第61話 残酷な答え
「奈津子……何を言ってるの……」
「玲子ちゃん、ふふっ……玲子ちゃんはいつも冷静で、何があっても動じない人なんだって思ってたけど……でも予想外の展開になったら、そんな反応してくれるんだね。年相応って言うか、ちょっとかわいい」
「……奈津子の言ってること、よく分からない……」
「玲子ちゃんはぬばたまだって言ったの。私に
「……」
「そう考えてみたらね、色々と辻褄があったの。亜希ちゃんが死んだあの日、あなたは学校を休んだ。無遅刻無欠席の優等生、しかもクラス委員のあなたが、いくら丸岡くんのことがあったとは言え、クラスが大変な時に学校を休むなんておかしいと思ったの。責任感の強いあなたなら、例え這ってでも学校に来たと思う。
でもあなたは前の日に、亜希ちゃんに電話で休むことを伝えていた。それは玲子ちゃんが、あの日亜希ちゃんが死ぬことを知ってたからじゃないのかな。
いくら仲間の為とは言え、子供の頃からずっと一緒だった親友が死ぬところ、見たくなかった。だから休んだ」
「……」
「丸岡くんの時だって、小太郎の時だって。玲子ちゃんは私の傍にいた。あの時は……巻き込んでしまって申し訳ないと思ってた。でもそうじゃない。あなたは私が筋書通りに動くよう、誘導してたの」
「どうしてそう思ったのかな。私がぬばたまだって、どうしてそんな結論に至ったのかな」
「玲子ちゃんのこと、亜希ちゃんから聞いたよ。玲子ちゃん、昔はかなり問題のある子供だったらしいね。それなのに、ある日を境にして、まるで人が変わったようになった。
目の前でお母さんが亡くなった日から」
「……」
「玲子ちゃん、ずっと病院で寝込んでたんだってね。仕方ないと思う。目の前で、この世界で一番大切なお母さんが死んだ。それも無残な姿で……幼い玲子ちゃんからすれば、これ以上の絶望はなかったと思う。そして……心が壊れるのに、これ以上の悲劇はなかったと思う」
「壊れたよ、心。私はお母さんのこと、本当に大好きだった。そのお母さんが私の目の前で、ただの肉塊になって……あんなのを見て壊れない人なんて、いないと思う」
「気になっていたこと、もう一つあるの。玲子ちゃん、あの事故の前、何かにずっと怯えていたんだってね。何かを気にして、何度も何度も周囲を見回して」
「そこまで話してたんだ。と言うか亜希、気付いてくれてたんだ。やっぱり親友だな」
「玲子ちゃん。あなたは今の私のように、ぬばたまに
誰に話しても信じてくれないし、助けてもくれない。絶望したと思う。だって玲子ちゃんが
そして玲子ちゃんは、お母さんの事故で心を壊された。あの時から玲子ちゃんは、和泉玲子の姿をした別の何かになった」
「すごいね、奈津子。それって、一人で考えたの?」
「以前からずっと気になっていたの。だってここに来てからの災厄に、ほとんどと言っていいほど玲子ちゃんは関わっていたから。友達だから、一緒にいたからだって思いたかった。でも私は、自分に都合のいいように考えることが出来なかった。だって私も……あなたと同じく壊れてるんだから」
「やっぱり奈津子はすごい。私が思っていた以上にね」
「玲子ちゃん」
「こんな出会いじゃなければよかったのに……何度も何度もそう思った。でも私……私たちには、それ以上に大切なことがあったから。
――奈津子の言う通りよ。私はぬばたま」
「……」
玲子の言葉に、奈津子は肩を揺らして息を吐いた。
「……亜希ちゃんが死んだ時も……丸岡くんが死んだ時に流した涙も、あれは全部嘘だったのね」
そう言って玲子を見据える。
「私は……玲子ちゃんのそういうところに憧れていた。どんな命、誰の命に対しても敬意を払うあなたを尊敬してた。私もいつか、あなたのようになりたい……そう思っていた」
「そんな風に思ってくれてたんだね。ありがとう」
「でも違ってた。あなたはそうやって、善人を装って私に近付いた。命がいかに大切かを語り、次の災厄の時に、少しでも私がダメージを受けるように誘導した」
「なるほどね、そう感じたんだ」
「あなたは……私に
ショックだった。亜希ちゃんの時より辛いと言っていいぐらい。私はあなたのこと、本当に大好きだったから……これからもずっと友達でいたい、そう思っていたから……
でも……あなたがしてきたことを、私は許せない」
「どうする? ここで私を殺す?」
「あなたを殺しても何も解決しない。今の話、誰が信じてくれるって言うの? 妖怪に
「確かにそうね。じゃあ奈津子、あなたはこれからどうするつもりなの? あなたが壊れなければ、あなたの周りでまた誰かが犠牲になる。あなたが壊れるその日まで、この災厄は終わらない」
「そうね、そうだと思う。でも、例え壊されるとしても、例え今以上の災厄が起こるとしても、私はあなたたちに屈しない。壊れる最後の一瞬まで、私は抗う」
「……やっぱりあなたは強い。今のような状況に陥ったら、大抵の人はもう壊れてるもの。信じていた世界の
「褒められてるのかな、それって」
「ええ、勿論。そして私は、そんなあなたに敬意を払っている」
「……」
そう言うと、玲子は目を伏せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます