第4話 落第勇者、同志を見つける

 俺にバトルアックスが迫ってくるが———


「この程度で隙をつける訳がないだろ?」

「な———ッッ!?」


 裏拳でバトルアックスの刃を弾き飛ばしてから振り向く。

 そこにはバトルアックスを上に跳ね上がられたためにバンザイをしている様な状態になっている三木谷がいた。

 いつの間にか真っ二つにしたバトルアックスが直っているが、そんなの誤差の範囲だ。

 

 俺は一瞬で接近すると、無防備な三木谷の腹に蹴りを入れ、更に木刀で吹き飛ばす。

 しかし相手は俺と同じく身体能力強化系の使い手。

 この程度でやられる程やわな体はしていないだろう。


「おい三木谷と言ったか? お前俺になんて言ったか覚えているだろう?」

「な、なんだ……?」


 腹を抑えて苦しそうにしている三木谷の顔に近付いてさっき俺に言った事を復唱する。


「『たかが強い異能を持っただけのひよっこ』だって……?」

「そ、それがどうした……たかが強い異能を持っただけだろうが……!」


 この期に及んでまだ言うか。

 こちとらお前らとはやってきた死戦の数が違うんだよ。

 

「お前は……死を覚悟した事が何度ある?」

「な、なんだ突然……そんなものある訳ないだろうがッ!」

「だろうな。だが俺は数え切れないほどに覚悟した。そして何度も死にかけた。……いや一瞬なら何度か死んだかも」

「な、何を……」

「俺のスキルは間違いなく最弱だった。それも圧倒的に。月とスッポンよりも酷かったかもな」


 光輝の【覚醒】と俺の【身体強化】ではもう比べることすら烏滸がましいほど能力に差があった。

 初めから俺は落第勇者で光輝は英雄。

 皆の見る目も気をつけていたんだろうが同情が滲み出ていた。


 でも俺は誰よりも努力した。

 それこそ師匠から不気味に思われる程に努力した。

 何回も何回も格上とばかり戦い、その度に敗北して勝てるまで何度も瀕死になりながらも戦ったのだ。


 そこまでやったにも関わらず異世界最強には遠かった。

 しかし俺は異世界では最も努力したと自負している。

 

 そんな俺に——


「——ただの一度も死線を潜っていないひよっこですらない奴に異能が強いと言われるのは———非常に不快だ。もう二度と言うなよ」

「ちょ、待て! や、やめ————」

 

 俺は三木谷の顔面を『ズドンッ!!』と言う音を立てさせながら地面に叩きつける。

 その際地面が陥没するが、正直この程度で済ました俺を褒めて欲しいくらいだ。

 異世界だったら間違いなくコイツは死んでいただろう。

 ある程度の相手の力量すら分からない奴ら程無能な奴らはいない。

 

「これで終わりでいいですか?」


 俺は既に意識を取り戻している眼鏡と矢上に声をかける。

 2人には手加減して攻撃していたのですぐに目を覚ますと踏んでいた。

 そんな俺の予測通り彼らは既に目を覚ましており、三木谷に視線を固定したまま口を半開きにしている。

 しかし俺の声に反応してこくこくと頷く。


「も、勿論だ。我々の完敗だ。子供だからと舐めていて申し訳なかった!」


 眼鏡がそう言って頭を下げる。

 それに続いて矢上先輩も頭を下げた。


 別に頭を下げて欲しかったわけでは……三木谷には謝ってもらうが。

 アイツは俺を不快にさせたんだから謝って当たり前だ。


 俺は2人の頭を上げさせる。


「先輩方、どうか頭を上げてください。これから同じチームの仲間になるんですからお互い恨みっこなしで行きましょう」

「あ、ああ、そうだな。これからよろしく頼むぞ!」

「期待の新人の登場だな! ……でもどうやってあんなに強くなったんだ? 明らかに異能だけの強さじゃないだろあれは」


 そう言ったのは矢上先輩。

 顎に手を当てて考え込んでいる。

 そんな彼を見ながら俺は少し驚いていた。

 

 まさかそんな事を言われるとは……それも一番目立ってなかった矢上先輩が。

 もしかしたら彼も俺と同じく努力家なのかもしれない。


 だが確かに彼の体は他の2人よりだいぶ傷だらけだ。

 手も血豆が出来ているしゴツゴツとしている。

 

「矢上先輩……今度一緒に修行しましょう」

「なっ!? ど、どうして俺なんだ……?」

「勿論先輩が俺と同じく努力家だと思ったからです。修行は良いものですよね。自分が強くなっていると実感できる」

「そうなんだよ! 皆異能に頼るがやっぱり最後に頼りになるのは己の体と技術なんだよな!」


 この人……物凄く気が合うッ!


「あ、そうだ! 隼人、今からお前の戦い方を教えてくれないか!? 俺は異能は弱いが根性はあるつもりだ! 何度かあの世のばあちゃんに会ったこともある!」

「それは凄い! それじゃあ今から始めましょう! ———優奈さん! これで俺はチームに入れたんですよね!?」

「はいっ! 隼人君は今日から私たちのチームです! ……後で三木谷君には罰を与えないといけませんが」


 俺は優奈さんに声をかける。

 すると優奈さんは俺に笑顔を向けたかと思うと、三木谷を見て今度は黒い笑みを浮かべた。


 そんな優奈さんを見て顔を青ざめさせる2人の姿がとても印象的だった。


 

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