第16話 短刀
「私が怖がれば、犯人が喜ぶ……」
「特殊な人間もおるじゃろう。もしそうであれば、色々と手も打てる。ただの異常者であってほしいとわしも思う。じゃが……どこにいても見られている、そんなことの出来る人間、とてもじゃないが想像出来ん」
「私はね、自分が自意識過剰なのかなって思ったりもしたの」
「それならもっと簡単じゃ。お前の頭を一発張って、『気のせいじゃ。心配せんでもお前のことなんて、他人はそんなに興味ないわい』と言ってしまいじゃからな」
「……おじいちゃんは私の言葉、全部信じてくれるんだね」
「可愛い孫の言葉じゃからな、当然じゃよ。お前は嘘をついてわしらを困らせる、そんな子でもなかろうて。それに嘘なら、どれだけ嬉しいか」
「ありがとう。今のが一番嬉しいよ」
「よく話してくれたな。お前が言ったこと、ばあさんには内緒にしておくから安心するといい。お前もあまり、人に言わんほうがいいだろう。笑われるのがオチじゃからな」
「そうするよ。でもひょっとしたら、亜希ちゃんと玲子ちゃんには話すかも知れない。いいかな」
「お前が決めればいいさ。その年になったんじゃ、自分で決めて、自分で動けばいい。わしはただ、助言するだけじゃ」
「ありがとう、おじいちゃん」
「まあ、そういう訳じゃからな、気をつけるようにするんじゃぞ。本当に
ただの異常者なら……バス停までの道のり、気をつけることじゃな。何ならわしが送り迎えしてやってもいい」
「ありがとう。でも……うん、もう少し頑張ってみるよ。携帯も持ってるし、何かあればすぐおじいちゃんに知らせるから。あと、暗くなる前に帰るようにするよ」
「怖くないか?」
「怖くないと言えば嘘になるけど……今まで、色んなことから逃げて来たの。でもここに来て、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に住むようになって、自分を変えたいって思った。私はここで、新しい自分に生まれ変わりたい。だからおじいちゃん、もう少しだけ私の
「分かった。奈津子がそう決めたんならそれでいい。わしも少し調べてみるとしよう。奈津子を狙っとるのが
「そんなこと、調べられるの?」
「正直分からん。じゃが、何もせずにおるのは性に合わんからな。今度一度、図書館にでも行ってみるさ」
「私も調べてみるよ」
「それとな、お前にこれを渡しておく」
そう言うと、宗一は岩壁に行き、中から何かを取り出して戻って来た。
「
奈津子が、差し出された短刀を恐る恐る受け取る。
「……」
鈍い光を放つ刃には、何かしら不思議な力が宿ってるように思えた。
「護身用に持っておけ。そのサイズなら、鞄の中に入れておいても大丈夫じゃろう。教師に何か言われても、カッターナイフの代わりですとでも言っておけばいい」
確かにそれは、短刀と言うにはかなり小振りだった。これならペーパーナイフだと言っても、通用するかも知れないと思った。
「そうだね、この大きさなら大丈夫だね」
「まあ、
宗一の言葉に、奈津子も思わず笑みを漏らした。
「参加賞って、ふふっ、何よそれ」
「仕方ないじゃろう。わしらのご先祖様なんじゃぞ? そんな大層な働きが出来るとは思えんじゃろうて」
「それにしても……ふふっ、酷いよおじいちゃん。ご先祖様に叱られるよ」
「うはははははははっ、悪い悪い」
宗一の豪快な笑いにつられ、奈津子も笑った。
この人の笑い声を聞いていると、本当に心が落ち着いてくる。私を守ってくれる、そんな思いになれた。
「そろそろ帰るか。ばあさんも待っとるじゃろ」
「うん」
来た時とはまるで違う、晴れやかな気持ちになっていた。
足取りも軽い。
何かが解決した訳ではない。
しかし奈津子の心は、不思議と軽くなっていた。
自分を狙っている何か。
異常者なのか変質者なのか。それとも妖怪なのか。
まだ正体は分からない。
それでも奈津子は今、その何かに立ち向かおう、そう心に強く思っていた。
逃げない。負けない。
そんな決意を胸に、もう一度笑顔を宗一に向けたのだった。
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