第151話 領地の案内とコメ料理

 ハイナーによって運ばれてきたコメ料理は出来立てのようで、熱々の湯気を立てながら食堂中に芳しい香りを振り撒いた。


「美味しそうな香りがする!」

「トマソースの匂いです!」


 マルガレーテとローベルトは大興奮だ。ティナと母上も興味を惹かれているのか、ワゴンの方に視線を向けている。


「お待たせいたしました。本日のご昼食はコメのトマソース煮と炒め飯。さらにコメ本来の味を感じて欲しいとのフィリップ様の要望により、少量の水で炊いた味付け前のコメとそれに塩をかけたものでございます。さらにコメに合うステーキも焼かせていただきました」


 そんな説明の後に、俺達の前にはとても華やかな食事が並べられていく。俺はこの前食べたんだけど、やっぱり何度見ても感動するな。コメだけじゃなくて、ここまで豪華な食事が並ぶことに対しても感動だ。


「とっても美味しそう!」

「お兄様、この粒々しているものがコメですか?」

「そうだよ。その白いやつが、味をつけてない炊いただけのコメなんだ。まずはそれから食べてみて欲しい」

「分かりました!」


 二人の様子を見て父上がすぐに食前の祈りを口にして、全員でティータビア様に祈りを捧げたらさっそく食事開始だ。


「まあ、とっても美味しいわ」

「本当ですね……パンよりも甘味が強くて好きかもしれません」

「そうね。食感もとても好きよ」


 母上とティナには好評みたいだ。その事実に安堵しつつ弟妹二人に視線を向けると……心配するまでもなく、二人とも瞳を輝かせて次から次へとコメ料理を口に運んでいた。


「こちらのコメをライストナー公爵領の特産品にしてはどうかと思っているのですか、いかがでしょうか?」

「私は賛成よ。これは国中に広げるべき味だわ」

「私もこちらのコメが王都で食べられるようになるのは、とても嬉しいです」

「僕も! 皆が美味しいものを食べられるようになるのは良いと思います……!」

「私も賛成です!」


 満場一致で賛成みたいだ。俺はコメが皆に気に入られて嬉しくて、頬がゆるゆると緩んでしまう。


「では領地で大量生産できるように体制を整えます」

「ああ、フィリップ頼んだぞ」

「任せてください」


 それから難しい話はなしにして、皆でとにかく美味しいコメ料理を堪能した。そして食後に少し休みをとって、次は皆に領地を案内する時間だ。


「まずは公爵邸の敷地内ですが、こちらで新たな作物を育ててもらっています。ここで上手く育ったものは、領民にも順次種や苗を渡していく予定です」

「これがコメですか?」

「うん。コメになる前の段階でイネだよ」

「ムギに似ていますね」


 ティナは楽しげな瞳でイネに手を伸ばす。孤児院で畑仕事もやっているから、やっぱり作物のことは気になるのだろう。


「これが美味しいご飯になるなんて凄いです!」

「お兄様、イネは王都では育たないのですか?」

「うーん、どうだろう。多分育つとは思うんだけど、こちらの方が気候が適してるから美味しいコメになると思う」

「そうなのですね」


 ただイネに何よりも必要なのは湿度と雨の量だと思うから、それを降雨器で補えば育たないことはないだろう。でもやっぱり夜の寒さは王都の方がかなり冷え込むし、その辺で難易度は上がりそうだ。

 夜の寒さを越えられないのなら、育てるのは無理だからな……前世では温度を管理した温室なんてものもあったけど、この国ではさすがにそこまでの贅沢はできない。


「領民はまだコメの存在を知らないの?」

「はい。まだ屋敷で食べているだけでお披露目していません。今度領民に広く振る舞えるほどのコメが貯まったら、これからの特産品だと皆に食べてもらおうと思っています」

「皆は喜ぶでしょうね」

「そうだと良いのですが……」


 皆が喜んで率先して作ってくれないと、計画はすぐに頓挫してしまう。皆にコメの素晴らしさを伝えるのも俺の役目だろう。


「兄上、屋敷の外に行きましょう!」

「そうだね。ローベルト、そんなに急がなくても時間はあるよ」

「はい!」


 ローベルトは新しい街を見て回るのがよほど楽しみらしく、ニコニコとした満面の笑みで、スキップでもしそうな足取りで先頭を歩いていく。


 そうして歩くこと数分、俺達は最初の領民に出会った。最初に会ったのは活発そうな三十代ぐらいのおじさんだ。仕事の途中みたいで、農機具を担いでいる。


「こりゃあ凄い人達に会っちまったな! 領主様にフィリップ様、奥方様と……マルガレーテ様にローベルト様だったか?」

「僕の名前を知ってるの?」

「おう、そりゃあ領主様のご家族だからな。俺達の生活が豊かなのは領主様のおかげだ」


 ローベルトはおじさんのその言葉が嬉しかったようで、ニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべておじさんの下に駆け寄った。ローベルトの護衛はハラハラと緊張してそうだ。


「おじさんありがとう! 僕はローベルトだよ、よろしくね!」

「こちらこそよろしくな。こんなに賢いご子息様がいるならこの領地は安泰だな〜」

「ははっ、私の子供達は皆優秀だからな」


 おじさんの言葉に父上がそう言葉を返したところで、俺達の騒ぎに気付いたのか他の領民も集まってくる。気づいたら周りにはかなりの人だかりだ。


「皆、私の家族だ。妻のヴィクトリアに息子のフィリップとローベルト、そして娘のマルガレーテだ。さらにフィリップの客人であるティナも来ている。これからは皆のこともよろしく頼むぞ」


 皆はティナが紹介されたところで歓声を大きくして、俺達に優しい声をかけてくれた。本当にこの街は良い人達ばかりだよな……さすが父上が治める街だ。


 それからは領民が俺達のことを案内してくれることになり、畑や市場さらには皆が住む家を回って見学して、有意義な一時を過ごして屋敷に戻った。

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