第147話 ティナとのお茶会
皆でお昼ご飯を食べてから、馬車に乗ってカルフォン伯爵家の屋敷に向かっている。もう何度も向かっているので通い慣れた道だ。
屋敷の門前に到着すると、先触れを出していたので門番は軽い確認だけで俺達を中に入れてくれた。
敷地内を馬車で進んでいき屋敷の前に着くと、そこにはティナが出迎えに出てくれていた。
「ティナ、出迎えありがとう」
「フィリップ様、ご無事のご帰還を嬉しく思います」
そう言って浮かべたティナの笑顔にめちゃくちゃ癒される。やっぱりティナに会えると違うな……疲れが癒えて体が軽くなった気がする。
「俺もティナに会えて嬉しいよ」
「ふふっ。どうぞ中にお入りください。フィリップ様のために料理人がサツモのクッキーを焼いています」
「おおっ、それは楽しみだよ」
屋敷の中に入ると伯爵夫妻も顔を出してくれたので軽く挨拶をして、ティナと共にいつもの応接室に入った。するとすぐにお茶を淹れてくれて、焼きたてのクッキーが出される。
「めちゃくちゃ良い匂い」
「分かります。クッキーは香りから楽しめるとても素晴らしいお菓子です」
そう言って頬を緩めているティナと共にクッキーを一枚ずつ手に取ると、より甘くて幸せな香りが部屋中に広まった。サクッという固めの食感を感じながら口に含むと、サツモの甘さとムギの香ばしさが口の中を満たす。
「やっぱり美味しいね」
「本当ですね。サツモは蒸してそのまま食べるのも美味しいのですが、私はクッキーにした方が好きです」
「俺もかな。どっちも美味しいんだけどね」
クッキーを一枚食べ切ってからお茶を口に含むと、甘くなった口の中に今度はさっぱりとした美味しさが広がった。この贅沢をこの世界でも堪能できるなんて……幸せだな。
「領地での成果はいかがでしたか。フィリップ様が望んでいたものはあったでしょうか?」
「うん。実は……イネがあったんだ」
「まあ、そうなのですね! パンの代わりになるものでしたよね?」
「そう。収穫期のイネがあったから調理して食べてみたんだけど、感動的な美味しさだったよ」
思い出すとまた食べたくなってしまう。この世界で初めてパンを作れた時も感動したけど、今回もあの時と同じぐらいの感動だった。
パンとコメってどちらも主食に分類されるから、同じようなものっていう人もいるけど、俺の中では全く違うものなんだよな。
「それは食べてみたいですね」
「領地の料理人に頼んでおいたから、ティナも食べられるよ。あっ、そうだ。ティナと家族皆が領地に転移するのは明後日の予定なんだけど、それでも大丈夫?」
「明後日ですね。問題ありません」
「それなら良かった。じゃあ明後日の朝に馬車をここに迎えに寄越すから、それに乗ってうちの屋敷に来て欲しい」
「かしこまりました。楽しみにしています」
ティナと一緒に領地に行くのが楽しみだな……将来的に俺は侯爵位をもらって領地も貰うんだろうから、ティナと一緒に領地経営をするかもしれないんだよな。
――将来が楽しみだ。
「領地には孤児院があるのでしょうか?」
「ううん、うちの領地にはないよ。もともと小さい頃に親を亡くした子供達は近所の家に引き取られたり、教会に入ったり、住み込みで屋敷や私兵団で雇ったりしてたから」
王都よりも人口が少ないからそれで回っていたのだ。これからは死亡率が下がって人口は増えていくだろうから、領地でも孤児院設立を考えないとかな。
「それは素敵ですね」
それからも俺はティナとのんびり話をしながらクッキーとお茶を楽しんで、二時間ほどカルフォン伯爵家に滞在した。
「今日はそろそろ帰るよ。明日は王宮に行かないといけないんだ」
「そうなのですね。皆様にご報告ですか?」
「そう。あとはライストナー公爵領だけじゃなくて、他領でも新たな植物や魔物を見つけたいなと思ってるんだ」
「もう他領にもというお話が出ているのですね。そういえば、お養父様とお養母様も領地改革のことについてお話をされていました」
カルフォン伯爵家でもそんな話が出てるのか。そういう貴族がいるのなら、騎士と冒険者の派遣先は立候補制にしても良いかもしれないな。領地を改革して新たな作物を見つける気概のある貴族との方が、交易を整えるとしてもやり易いだろうし。
「ファビアン様達と話をしてからだけど、カルフォン伯爵と話をする可能性もあるかも」
確か伯爵領はライストナー公爵領からかなり離れていたはずだから、新たな魔物や作物を見つけるという点でも好条件だ。
「お養父様が喜びます。お養父様はフィリップ様のことを尊敬されていますから」
「そうなんだ……なんかそれはちょっと恥ずかしい」
「ふふっ、顔が赤いですよ」
「うぅ……だって尊敬って嬉しいから」
フィリップになって崇拝されたことは何度もあるけど、尊敬されたことって意外とないんだよな。尊敬って俺がティータビア様から知識を賜ったことというよりも、俺の働きを評価してくれているようで嬉しい。
「私もフィリップ様を尊敬しております。立場に驕らず、かと言って責任を負わないということもなく、誠実にこの国のために働いてらっしゃる姿は、とても素敵です」
ティナはそう言ってから、俺に向かって綺麗な笑みを浮かべてくれた。俺はその笑みに見惚れて、さらに言われた内容にめちゃくちゃ照れて、顔が真っ赤になったのが自分で分かった。
「……ありがとう」
「こちらこそ、いつも私達のためにありがとうございます」
そうして最後にはティナに思いっきり照れさせられて、ふわふわした気分でカルフォン伯爵家の屋敷を後にした。
これからも頑張ろう。俺は今まで以上に気合いが入り、すぐにでも仕事を始めたい気分で馬車に揺られた。
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