第150話 皆を紹介
父上に連れられて向かったのは、兵士が休憩時間を過ごす広い休憩室だった。その一角に母上とティナがぐったりと座っていて、ローベルトとマルガレーテはもうかなり回復しているみたいだ。
部屋の端で居心地悪そうにしている兵士達がたくさんいるな……気を使わせてごめん。ヤニックが兵士達をまとめてくれてるから、なんとか大丈夫だろう。
「母上、ティナ、大丈夫ですか?」
「……ええ、思っていたよりも気分が悪くなるわね」
「申し訳ありません……もう少し休んでいても構いませんでしょうか?」
「何回か転移を経験すれば慣れると思います。ティナ、もちろん体調が回復するまで休んでいて良いよ」
俺のその言葉を聞いたティナは、僅かに笑みを浮かべてからまた瞳を閉じた。
「ローベルトとマルガレーテは大丈夫?」
「はい! もう元気になりました!」
「少し目が回りましたが、すぐに治りました」
子供の方が回復が早いのかな。もしかして……背の高さとかは関係あるのだろうか。今度検証してみても面白いかもしれない。
そういえばうっすらとした記憶だけど、最初の転移は座った状態のほうが良いって話を前世で聞いたような聞いてないような……
「兄上、ここはどこですか?」
「ここは外壁の中だよ。領地を守ってくれている私兵団の皆がいるんだ」
「私兵団!」
「そう。あそこにいるのがヤニック。私兵団の団長だよ」
そう言って俺がヤニックを示すと、ヤニックはすぐにこちらに寄ってきて正式な礼をした。
「お初にお目にかかります。私兵団の団長を務めさせていただいております、ヤニックと申します」
「僕はライストナー公爵家が次男、ローベルト・ライストナーです!」
「私はマルガレーテ・ライストナーです」
おおっ、二人とも挨拶は完璧だ。俺は兄バカを発揮して、二人に優しい笑みを向けて偉いと頭を撫でた。すると二人とも嬉しそうに顔を緩めてくれるから、めちゃくちゃ可愛い。
本当にうちの弟妹は最高だよな……これ以上に可愛い弟妹はいないと思う。
「フィリップ、マルガレーテ、ローベルト、そろそろ屋敷に向かうぞ」
「かしこまりました」
父上に声を掛けられて振り返ると、母上とティナはやっと復活したようだ。そこまで顔色も悪くなく、ソファーから立ち上がっている。これなら馬車に乗っても問題ないかな。
人数が多いので馬車には俺達だけが乗ることになり、メイドや従者、護衛は歩いて馬車の後ろを付いてくることになった。
俺達の馬車が街中を通ると、領民は足を止めてこちらに手を振ってくれる。そんな領民にローベルトとマルガレーテは嬉しそうに手を振りかえしている。
「まあまあ、とてもお可愛らしいこと!」
「フィリップ様のご兄弟かしら」
「そうだろ。フィリップ様に似て賢そうな方達だな」
そんな話し声が馬車の中にまで聞こえてくる。二人も好意的に受け入れられてるようで良かったな。母上は窓から顔を出してないので、存在に気づいてる人はまだいないみたいだ。それにティナのことも。
ティナはまだ俺の婚約者って正式に発表していないから客人って紹介になるけど、ほとんどの人が俺の将来の婚約者だと思うだろう。ティナが皆に受け入れられたら良いな……ライストナー公爵家は継がないんだけど、やっぱりこれからも深く関わっていくだろうから。
「そろそろ屋敷が見えてくるぞ。あれが領地の公爵邸だ」
「うわぁ、大きいね!」
「庭が広いですね!」
父上の声に二人がはしゃいで声を上げている間に、馬車は屋敷の前に着いていた。屋敷の前には使用人がずらっと並んで頭を下げてくれている。
「皆の者、紹介しよう。私の妻のヴィクトリアだ」
「ヴィクトリア・ライストナーよ。皆と会えてとても嬉しいわ。これからよろしくね」
母上のそんなふんわりとした挨拶に、皆が緊張に強張っていた頬を緩めて声をそろえる。
「よろしくお願いいたします」
それからも俺達の方から簡単な挨拶をして、最後に領地側の人間として家令のクレマンを父上が紹介して、俺達は屋敷の中に入ることになった。
屋敷の中は王都とそれほど変わりはないからか、特別な驚きもなく皆が客室に案内されていく。
「では皆、一時間後には食堂で昼食だ。それまではゆっくりと過ごしてほしい」
「分かりました!」
「屋敷を見て回ります!」
父上が皆にかけた言葉にローベルトとマルガレーテが嬉しそうに反応して、皆が二人の様子に和んだところでそれぞれの部屋に入った。
そしてそれからはのんびりとしたひと時を過ごし、すぐに一時間後だ。俺は少し早めに食堂に向かうと、既にティナが席に着いていた。
「ティナ、疲れは取れた? もう気分は悪くない?」
「はい。おかげさまで完全に回復いたしました。気にかけてくださり、ありがとうございます」
「それなら良かった。昼食でコメ料理が出てくるだろうから楽しんでね」
「とても楽しみにしております。先ほどからトマソースの良い香りが漂ってきていて、お腹が空いてきました」
そう言って照れくさそうに笑ったティナは、めちゃくちゃ可愛い。この笑顔を絵師に描いてもらいたいほどだ。
「あら、もう来ていたのね」
「母上、体調は回復しましたか?」
「もちろんよ。アルベルトと久しぶりにゆっくりと過ごせて楽しかったわ」
「それは良かったです」
二人でお茶でもしていたようで、父上にエスコートされて席に着いた母上は明るい笑みを浮かべている。そしてそうこうしているうちにマルガレーテとローベルトも食堂にやってきて、全員が揃った。
ここからはコメ料理の実食だ。皆に気に入ってもらえたら嬉しいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます