第149話 領地へ帰還
ファビアン様とマティアスと話し合いをした次の日。俺は公爵家の屋敷でティナを出迎えていた。
「フィリップ様、おはようございます」
「ティナ、おはよう。緊張してる?」
「そうですね……少しだけ。ただ転移に対する期待感のほうが大きいです」
そんな話をしながら向かったのは、もちろん転移板が設置されている部屋だ。ティナの到着を屋敷の使用人が母上達に知らせに行ったので、三人も支度を整えているだろう。
「昨日の話し合いはいかがでしたか?」
「問題なく終わったよ。これからは王都と領地で、さらに領地間でもそれぞれの特産品を交易していくことになったんだ」
「それはとても素敵ですね」
そう言って微笑んでくれたティナの笑顔を見ていると、さらにやる気が湧いてくる。ティナにもっと美味しい食事を楽しんでもらうためにも頑張ろう。まずはどこかで砂糖の原料を見つけたいな。砂糖を使った甘くて美味しいクッキーを食べさせてあげたい。
「あっ、ティナお姉様! お久しぶりです!」
俺達が廊下を歩いていたら向こうから家族三人がやってきて、俺達に気づいたマルガレーテが嬉しそうに声を上げた。そして最近のマルガレーテにしては珍しくはしゃいでいて、俺達のというよりもティナの下に駆け寄ってくる。
「マルガレーテ様、お久しぶりです。本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。お姉様と一緒に領地へ行けて嬉しいです!」
ティナはうちの屋敷に何度も来ているので、もう家族皆と仲良くなっているけれど、その中でも特にマルガレーテと仲が良いのだ。将来的には義姉妹になるのだから、こうして仲良くしてくれるのはとても安心するしありがたい。
「兄上、もう領地に行くのですか!」
「うん。全員集まったし行くつもりだよ」
「楽しみです!」
ローベルトはそう言うと、キリッとカッコいい表情を浮かべて騎士達がよくする敬礼をした。ローベルトは最近騎士ごっこにハマっているのだ。本当に素直で可愛くて良い子だよなぁ。
そんなローベルトの様子を見て、この場にいる全員が頬を緩めている。ローベルトとマルガレーテのおかげで、うちの屋敷はいつでも和やかな良い雰囲気だ。
「では皆、行きましょうか」
「はい、母上。父上も待っておられると思います」
ティナが来る前に手紙を送ったら、すでに受け入れ準備はできていると返信が来たのだ。父上も母上が来ることをかなり楽しみにしてるんだろうな。
今までは馬車でリスク覚悟で行くしかなかったから、母上は領地に行ったことがないらしいのだ。
それからティナが皆と改めて挨拶をして、俺達は転移板がある部屋に入った。中にいる警備の騎士には端によけてもらい、俺達が転移板の近くに集まる。
「これが転移板なのですね……予想以上に複雑で、これを間違えることなく描き切ったフィリップ様が素晴らしいです」
「……ありがと」
俺は突然のティナからの賞賛に照れてしまい、上手い言葉を返すことができなかった。そんな俺の様子をマルガレーテがニコニコな笑顔で見上げてくるからより恥ずかしい。
マルガレーテは最近、男女の機微がわかるようになってるんだよな……成長は嬉しいことだけど、俺がティナと会う時の恥ずかしさは増した。
「転移板の上には靴で乗ると劣化が早くなっちゃうから、靴を脱いで乗って欲しいんだ。靴も一緒に転移させられるように手に持って欲しい」
微妙な雰囲気を変えるためにさっそく転移板の説明をすると、ローベルトが瞳を輝かせて靴を脱いだ。そして転移板の上でカッコよく敬礼して見せる。
「準備完了です!」
ローベルト、本当にありがとう。これからは母上とマルガレーテしかいないところにティナを連れてきたら、俺がひたすら居心地の悪い思いをすることになりそうだ。
……できる限りローベルトを同席させよう。ローベルト、付き合わせてごめん。
「じゃあまずはローベルトから転移しようか。ローベルトの従者と護衛も上に乗ってくれる?」
「かしこまりました」
三人が転移板の上に並び、魔力を注ぐのは王宮から見学に来ている魔道具工房の皆や、魔法陣魔法を扱う騎士や文官だ。今回の転移に際して、立候補した人達から俺が選んで十人ほどが見学に来ている。
「では魔力を注ぎます」
「お願いします!」
ローベルトの元気いっぱいなそんな声が聞こえ、転移板が光り始め……ピカッと強く光ったその後に、ローベルト達はもういなかった。
「いなくなったわね……大丈夫、なのかしら?」
「手紙で確認してみましょう」
準備しておいた手紙を領地に送ると、すぐに返事が返ってきた。それによるとローベルトは無事に転移していて、少し転移酔いに苦しんでる程度だそうだ。
「ちゃんと成功したのね。良かったわ」
「じゃあ次はマルガレーテ、転移をしようか」
「はい、お兄様!」
それからマルガレーテ、母上、ティナの順に転移は成功し、最後に俺がニルスとフレディと共に転移をした。
転移をして少しだけ気持ち悪さを感じながらもゆっくりと瞳を開くと……目の前には父上が待ってくれていた。
「お待たせいたしました。皆は無事に転移できたでしょうか?」
「ああ、無事に全員転移は成功している。しかし気分が悪くなってしまい、近くの休憩室で休んでいるところだ。転移部屋の近くには休憩室も必須だな」
「確かにそうでしたね……気付きませんでした」
転移酔いは数回でかなり慣れるとしても、転移前に準備が整うまで待機してもらう部屋もあった方が良いな。次に王都に戻ったら、王宮の敷地内に作る連絡棟には休憩所を作るようにお願いしよう。
「ではフィリップ、皆のところへ向かおうか」
「かしこまりました」
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