく俺に当たっていただろうが、残念ながらコイツラはそこまで速くない。

 

「ほいっと」

「んなッ!? 剣先を足先で弾き飛ばすだとッッ!?」

「驚いている場合じゃないぞ?」

「―――ッッ!?!?」


 矢上の言う通り、俺は剣先を足先で切り飛ばして剣筋を逸し地面に着地。

 着地の時の曲がった足のバネを使って一気に矢上に接近すると顎を蹴り上げる。


 顎は人間の弱点の一つで、掠るだけでも脳震盪で立っていられなくなるため、もろに食らった矢上は言葉を発することなく気絶してしまった。

 これで終わりかな……と思ったその時――


「隙あり―――だッ!!」


  その言葉を俺が聞いた時、既に三木谷がバトルアックスを既に振り下ろす最中だった。

 


 

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