第148話 他領への派遣と交易

 次の日の朝。

 俺はいつもより少し早い時間に王宮へ向かった。そして畑に寄り道せず執務室に入ると、昨日のうちに帰ってきたことは伝えておいたからか、ファビアン様とマティアスが俺のことを待ってくれていた。


「フィリップ、おはよう。無事で何よりだ」

「おかえり。転移板は本当に凄いね」

「ファビアン様、おはようございます。ただいま戻りました。マティアスもただいま」


 二人に軽く挨拶をして、執務室のソファーに腰掛ける。


「領地はどうだった?」

「とても良いところでした。長閑で人々は温かくて、王都とはまた違った雰囲気を感じることができました。そして……領都周辺の森から、新たな作物を探し出すことに成功しました」

「おおっ、それは朗報だ」


 二人は嬉しそうに頬を緩め、少しだけソファーから身を乗り出した。


「どんな作物があったの?」

「色々あったんだけど、まずは何においてもこれ!」


 マティアスの質問に、俺がテンションを上げながら空間石から取り出したのは……もちろんイネだ。さらにコメの状態にしたものも少し持ってきてある。


「ムギのような植物だな」

「はい。ムギの代わりになる主食となる穀物です」

「それって、もしかしてコメ?」

「そう! ついに見つけられました!」


 ファビアン様とマティアスは、俺が机の上に並べたイネとコメを色んな角度から眺め、時には手にとって観察している。


「こちらがイネで、その外皮などを取り除いたものがコメです。このコメを水で炊いたり煮たりして食べます」

「ふむ、味が気になるな」

「今日はあまり量がなくて食べていただけませんが、次回の帰還時にはたくさん持ってきますので、食堂で試食をしていただけると思います」


 食堂の料理長に、トマや炒め飯に最適な野菜を確保しておくように頼んでおこうかな。トマソースで煮込むのが一番美味しいから、トマがなかったらコメの魅力を伝え切れないことになってしまう。


「では次回を楽しみにしていよう」

「そうしてください」


 それからも俺は、今回の領地探索で発見したものを二人に説明していった。そして一通り話を終えたところで、本題に入るために居住まいを正す。


「それでファビアン様、マティアス、今説明した作物を領地で大量に生産して、王都と大規模に交易をしたいと思っています。さらに他の領地でもライストナー公爵領と同じように、特産品となるような新たな作物を見つけて、そことの交易も活発にしたいです」


 俺のその言葉を聞いて、二人は新たな作物と美味しい食事の話で緩めていた頬を引き締めた。


「交易か。フィリップが以前から言っていたな」

「はい。その土地ごとに育ちやすいものがありますから、それぞれの領地がそれに特化したものを作って交易した方が、国は発展していくのです。さらに様々なものが出回るようになり、生活がより豊かになります」


 交易をするようになったら今よりもお金が循環するようになって、もっと王家にもお金が入ってくるだろう。そうすればまたそのお金で様々な施策ができて、より国が富んでいく。


 ――やっとこの国も好循環に入ったな。


 ひたすら悪いことばかりの悪循環から、よくここまで来れたと思う。自分で自分を褒めたいよ。


「確かに今なら余裕もあるし、やろうと思えばできるね。ファビアン様、どうですか?」

「ああ、私も賛成だ。交易はどのようにやるのだ? 馬車をたくさん作って運ぶのか?」

「いえ、転移板でやる予定です。なので魔鉱石の発掘にも力を入れたいです」


 今はとにかく鉄の発掘に人員を割いてるけど、それを少し減らしてでも大きな魔鉱石が欲しい。鉄はかなり集まってるみたいだし、少しはペースが落ちても大丈夫だろう。


「他領にパトリスとヴィッテ部隊長以下数名を派遣し、新たな作物など特産品となるものを見つけてもらいます。そして見つかった領地ではそれを大量生産することに力を入れてもらい、交易のための転移板と連絡をするための小さな転移板の最低二個は設置してもらう予定です」


 これは貴族にとっても儲かる話だし、拒否するような人はいないだろう。それどころか転移板は高額でも喜んで買ってくれるはずだ。


 ――最初だし値段には色を付けようかな。いろいろな政策をするには、お金はいくらでも欲しいのだ。


「それは良いな。各地と連絡を密に取れるのは王家としてもありがたい」

「各地と繋がる転移板を設置する建物を、新しく王宮内に建てた方が良いかもしれませんね。一ヶ所にまとめれば警備を強化することも容易ですし」

「確かにありだな。その方向で話を進めるか」


 マティアスの提案にファビアン様がすぐに頷き、マティアスが色々と書き込んでいる用紙に各地との連絡棟の建設と書かれた。それを作るのなら、公爵家にある転移板も移動させたいな。


「領地への派遣はどのような順にするのだ?」

「私は立候補制が良いかなと思っていまして、立候補をした領地から後は立地も考えて私達で決めれば良いかと」

「確かにそうだな。では話をまとめると、まずやるべきことはライストナー公爵領と王都間での交易、それから魔鉱石の採掘、そして貴族への伝達だな」


 そうだな。まずはその辺から手をつけ始めて、魔鉱石がたくさん採れて転移板が量産できるようになり、どの領地から探索をするか決まったら、パトリスとヴィッテ部隊長を派遣しよう。

 そしてそれによって新たな作物や魔物などが見つかれば、それを他領や王都と交易できるように整える。これからはまた忙しくなるな。


「フィリップは公爵領で作物の生産体制を整え、交易が上手くできるようにしてくれ。マティアスには魔鉱石の採掘を頼みたい。私は他の貴族への伝達を担当しよう」

「かしこまりました」

「しっかりと務めます」


 そうして最後にこれからやるべきことを決めて、俺達の話し合いは終わりとなった。これからは国が一気に発展していくだろう。食文化ももっと豊かになるはずだ。これからの国の未来が楽しみだな。

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