第166話 話し合い
応接室の前に着いて一度大きく深呼吸をしたら、ニルスにドアをノックしてもらい、大きく声を張った。
「ノバック国王陛下並びに、騎士ダビドを連れて参りました」
「入れ」
中から陛下の重厚な声が聞こえてきたのでニルスに合図をすると、ニルスはゆっくりと扉を開けた。
すると奥にあるソファーに陛下が腰掛け、その斜め後ろに宰相様がいるのが見える。壁際に並ぶのはファビアン様とマティアスだ。
俺は陛下の向かいに置かれたソファーの近くまで歩みを進め、二人をもう一度紹介した。
「こちら、ノバック国王陛下ならびに騎士ダビドでございます」
「ご尊顔を拝する栄誉を賜り、誠に光栄でございます。ノバック王国が国王、エドゥアール・ノバックでございます」
「私はラスカリナ王国国王、ルーウェン・ラスカリナだ。此度はお会いできて光栄だ」
それから何度か長ったらしい挨拶が繰り返され、やっと二人がソファーに腰掛けたところで、俺はファビアン様とマティアスの隣に並んだ。
それにしても滅亡寸前の国で、こういう礼儀作法はよく残ってたよな。というか本当なら対等なはずの国王同士なのに、ノバック国王陛下の腰が凄く低い。
俺に対してもこんな感じだったし、国の現状と救援を願う立場を考えたら仕方がないのかな……
「して、今回は我が国へ救援を願いに来られたのだとか」
「はい。我が国は魔物の被害や作物の不作、水不足などで滅亡の危機に瀕しておりまして、ぜひ国民を助けていただけないかと懇願に参った次第でございます。どうか、どうか我が国をお助けください……!」
「顔を上げてくれ。ラスカリナ王国としては、出来る限りの援助をしたいと思っている」
「ほ、本当ですか……!?」
陛下が発した援助をするという言葉に、ノバック国王陛下は分かりやすく顔を輝かせた。ポーカーフェイスを保てないほどに嬉しいことなのだろう。
さっきも自分を救って欲しいというよりも国民を救って欲しいと言っていたし、この人は良い国王なんだろうな。
「ああ、しかし我が国にもそこまでの余裕があるわけではない。どこまで助けられるかは分からないが、そこは受け入れてもらえると嬉しい」
「……もちろんでございます。少しでも多くの国民が助かるという事実だけで、とてもありがたいことです」
「ではさっそく援助の内容を話し合おう。……そうだ、その前に援助の対価の話をしておきたい。国家間のことだ、これから先で他国からも要望がある可能性を考えると、無償というわけにはいかない。そこで我が国としては貴国の鉱山などをもらえればと考えているのだが、どうだろうか」
援助の対価という言葉に表情を固くしたノバック国王陛下だったけど、鉱山を求めるという話を聞いて表情をまた緩めた。支払える対価であったことに安堵したのだろう。
「かしこまりました。現状我が国が持っているものは少ないですが、対価として差し出せるものがあるならば喜んで差し出させてただきます。鉱山は近年管理もできておりませんが、それでも良いでしょうか?」
「ああ、そこはこちらで引き受けよう。古い文献によると我が国とノバック王国との間にある山脈の一部に、多くの鉱石が眠っているとのことらしいが心当たりはあるか?」
陛下のその質問に、ノバック国王陛下は難しい表情で考え込んだ。
「確か……古い記録を読み返していた時に、鉱山として採掘をしていたという記録が残っていたと思います。確か二ヶ所ほどあったかと」
「ほう。ではそこをいただきたい。もしその場所に鉱山が見つからなければ、別の場所に変更できる契約としたいのだが良いだろうか?」
「もちろんでございます」
ノバック国王陛下が頷いたのを確認して、宰相様がさっそく後ろで書類の作成を始めた。この後すぐに契約を交わすのだろう。
「受け入れていただき感謝する。では本題の援助のことだが、まずは騎士団の大隊を一つノバック王国に派遣するつもりだ。大隊は小隊が十個集まったもので、騎士が百名ほどになる。その騎士達が食料や魔道具を運び入れ、貴国で魔物討伐も行う予定だ」
「……騎士を百名も! さらに食料と魔道具までいただけるのですか!?」
「ああ、とりあえずの応急処置だ。その対策で国が少しでも建て直れば、そこからは知識の伝達をしようと思っている。具体的には魔法陣魔法を使える者の育成と、魔道具師の育成だな。しかしそれは騎士達が行うにも限度があるので、貴国から我が国へ、留学という形で人材を送ってもらいたい。その者たちに我が国の学校で学んでもらい、貴国における魔法陣魔法と魔道具の技術革新、伝播の役割を果たしてもらいたいと思っている」
陛下がそこまで話し終えたところで、ノバック国王陛下は感動で瞳を潤ませながら深く、それはもう地面に額がつくんじゃないかというほどに深く頭を下げた。
ノバック王国にしてみたら信じられないほどの厚遇だもんな……でもこんなに謙らなくても良いのに。そのうち対等に話ができるぐらい、ノバック王国も発展したら良いな。
この世界に蔓延る魔物に対抗するためには、同じ人間の仲間は多い方が良い。
「具体的な日程だが、準備はできる限り早くに終わらせるつもりだ。三日から五日後には出発と考えていて欲しい。貴殿らも騎士達と共に帰還するので良いだろうか?」
「もちろんでございます。素早い対応、ノバック王国を代表して感謝申し上げます」
それからはノバック王国内の様子など細かい情報を共有してもらい、それを元にノバック王国での騎士達の動きについて話し合い、二国間の会談は終わりとなった。
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