第152話 コメのお披露目
皆が領地に来て数日が経過し、昨日の午後に皆は王都に戻った。俺はこの数日は皆と一緒にのんびりと過ごしていたので、今日からは遅れを取り戻すためにもバリバリと仕事をこなすつもりだ。
まずは何よりも先にコメの量産体制を整えないといけないので、今日は領民にコメのお披露目会をする予定でいる。クレマンを始めとして領都邸の使用人の皆が手伝ってくれてお披露目会の準備は済んでいるので、後は俺が上手くやるだけだ。
「父上、そろそろ向かいましょう」
「そうだな。今日は頼んだぞ」
「もちろんです」
一応父上も隣にいてくれることになったけど、主に説明するのは俺なので頑張らないと。俺はニルスに色々と荷物を持ってもらって、屋敷から出て街中にある広場に向かった。
広場には大きな木製の台が置いてあって、その上にテーブルが設置されている。俺はその台の上に登って、机の上にはニルスに持ってきてもらったイネやコメを置いた。
「旦那様、フィリップ様!」
台の上からぐるっと辺りを見回してみると、見学のために多くの領民が集まってくれているのが分かる。前の方にはできる限り参加して欲しいと頼んだ、農家の皆が真剣な表情でいる。
俺はそんな皆を見回して一度深呼吸をしてから、皆に届くようにお腹から声を張った。
「皆、集まってくれてありがとう。今日はイネという植物のお披露目をするよ。これは近くの森の中に生えていたもので、とても優秀な作物なんだ。これからこの領地の特産品にしたいと思ってる。だから皆にはイネを大量生産して欲しいんだ。ということで、今日は真剣に話を聞いてくれたら嬉しい」
「皆、イネはとても美味しい作物だった。ムギから作られるパンを食べたことがあるだろうか? その代わりになるようなものだ。皆が一般的に食べているものと比較したらジャモだな。ジャモの代わりに毎日食べるものになるだろう。その認識でイネを見てほしい」
俺の言葉の後に父上が補足をしてくれて、集まってくれた皆はイネに興味津々な様子になった。机の上に置いているイネを見ようと身を乗り出している人がたくさんいる。
「まずはこれを見てほしい。これが収穫して何も手を加えていないイネだよ。これが地面から生えてくるんだ。食べられるのは先についている細かい種みたいな部分。ここが実なんだ」
そう言いながらイネを持ち上げると、イネは風に吹かれてサラサラと揺らめいた。イネが風に揺れてるのって綺麗だよな。
「確かにムギみたいだな」
「ムギと味は違うんかね?」
「食べてみたいな」
そんな皆の声を聞きながらしばらくイネを掲げて、次は外皮などを取り除いたコメを皆に見せる。これはお皿に載せてあるから見づらいかな……
「これがさっきのイネの外皮などを取り除いて、中の実を取り出したものだよ。この状態になったらコメっていうんだ。……見えないかな? これから皆にはコメを少しずつ食べてもらうから、それを取りに来てもらうときにコメも一緒に見てほしい」
俺はそう言ってコメが載った皿を机に下ろすと、クレマンに合図をして使用人の皆に炊いたコメを持って来てもらった。
いくつもの大きな鍋に入った熱々のコメは、お腹がすく香りをあたりに漂わせる。
「森の中で収穫期のイネをたくさん集めてもらって、それをコメにして少量の水で茹でた、正確には炊いたっていうんだけど、そうして調理したものだよ。何も味をつけてない状態で食べてみてほしい。少し甘みがあってもちもちしてて美味しいと思うんだ」
俺のその言葉を聞いて、皆は鍋に興味津々だ。
「なんか良い香りがするな」
「あんまり嗅いだことない匂いじゃないか?」
「美味いのかな」
「前にいる方から一列に並んでください。こちらで炊く前のコメを見てから、こちらで一口分ですが炊いたコメを受け取って食べてみてください」
ニルスがそう言って領民の皆を誘導してくれたので、スムーズにコメの試食を始められた。まず一番に来たのは、一番前で真剣な表情で俺の話を聞いてくれていた農家のおじさんだ。
「ほう、これがコメか……硬い質感だな」
「うん。そのままだと食べられないから、何かしら火を通さないとなんだ。茹でたり煮込んだり、基本的には水気があるもので調理するよ。そのまま焼くだけだと、そこまで美味しくないかな。焼くにしてもまずは茹でてから焼いたほうが美味しくなる」
「火を通しただけだと柔らかくならないんだな。ふむ、面白い。ではそちらをいただこう」
ニルスがスプーンに掬ったコメをおじさんの掌に載せると、おじさんはいろんな角度からコメを観察して匂いを嗅いでから口に入れた。そして数回咀嚼して驚きの表情を浮かべる。
「これは食感が面白いな……今までにないものだ。確かに噛めば噛むほどに少し甘みが出てくる。うん、美味いな」
おおっ、気に入ってもらえたみたいだ。農家に気に入ってもらえるかどうかはかなり重要だから良かった。第一関門突破だ。
「これを育てるのはやりがいがある仕事だな」
「そう言ってもらえて良かった。農家の皆にはこれから頑張ってもらわないとだから、よろしくね」
「ああ、任せておけ」
そうして最初に高評価を得たコメは、その後も皆に大絶賛された。
「おおっ、これは新しい」
「俺は凄い好きだ」
「あら、とっても美味しいじゃない!」
俺は皆のそんな感想を飽きもせずにずっと聞いていた。領地の特産品にするには皆が気に入ってくれないと始まらないからな……本当に良かった。それにコメの美味しさを分かってもらえて凄く嬉しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます