第165話 王都へ
ノバック国王陛下と分かれてから、俺はすぐに転移板がある外壁へ向かった。そして王宮に手紙を出して準備を整えてもらい、数分後には転移をする。
簡易の転移場所となっている王宮の一室を出て執務室に向かうと……そこには、忙しそうに動き回る文官の皆とファビアン様たちがいた。陛下と宰相様もちょうどいるみたいだ。
「フィリップ! やっと来たな!」
俺に気づいたファビアン様が、待ちくたびれたという様子で声をかけてくれる。
実は事前に王都へは手紙を出しておいたので、もうこの部屋にいる皆はノバック国王陛下が来たことを知っているのだ。
「お待たせいたしました」
すぐにファビアン様達の下へ向かうと、陛下に声をかけられた。
「ノバック王国の国王が来たというのは本当か?」
「はい。私が話した限りでは本人だと思います。隣国はかなり酷い状況みたいです」
多分俺がフィリップになった初期のこの国と同程度か、それよりも低いレベルだと思う。放っておけば一年は保たないだろう様子だった。
「聞いたことを全て話せ」
「かしこまりました」
それから俺は陛下と宰相様、ファビアン様、マティアスと共にソファーに腰掛け、あの二人から聞いた話をほぼそのまま伝えた。するとその話を聞いた陛下の第一声は、
「ノバック王国に援助をしよう」
そんな力強い言葉だった。俺はその言葉を聞いてほっと安堵して、体に入っていた余計な力が抜ける。
陛下ならそう言ってくれるだろうと思っていたけど、まだこの国も地方は完璧じゃないし少し心配だったのだ。
「かしこまりました」
「しかし陛下、無償というわけにはいきません。なにかしらの見返りがなければ」
「そうだな。ただノバック王国の現状を聞く限り、もらえるようなものはあまりないだろう。となると、国王とも話をするが……鉱山などが妥当だろうな」
「そうですね。それは良い案かと」
陛下と宰相様がそう話し合って、決まったことを次々と紙に書き込んでいく。
「援助はどのような形にいたしますか?」
「まずは食料支援だろうな。それから魔物討伐のために騎士団を貸し出し、魔法陣魔法に関する情報を伝える」
「……そこまでするのですか?」
「ああ、これが最低限だろう。例えば食料支援だけをしたところで、結局は魔物をどうにかしなければ根本的な解決にはならないのだから意味がない。できる限り早い段階で援助がなくても国が機能するようにしなければ、この先ずっと我が国が援助をしなければいけなくなる」
「……仰るとおりですね。かしこまりました。では食料の融通と騎士団派遣、さらには魔法陣魔法の伝達ですね」
宰相様は紙に書いたその三つの援助内容をじっと見つめ、ペンで魔法陣魔法の部分を軽く叩いた。
「ここが一番難しいでしょう。騎士達に伝達させるのも良いですが……正確に伝わるかどうかは疑問が残るかと」
確かにそうだよな。魔法陣魔法が使えるからと言って人に教えられるとは限らない。
「陛下、実現できるか分かりませんが、魔法陣魔法を学ぶために一部のノバック王国の人間に、我が国の学校へ通ってもらうというのはどうでしょうか?」
陛下と宰相様が悩んでるのを見てそう発言すると、陛下は顎に手を当てて考え込んでから何度か頷いてくれた。
「……ふむ、確かにそれは考慮すべき意見だな。二国間の交流という面でも良いだろう」
「素晴らしい意見ですね。ノバック王国側に提案しましょう」
それからも俺たちは援助の方針を話し合い、さらにはどんな鉱山をもらうのか、他に見返りを求めるのかについてなども話し合い、とりあえず意見はまとまった。
「ではもう時間が遅くなってしまったので、明日の午前中にノバック国王陛下と騎士ダビドをお連れします」
「ああ、頼んだぞ」
公爵領に戻って明日の予定を二人に伝えた俺は、動き回って疲れたので早めにベッドへと横になった。
そして疲れを癒して次の日の朝。さっそくノバック国王陛下とダビドを連れて外壁に来ている。
「王都には転移板という、対になっている板に一瞬で移動することができる魔道具で向かいます。転移は初めての方は気分が悪くなると思うのですが、少し休めば回復しますので、あまり怖がらずに転移をお願いいたします」
俺のその説明に頷きながらも不思議そうな表情で転移板が設置された部屋に入った二人は、魔法陣が描かれた転移板を見て瞳を見開いた。
「なんだか不思議な模様が、たくさん描かれていますね」
「これが魔法陣です。靴を脱いで板に乗ってください。魔力を注いで数秒後には王都に転移します。すぐに私も後を追いますので、向こうにいる文官の指示に従ってください」
「……かしこまりました」
二人は俺の言葉を聞いて、緊張の面持ちで靴を脱いだ。俺は二人が転移板の上に載ったのを確認して、兵士に魔力を注ぐように頼む。
そして兵士が魔力を注ぎ始めて数秒後……転移板の上が光り輝いて、二人の姿がふっと消えた。転移成功だ。
二人の転移を見送った数分後に俺も王都に転移すると、二人は休憩室のソファーでぐったりとしていた。やっぱり最初の転移はかなり酔うみたいだ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……なんとか」
「私は大丈……うっ」
ダビドさんがソファーから立ち上がってハキハキと話し始めたと思ったら、すぐに口を押さえてうずくまってしまった。
「無理はしないでください。数十分はここで休んでもらって構いませんので。気分がスッキリするお茶をお出ししますね」
それから二人の体調が回復したのを確認して、俺は二人を連れて執務室近くの応接室に向かった。その応接室が今回の話し合いが行われる場所だ。
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