#20 何か大きな誤解がある
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アシュラフは自分がふだんの冷静さを保てなくなっていることにいらだっていた。サラのこと、マイケルのこと、ジャネットのこと、どこかで何かが間違っている。そう思ったときジャネットから電話がかかってきて……。
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いったいどこで何を間違ったのか。アシュラフはいらだちを隠せなかった。自分はサラに対して精一杯の誠意をみせようとしたが、それがことごとく裏目に出た。ビジネス上の契約については、とことんまで突き詰めて、決して損にならないよう運ぶ自信がある。しかしこの恋愛に関しては、これまでの経験がまったく役に立っていない。この年になってあれほど感情的になるとは、自分でも信じられないくらいだ。
なぜサラはあの男と結婚する気になどなったのか。ラフィーブに来るまで面識はなかったはずだが……。ここにはいくつかの誤解が重なっている。それを一つ一つときほぐしていくことがまず必要だ。
パーティーのあと、アシュラフは家に戻らず、オフィスでじっと考え続けた。大きな窓の外を見ると、ダウンタウンの夜景が明るく輝いている。美しい光景は発展の証でもある。けれども自分は本当は砂漠の静けさの中で輝く星のほうが好きなのだと、いつも思う。月明かりを浴びて銀色に輝くサラの瞳を忘れることはできない……。
そのとき、デスクの上に置いてあった携帯電話が鳴った。通信ボタンを押すと低い女性の声が聞こえてきた。
「こんばんは、アシュラフ」
「ジャネットか。君はいったい何を考えているんだ」
アシュラフは思わず大きな声を出した。
「あら、何かしら」
「僕と結婚すると言ったそうだな」
「最初に言ったのは私じゃないわ。コリーナがそう思い込んでいたから、否定しなかっただけよ」
「コリーナが?」
「お祝いまで言ってくれたわ。説明するのも面倒だし。振られた同士で慰め合うなんてぞっとしないでしょ」
アシュラフは心の中で舌打ちした。コリーナにはあえて説明はしなかったし、悪意のある女性ではないので心配していなかったのに、こんな爆弾になるとは。
「それからアシュラフ、私はあと二、三日のうちに帰るわ。もうあなたと会うこともないでしょうけど、そうね……ラフィーブの発展を願ってるわ」
それだけ言って、彼女は電話を切ってしまった。サラはコリーナとジャネットの言うことを真に受けて、あんなことを言ったのか。あのマイケルという男がそれに乗じて口説いたのか。もともとサラとは親しげにしていた。彼女は本当にあの男と結婚する気か。自分はこのまま何をせずにいていいのか。
窓辺に歩み寄るとアシュラフは星を見あげ、考えをめぐらせた。
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